第1話 お前の【毒】は地味すぎるからクビな(笑)
「―――おいトウマ。お前、クビな。」
鼻クソでもほじりそうな勢いでそう言ってきたのは、Sランクギルド『聖なる光』のリーダーで、世間から『勇者』とか持ち上げられている男―――ガルガだ。
ガルガは高級そうな大理石のテーブルにドカッと土足を乗せて、1枚の紙を俺の顔に投げつけてきた。
見ると【解雇通知書】って書いてある。ウケる。
「…クビ…?」
「当たり前だろ?お前みたいな無能をおいてやった俺の優しさに泣いて感謝しろよ?ギャハハ!」
ガルガが下品に笑うと、後ろにいる取り巻きたちも一斉にクスクス笑い始めた。
「当然よね~。アタシたちのギルドは、ハデな攻撃魔法でドカンと敵をやるスタイルだしぃ。なのにアンタのスキルって…【毒生成】?…キモっ。地味すぎるしマジでいらな~い。」
そう言って俺を鼻で笑ったのは、魔術師のミーシャ。今日も俺が作った魔力ポーションをがぶ飲みしたくせに、脳みそハッピーセットかよ。
「おいおい、トウマにだって仕事はあっただろぉ?俺たちの靴磨きとか、荷物持ちとか、ダンジョンのゴミ拾いとかな!」
大盾使いのザボスが腹の肉を揺らしてゲラゲラ笑う。俺は心の中でめちゃくちゃ冷めた目をしていた。
(いや~、お前らが無傷でイキっていられるのって全部俺のおかげなんだけどな…)
こいつらはマジでアホだから全く気づいていない。
ガルガたちの武器に、敵の防御力をゼロにする『腐食毒』を塗ってあげていたのも、魔物の群れに、あらかじめ『弱体化毒』を仕掛けてクソ雑魚にしていたのも。
あと、ダンジョンの最深部にある、吸ったら即死する『ヤバい瘴気』を、俺が全部『解毒』して無効化させてあげてたんだけどな。
こいつらがドヤ顔でダンジョンに突撃している裏で、俺はめちゃくちゃ効率良く裏方の仕事をこなしていたのだ。
おまけに、こいつらが使ってる高級ポーションも俺のスキルで作った特急品だ。
「大体よぉ、お前が作ったポーションを業者に見せたら『こんなのただの安物だ』って言われたぞ?変なもん混ぜてんじゃねぇの?」
ガルガがケケケと笑った。お前が高額で売った俺のポーションを中抜きしてキャバ嬢に貢いでるの、知ってるからね。
「反論もできないとか、マジで使えないゴミだな。」
ガルガは俺の胸元から、Sランクギルドの証であるゴールドプレートをベリっと乱暴に引きはがした。
「よしお前ら、寄生虫が消えた祝いに今夜はパァーッと飲みに行くぞ!トウマ、お前はその辺の雑魚モンスターにでも殺されてろ。」
「ガルガくんって、やっぱり強いんだね。」
「ギャハハハハ!ガルガさん最高ー!」
俺は何も言わず、お辞儀をしてさっさと応接室を出た。すがりつくと思っていたのか、ガルガがチッっと舌打ちしたけど無視無視。
やったぜ!俺はめでたくブラック企業から解放されたのだった。
俺はギルドの重い扉を閉めた瞬間、テンションMAXになった。
毎日奴らのパシリをさせられて、寝ずに毒を調合する日々。それがやっと終わったのだ。最高すぎる。
手持ちの金は、ガルガに中抜きされたせいで銅貨3枚しかない。完全に一文無し。
でも、夕暮れの街を歩く俺の足取りはスキップしたいくらい軽かった。
「さて、あいつらの奴隷も辞めたし、街を出てテキトーに暮らすか~。」
のんきに王都のデカい門をくぐって街道に出る。もうアイツらのために毒を作る必要はない。これからは自分のためにスキルを使おう。
そう思った瞬間、
『——ピコン♪』
頭の中で、スマホの通知みたいな軽い音が響いた。
『条件:【理不尽なクビ】を達成』
『これより、固有スキル【神毒生成】をアンロック』
「え?アンロック?」
目の前に、ステータス画面がポーンと現れる。そこに書いて文字がものすごい勢いで書き換わって行く。
『【万象解毒・概念猛毒】に覚醒』
「うお、なんか凄そうな名前になったな。」
と思った瞬間、身体の奥からドクドクと、とんでもない魔力が溢れてきた。ちょっと右手に意識を集中してみる。
———ジジジ…。
「うわ、なんだこれ。」
俺の指先から、モワモワとした黒い霧が出てきた。なんと、その霧が触れた【空間】が、じゅわ~っと酸をかけたみたいに溶け始めている。
頭の中に新しいスキルの説明が流れてきた。
———【概念猛毒】
生き物だけじゃなく、魔法も障壁も空間も目に見えない色んなものを「毒殺」して消すことができる。
「え、これ魔法とか空間すら『毒殺』できるの?チートすぎる。」
自分の手を見つめて思わず笑ってしまった。
さっきまで「地味だ」「無能だ」っていじめられてきた俺のスキルは、世界を滅ぼせるレベルの神スキルになっていたらしい。
「あいつら、俺を捨てて大丈夫なのかな。…まぁ、俺には関係ないか!」
こうして、一文無しになった俺の、お気楽チート新生活が始まった。




