ベースボールボール・急ノ上 パート2
第一印象は──白。
頭頂から爪先まで、透き通るように純白い体。
しかし。目だけが燃えるように、赤い。
振り返った視線の先にいたそんな少女を見て、俺は。
──驚いた、なんてものじゃあなかった。
この驚きを例えるとなると、そう、ちょうど『アンパンマン』の『チーズ』の声優が山寺宏一だと知ったときの衝撃に匹敵しよう……もしくは。『ドラえもん』の『スネ夫』の声が関智一だと知ったときに。
………………。
少女から視線を引き剥がして、俺は部屋を見回した。
(……なんつーか。簡素っつーか、なにもないってゆーか)
誰も──いないと、いうか……!?
驚いた、というなら。ならばその時だった。
(あれ……? ちょっと待て! 『誰も』、だと!?)
いない。俺とその少女以外は、誰も。──なら。
(“あいつ”。“あの男”は、どこに行ったんだ……?)
あの男。すなわち、
『吸血鬼』は……?
目を閉じれば思い出す。あいつは、あの『吸血鬼』は、
──まごうことなき“変態”だった。
……いやマジで。あえて描写せずにいたが。──あいつはマントを羽織ってきた。しかし身につけていたのはマント“だけ”だったのである……。
その変態度は、全裸の比ではなかった。
(……まあ、それは)
それはこの少女も同じだが……。
純情男子高校生こと俺は、ちらっと──本当にちらっと──横目で少女を見る。
……見えてる見えてる。見えちゃいけないところが色々と。
ていうかヤバいな。この娘どう見ても中学生くらいにしか見えないんだが。
都知事に怒られてしまう。
なんでこいつあの変態と……。…………。
(あれ? 待てよ。待て待て待て。一旦落ち着こう)
その少女は、安楽椅子に腰掛けているのだ。……だが。それは、そこに座っていたのは、あの『吸血鬼』だったはずだ……!
『吸血鬼』と同じ格好で。『吸血鬼』がいたはずの場所にいる。この少女は一体、何者なんだ……?
(……頭が痛くなってきた)
出直そう……と、ドアノブに手をかけ……て……?
「あ、あれ? なんだこれ」
ノブは回っている──だが。いくら力を込めても、押しても引いても何しても。全く扉が、開く様子を見せない──まるで。まるで何かにせきとめられているような……?
戸惑う俺をよそに、少女もまた足を組んで、腕を組んで。なにやら考えているようだった。
「うーん、しかし存外うまくいったなあ、これ。テケテケの手前“解く”わけにはいけなかったから、どうしたもんかと思ってたけど……。いや、っていうより、テケテケが“女の子”だから助けたとばかり思ってたんだけれど──違うのか。男でも助けるのか。……いや、なあんか違うな」
少女はうんうん唸っていたが、やがてポンっと手を打つと、勢いよく立ち上がって俺に言った。
「……わかった! つまりきみはバイなのか!」
「おいコラてめえ! 初対面の相手にいきなりなんてこと言ってやがんだ!!」
立ち上がったせいで、色々と目によくないものが映ったが、俺は目を逸らさずに突っ込んだ。……くそう、つーか女のハダカを見るのとか初めてなんだが。
なんていうか……ありがとうございますっ!
っていかんいかん。相手のペースに乗るな。
自分のペースに持ち込むべく、俺は混乱する頭で、突っ込みを、
「誰だお前どっから出てきたどこで俺の名前知ったなんでハダカなんだ吸血鬼はどこ行ったこの扉はどうして開かないんだ──」
「まあまあ。まあまあまあまあ」
少女は言う。笑いながら、嗤いながら。俺の台詞を遮って──
「落ち着きなって、高校生。お茶淹れるからこっち来なよ、コイバナしよーぜコイコイー」
……まあ、ツッコミの哀しい性というか。
俺は言った。
「花札のルールなんて、知らねえよ」
「じゃ、トランプでいーや」
いつの間にか。手に持っていた『花札』の束を放り、少女はどこから取り出したのか53枚からなるカードの束──『トランプ』を顔の前で振り。
にこり。と。笑い。
「ダウトでいいかな? 答えは聞いてない」




