第5話「一緒なら――〜blue」
彼は微笑して「私はジュン。待っていたよ、ユミちゃん」
「待っていた……?」
彼はなお笑いながら「うん、君を別の場所へ送るために」
「別の場所? ――だからいないのね? お仲間さん達。どうしてそんなことを?」
「幸せになってもらいたいんだよ。さぁ、君の番だ」
「私は必要ないわ」と、ユミはきっぱりと言う「私も――いや、それより残念ね」
「残念?」
「なかったことになるんだから。お仲間さん達にしたことが」と、ユミは不満そうな顔で言う「戻ってくるわ、お仲間さん達」
「なんだって!?」
「でも君がしたことは覚えていないわ。――だから言ってあげる。お仲間さん達は望んで君のところへ戻ってくるわ」
「――ありがとう。――君は君のしたいことをして」と、ジュンは笑顔で言った。
「――うん」と、ユミも微笑して答える「――君のしたことをなかったことにしたのは、万が一を防ぐためよ」と、真面目な顔になって言った。
「万が一?」
「そう、それは――」
「私が話そう」
と、ジュンの背後からそう遮られる。
振り返ると、若い白人の男――長い金髪、青い目、利口そうな顔、中背、細身、ボタン上二つ開けて裾出しっぱなしの白い長袖ワイシャツ、黒いアンダーシャツ、赤いズボン、白いスニーカー――がいて「使い分けされたら面白くないからな。だからなかったことにしたんだよ」と、虚しそうに言う。
「君は誰だ? ――私を倒すために雇われたのか?」
「うん? 何を言っている? 私はミシェナスに会うためにここに来た」
「ミシェナスに?」
「そうだ。彼は利用できる。死なせたい相手がいるんだ」
「――なら送ろう」
「何?」
「君もチシンと仲よくな」
その瞬間、相手はぱっと消える。
「オンコ」と、ユミはジュンに言う「君は別の場所へ移動できないの?」
「できないよ」と、ジュン――オンコはふと微笑する「できたらよかったな。好きなところへ行ける。音威子府、美深、下川、中川、札幌――まぁ、できたとしても今は行けないけど」
「辛い?」
「全然。私には助けたい人が――えっ?」
「どうしたの?」
「移動していたんだ……私の助けたい人」と、オンコは困惑しながら答える。
「どういうこと? ――『私がやったのよ』」
「何? ――代弁しているのか。誰の?」
「『私が誰かなんてどうでもいい。私はお礼をしに来たの』」
「お礼?」
「『チシン君にはずいぶんお世話になったからね。だからそのお礼に君を倒すのよ』」と、ユミは顔を曇らせて言った。
「ハズレを引いたのか――ちょうどいい」と、オンコは右の手の平をユミに向ける「カードはない。ユミ、満足したのか教えてくれ」
「――うん、満足しているわ」
「そうか、ありがとう。――ユミ、私はカードがなくてもいい。君は君のしたいことをして」
ユミも笑顔になる。「ありがとう。――よかったね、“黄緑の眉毛”、探さなくてよくなった」
「えっ!?」
「そうよ? 移動したんだから」
「――いや、探すよ」
「どうして? ――ふふふ」
訳を聞くと、ユミは笑った。
「どうしたの?」
「可愛いなって。大丈夫よ、お仲間は――いえ、……私も含め――」
「ありがとう。――これは!?」
「どうしたの?」
「左目が見えない……」
「えっ?」
(どういうことだ……?)
〈失敗したのよ〉
(頭の中で!?)
〈眉毛を掻こうとしたら左目をやっちゃったの〉と、その声は苦笑しながら言う〈参ったわ。キミ達のようにどうとでもできないから。だからちょっと悔しいから同じ目に遭ってもらったわ。ごめんなさい。もっとも痛みまで再現してないのは私の優しさ。わずかに愛着があるからね、君にも〉
(……君は何者だ?)
〈創造主よ〉
(創造主? ――ふっ)
〈何がおかしいの?〉
(創造主なら治せるはずだからだ。君は創造主なんかじゃない)
〈――言い方が悪かったわ。私は筆者よ〉
(筆者?)
〈この作品のね。だから悔しいのよ。君はフィクション、私は現実なんだから〉
(そんなこと信じられるか。信じます。何!?)
〈――ふふふ、いい感情ね。――しかし困ったわぁ、片目。まさか自慢の黄緑の眉毛が牙を剥くなんて〉
(……私は君を信じない)
〈あら? なぜそんな自信を持って言えるの?〉
(黄緑の眉毛の人なんて現実にいないからだ)
〈――なるほど。だがもしいたとしたらどうする?〉
(私は何も変わらない。私は、私と私の大事な人達が好きだから)
その瞬間、オンコの左目は見えた。
「ありがとう」と、ほっとしているオンコにユミは笑顔で言う。
「ありがとう? 何が?」
「今の会話聞いていたから。私は代弁者だから。ありがとう、私も自信が持てたわ。――赤くなっている場合じゃないわ、オンコ。『君は“緑のカバン”を探さないといけない』」
「“緑のカバン”? ――代弁か。どうして探さないといけないんだ?」
「『この世界から逃げるために』……私、自信なくなっちゃった……」
「――一緒にいよう。大丈夫、必ず見つける。そして私達は勝つよ」
「――うん……」
――負けた。
〈了〉




