第一話
ゴールデンウィーク……日本では最も有名な長期休暇、今年は最長九日間とれると言う休暇の初日。高藤秀頼はコンビニで買ったコーヒーを片手に近所の公園へと向かっていた。
ベンチで鳩でも眺めながら一服しようと言う算段だった。
「はぁ……」
辿り着いた公園の入り口で、秀頼は盛大なため息をついた。
いつもは閑散としている公園が人でにぎわっていたのだ。
「フリーマーケット……?」
入口に立てられた看板で混雑の理由を知る。
人混みの苦手な秀頼は一瞬そのまま帰ろうと思った。が、手に持ったコーヒーはアパートに着くまでに冷めてしまうだろうことに気づき、仕方なく公園の中へと足を進める。
フリマ会場は大噴水を囲む一帯だけ。奥へ行けばベンチも空いてるだろう。
古着から車のパーツ、アンティークかがらくたかの区別もつかない何か。そんな物が並べられているフリマ会場をたらたらと歩く。
興味は無かったが、いざ見てみると意外と面白い。
良さげな物があったら買っても良いかも? などと考えながら歩いていると、会場の端、ビニールシートに並べられた色とりどりの小箱が目についた。
売り子は目深にフードをかぶった魔女を思わせる老婆。この場にそぐわないその風貌は、だがシートの脇にある歩行補助用の乳母車で辛うじて現実に繋ぎ止められていた。
「兄さん、なんか買ってくかね?」
嗄れた老婆の言葉にシートの上の小箱を見る。
化粧箱やら宝石箱、オルゴールみたいなのもある。
オルゴール以外はちょっとした小物入れに良さげで、秀頼はいくつか手にとって見比べる。
赤と黒の市松模様や神話の戦いをモチーフとしたような浮き彫りがあるもの、妙にツルッとした質感の黒い箱など、小綺麗だがどこか呪物めいた怪しさを放っている。
中でも目を引いたのが、角の生えた女性の顔のレリーフがある翡翠っぽい小箱。
貼られた値札には値段は2,980円とあった。
本物の翡翠ならばこんな値段のはずも無いので恐らくイミテーション。
自分の部屋には似合いそうもないと思いつつも、秀頼にはなぜかやたらとその小箱が気になった。
財布を取り出し中を覗くと丁度三千円が入っている。
買えちゃうな……
最近は電子決済ばかりを使っているので、財布に幾ら現金が入っているか知らなかった。足りなければ諦めるつもりだったが、幸か不幸か足りてしまった。
「これください」
言って秀頼は財布から三千円を取り出す。
「まいどあり」
老婆は翡翠の小箱をビニール袋に入れ、お釣りと一緒に渡してくれた。
秀頼は公園の奥のベンチの座り、コーヒーを飲みながらビニール袋の中を覗き込む。
くすんだ緑色の小箱。蓋には魔法陣の様な文様があり、正面には角の生えた女性のレリーフ。悪魔と言うよりは精霊神話の女神の様な風貌。
なんでこんな物欲しくなったんだろ、そもそもこんな箱に入れるような小物なんか持ってもいないのに……
秀頼は、苦笑して顔を上げる。
少し離れた所に見えるフリマの喧噪。
よく見ると売り手も客もアベックが多い。一人でいるのは秀頼くらいだった。
長期連休の初日、9日続く休みの中、予定のある日はただの一日も無い。
完全にぼっちだった。
「オレも彼女欲しいな……」
独りごち、手にしたビニール袋を見る。
こんなアベックばっかりだと先に気づいてたら、これを買うこともなかった。
中の小箱に奇妙な縁を感じながら、秀頼は帰路についたのだった。




