KJK.魔法少女にあこがれない
キリのいいところまで追記
「そう言えば、なぜ舞雪は魔法少女にならんのじゃ?」
天花寺に言われて私に待機の伝令と、ついでに騒動が終わるまでの避難にやってきてマンガを読んでいた華蓮が本を読む手を止めて顔を上げてそう言った。
「ま、魔法少女が嫌いだから」
「とりつくしまもない回答じゃのう」
だって、それ以上に言う事ないんだもの。
「どうせなら舞雪と共に戦ってみたいのじゃが」
「い、一回やったろ」
弱男怪人の時に。で、私はなんの役にもたたず、奈南、紅林ペアに助けてもらったと。
「え?ってかそもそも舞雪って魔法少女じゃないの?さっきのアレって変身でしょ?」
「へ、変身は変身だけど、私は、怪人、だから。お、刑部たちに対立してたのが、私とか桜沢先輩」
「そうなの!?」
「あ、あと榊先輩も」
「この辺に男の怪人とか幹部とかいたっけ……?」
「……一番露出が多いのが榊先輩」
「えぇ……あの人そういう人だったんだ……」
割とそういう人なんです。はい。
「でも怪人から魔法少女になった人間もおるし、やる気を出せばできるのではないか?」
「だ、だから私はなれるなれないじゃなくて、魔法少女にはなりたくないんだって」
「華蓮。舞雪が嫌がっているから、もうその話やめよう。ね?」
「むー……」
私が魔法少女を嫌う理由に思い当たったらしい黒浦さんがそう言って華蓮を止める。
「でもせめて理由が聞きたいのじゃ」
「――か、簡単な話。わ、私をいじめていた奴らが魔法少女好きだから」
もともと正義の味方みたいなのが好きではなかったほうだし、悪役にシンパシーを感じるひねくれものではあるのだけど、一番の理由は魔法少女クローニクが始まって、魔法少女ブームが来たときに奴らが魔法少女について熱っぽく語っているのを小耳に挟んだことがあって、それ以来私は魔法少女が嫌いなのだ。
別に魔法少女に嫌な思いをさせられたとかそういうことではなくて、マナーの悪いファンのいるスポーツが嫌いとかそんな感じの、正直魔法少女からすれば言いがかりみたいな理由だ。
「なんじゃ、それならやっぱり舞雪は魔法少女になるべきじゃ」
「いやいや。華蓮、ちゃんと舞雪の話聞いてた?」
「もちろんじゃ。舞雪をいじめたやつらが魔法少女を好きだというのなら、そいつらがなれなかった魔法少女に舞雪がなったら悔しがるじゃろ」
「……おお!」
華蓮の言葉に納得したように手を叩く黒浦さん。
って、いや、ポン。じゃないんですよ、黒浦さん。
幼稚園児に説得されないでくださいよ、黒浦さん。
「それいいじゃん。ねえ舞雪」
「い、いや、そもそもなれるかどうかわからないし」
なれたとしても、私なんてどうせ大して強くもないし、役にもたたないだろう。私は信楽とは違うのだ。
「なれるかではなく、なる。のじゃ。まずは変身の練習からじゃ」
そう言って華蓮が変身をしてみせると、黒浦さんが歓声を上げる。
「おおっ、華蓮すごい!」
「のじゃのじゃ。舞雪も磨墨もやってみるといいのじゃ」
「え?私も?」
「のじゃ!味方は多いほうがいいからのう」
「お、お前、もしかして私と黒浦さんを巻き込んで怪人退治をして点数を稼ごうとか思ってないだろうな」
「な、なんのことかのう。華蓮わかんなーい」
図星をつかれたからか一人称変わってんじゃねえか。
「でも本当に変身できたら私の両親ももとに戻せるんだよね」
黒浦さんはそう言って窓の方に目をやる。
……まあ、私も別にこの一年、特に後半半年は遊んでいたわけではないので、最初に華蓮と出会った頃のようにその辺の怪人に遅れを取るようなことはないわけで。
正直、この部屋に黒浦さんの両親を連れてくるわけにもいかないし、もとに戻した両親にクロウラーとしての姿について聞かれるのも面倒臭いので放置していただけだったりするっていうのはある。
「ならば儂が行って磨墨の両親を元に戻し――」
「や、やめとけ。お前、別にあのころから強くなってないだろ」
事情はよくわからないが、魔力の強化について禁止されているらしい華蓮は弱男怪人に手も足も出なかったあのころから変わっていない。つまり、おそらくは黒浦さんの両親を戻すことはできないと思う。
「そ、そもそも天花寺からの命令は私と一緒に待機だろ。お、おとなしくしてろ」
「それはそうなのじゃが、だからと言って友達の心痛をほうっておくのもどうなのじゃ?魔法少女が好きとか嫌い以前の話ではないか?」
「……お前、本当に4歳児か?」
「大体そのくらいじゃぞ?」
なんか言い回しの端々にもっと年行ってそうな感じを受けるんだよなぁ。
「儂には無理でも舞雪ならどうじゃ?できるのではないか?」
「で、できないことはないけど、もとに戻しても保護できないんだし状況が落ち着くまでほうっておくしかない」
「別に戻した後で磨墨の家でじっとしていてもらえばいいだけじゃろ」
「そ、それはそう、だけど」
一応黒浦さんの両親とは顔見知りだし、結局私がクロウラーの姿をしていることについて説明する必要が出てくるんじゃないかそれ。
「華蓮、もういいから。天花寺の判断通り待機してよう。きっと天花寺とか、天花寺とか天花寺とかが元に戻してくれるから」
そう言って少しすねたような顔でこっちを見る黒浦さん。
なんかこう、そこはかとなく『お前あたしより天花寺の言う事が優先なんだな?ふーん』みたいな圧を感じるんですけど。
個人的にはそういう黒浦さんも嫌いじゃないですけど、今はちょっとやめてもらえないかなと。
「ね?舞雪?」
「う……」
駄目だ駄目だ。ここで負けてはだめだ、元に戻しても、もう一回怪人になる可能性だってあるし、そもそも怪人同士は争わないから今のままのほうが安全……そうだ、これだ!
「ぎゃ、逆に今、怪人になっているのは安全と言えば安全なわけで。か、怪人は怪人を襲わないですし、し、信楽のチームメイトがきっといい感じにやってくれるはず。だから私たちはちゃんと指示に従って待ってるのが、せ、正解」
「そうだね、正解だね」
なんか圧が!圧がどんどん強くなってるぅっ!
「そ、そもそも、私、悪の組織の怪人……」
「悪の怪人が友達のために正義に目覚めるとか、なんかこう、いいシチュエーションだと思うのよ」
……まあ、それは私もちょっと思うけれども。思うけれども、やっぱり思うのと出来るのは違うわけで。
そんなことを考えていると、外から大きな破壊音が聞こえてきた。
多分、信楽の仲間が到着して怪人の処理を始めたんだろう。最初は私にも負けるようなレベルだったので心配だったけど、この一年で信楽と風谷、國府田以外のメンバーも成長して私より強いメンバーもちらほらいるようになった。彼女たちが来たのならば安心だ。
私はそう思ったが、すぐに終わると思っていた戦闘の音がいつまで経っても終わらない。
「なんか長くないかの?」
華蓮も同じ様に気になったのだろう、窓を開けてベランダに出て行き、そしてすぐに「大変じゃ!」と言いながら戻って来る。
「なになに?魔法少女が負けちゃってるとか?」
「それより酷いのじゃ!知らない魔法少女達に怪人がいじめられてるのじゃ!」
「え、どういうこと?」
黒浦さんと一緒にベランダに出てみると、道路の真ん中に怪人が倒れていてその怪人を中心に大きなクレーターができていた。
そして、その怪人に足を乗せて踏みつけている魔法少女が1人。その光景を遠巻きに眺めている魔法少女が4人。
「これで何体目だっけ?」
「あんたはこれで5体目だね」
「しっかり撮れてる?」
「もちろん。ってわけで今度はあたしね」
そう言ってスマホを構えていた魔法少女は怪人を足げにしていた魔法少女にスマホを投げ、別の魔法少女が無理やり引きずってきた怪人を倒れていた怪人のそばに放り投げる。
「あれ……パパとママだ……」
黒浦さんが顔を青くして絞り出すようにそう言う。
「じゃああたしは2体まとめてやるからしっかり撮っといてよ」
「つかその倒れてるの、私が弱らせたやつじゃん」
「細かいことはどうでもいーんだって。もっと実績ほしいなら怪人なんてそのへんにいくらでもいるんだからさ」
「まあ、そりゃそうなんだけ、どっ、と」
足げにしていたほうの魔法少女がそう言ってもう一度怪人を踏んで飛ぶと、それと入れ替わりにさっきまでスマホを構えていた魔法少女が転がされた怪人の脇腹を蹴り上げて、倒れている怪人も巻き込んで道路脇の民家の壁に叩きつける。
「舞雪!」
華蓮に名前を呼ばれてハッと我に返ると、華蓮だけでなく黒浦さんも私を見ていた。
「あ、あの……えっと……」
「……儂は一人でも行くぞ。あんなどこの馬の骨ともわからぬ野良魔法少女に好き勝手やらせていては戦技研の名折れじゃ」
「て、天花寺からの指示は、待機、で、待機、だから……」
何を言っているんだ自分は。何を言おうとしているんだ、気持ち悪い。
こんなこと言いたいわけじゃない。頭ではこんなこと言うべきじゃないのはわかっているんだ。
わかっているのに。
「華蓮、だめだよ。待機だよ。華蓮が怪我しちゃうから」
そう言って華蓮の手を掴む黒浦さんは泣いていた。
待機なんだ、待機。待機していなきゃいけないんだから
「待機、していないとだめ、だから」
「舞雪!」
「お、お前、前に何か悪いことしたんだろ?だからちゃんと指示に従わなきゃだめだ!」
「知らん!あんな奴ら放っておくほうが駄目に決まっているだろう!」
「だ、だから――――」
駄目だ、駄目だ。それ以上言うな。やめろ。言うな。
「――私が行く。か、華蓮は、黒浦さんを頼む」
「舞雪……」
「風谷と國府田って頼りになるやつらがいるはずなんで、そいつらが来るまでの時間稼ぎくらいなら、できる、から」
多分、きっと。できる……はず。
私はそう自分に言い聞かせながらクロウラーの姿へと変身する。
「じゃあ、行ってくるから」
ああ、怖い。本当に怖い。
なんだってこんな怖い思いをしなきゃならないんだ。
自宅のベランダから跳んだ私は、何軒かの屋根を踏み抜きつつ近づき、黒浦さんの両親にさらなる追撃を入れようとしていた魔法少女に狙いを絞る。
「これでスコアプラス2――」
魔法少女が言い終わらない内に私のキックが顔面に入り、魔法少女は何度か跳ねてから民家の壁にぶつかって止まる。
「な、なんだお前!」
「うるせえ、私の名前も知らないようなモグリの魔法少女が、よくも好き勝手やってくれたな」
「もしかしてこいつ、幹部級じゃねえの!?」
「マジか!こいつをやれば怪人何人分の評価になるんだろ」
「とりあえず囲め囲め!全員でやるぞ!」
私が蹴り飛ばした奴も起きてきてあっという間に5対1。
ああ、本当に卑怯な奴らだな、魔法少女ってのは。
「あ!思い出した!私この人KJKのミニ番組で見たことある!」
野良魔法少女の一人がそう言うと、カメラ役を代わった、さっきまで黒浦さんの両親を虐待していた魔法少女が少しバツの悪そうな顔でこっちを見る。
「え!?じゃあ正規の魔法少女ってこと?」
「うーん、どうなんだろ。確か敵幹部役ってことで出てたし、でもほら、敵幹部がガチの敵でキャスト当て企画が実は指名手配だみたいな噂あったじゃん?あれが本当ならガチ日本の敵だし」
「怪人庇ってるし、ガチ敵ってことでいいんじゃない?」
「つか、魔法少女だとしても、魔法少女より私らのほうが強いってなったらきっと国だか自衛隊だかも採用してくれんじゃね?」
「だよね、きっとそうなるよ」
私は正規の魔法少女じゃないけれど、こんなことした上に正規の魔法少女に喧嘩売ってそんなことになるわけあるか!
「ねえ、そこんとこどうなの?」
そう言ってこっちを見た野良魔法少女の顔に、私は見覚えがあった。
星野キララ。
転入したてのころ、クロウラー事件で私をいじめたグループの中心人物だ。
「えっと……ねえ?あの人名前なんて言うの?」
星野が、私を知っていると言っていた魔法少女に尋ねる。
「確かクロウラーじゃなかったかな」
「クロウラー?なんか昔そんな名前で自己紹介してきた転校生がいたなあ」
そう言って私を見る星野の目は、あの時の、こちらを人と思っていないようなあの目で。
「あんたの家って確かこのへんでしょ?このクロウラーって奴、案外そいつだったりしてね」
「だとしたら楽勝だわ。逃げ回ってなんか先輩達の後ろにくっついてるだけのやつだったから」
嘲笑混じりにそう言ってから星野が私を睨む。
「それでさあ、あんた白縫舞雪だったりする?」
「わ、私、は……その……」
「ああもういいや、白縫でも白縫じゃなくても楽勝だ。お前みたいなのには強いんだよ、私」
そう言いながら星野は右手で作った拳を左手にぶつけてパンと甲高い音を立てる。
「つーわけで、三匹まとめて私らが正規の魔法少女になるための生贄になってもらうから」
「く……」
きっと風谷と國府田が来てくれるはずだ。そのはずだけど、1人で逃げ回るとかならともかく、2人が来てくれるまで私だけで5人相手に黒浦さんの両親を守るのは無理だ。
だったら――怪人でなくして逃がせば良い。
「なにしてんのよ!」
「か、怪人をもとに戻しただけだ、けど?」
星野の怒鳴り声を聞いて、私の声が上ずる。
「んなことは見りゃあわかるんだよ!なんで私らの手柄をなくすようなことすんだって言ってんだ!」
「て、敵の幹部が魔法少女の邪魔をするのなんて、じょ、常識、だろ」
「はっ、ビビり散らかした声で何言ってんだか。ほんと、そのビビってるくせに強がる感じの態度、あいつと被って苛つく!」
「お、お前がムカつこうが苛つこうがどうでもいいし」
「いいわけあるか、お前やあいつみたいなののせいで私は中受失敗してんだよ!」
「いや、そりゃあんたの努力不足だろ」
「てか星野バカじゃん」
「うるっさいなぁ!あいつが黙っていじめられて先輩達や教師にチクらなきゃ私はもっといい学校いけたんだよ!」
そっちの奴の言う通り努力不足の言い訳、ただの八つ当たりじゃねえかふざけんな。
「ああ、もうホント腹立つ。腹立つこと思い出させた罪でてめえは徹底的にボコるから覚悟しろよ」
5対1でまともに戦うわけがないだろうが。
とりあえず逃げながら各個撃破か、でも魔法少女の相手をするのって怪人を元に戻すのとはわけがちがうんだよなぁ。
そんな風に私がこれからどう戦うかを考えていると、突然光が一閃し、その光に撃たれた2人の魔法少女が変身解除され、男の姿に変わる。
「だ、誰だ!」
そう叫ぶ星野の視線の先を追った私の目に映ったのは、TS怪人となぜか少し誇らしげに勃…立つ、弱男怪人の姿だった。
考えてみるとTS怪人って魔法少女特攻のめちゃくちゃ強い怪人なのでは……?




