第1話「探し物〜start」
日本 北海道 智恵文市
令和八年 夏
午前九時 晴れ 月曜日
今日も涼しい
と、冒頭に設定を書いたが、これは書き忘れないための予防である。筆者が愚かじゃなければこんな予防はもちろんいらない。そう、筆者は愚かで、彼よりそれだ。
彼とは、
「天涯孤独という噂のある少年とは君だな?」と、話しかけられた――他に人がいない田舎の駅前で――少年のことだ。
少年――十代半ばの日本人、栗色の長髪、茶色い目、優しげな顔つき、中背、華奢、ボタン上三つ開けて裾出しっぱなしの白い長袖ワイシャツ、黒いアンダーシャツ、黒いズボン、白いスニーカー――はふっと笑い「幼馴染がこんなところで何をしているんだ?」と、聞く「学校はどうした?」その格好、忘れ物を取りに戻っている最中か? と少年は付け加えた。
と、学生服姿の男子はふっと笑い、だがすぐさま真面目な顔つきになる。
「オンコ君、“黄緑の眉毛”を探してほしい」
「“黄緑の眉毛”?」
「中三にもできることだ。やってくれるか?」
「やるよ」少年――オンコは躊躇いなく答える「見捨てることはできない。――タイムリミットは?」
「それはない。――しかしキミは勘違いをしているな」
「何? 何をだ?」
「利き手を見ろ」
オンコは右手を見る――その時にはすでにその手に六枚のカードが握られている。全てのカードは紙製かつ薄く、片面ピンク色、もう片面が緑色をしていて、オンコはそのピンクの面を臨む。
と、オンコはすぐに顔を上げる。同時にカードが手から消える。
「だがオンコ君、あまり悠長――」
「分かってる」と、オンコは遮る「別れよう」
相手が立ち去ると、オンコは考える。“黄緑の眉毛”を探すために。
(――病院へ行くか)
と、彼は駅前通りを西側へ行く。まっすぐ歩いて約二十分後、大きな病院に辿り着く。その間、車は走っていても人の姿はなかった。田舎ではよくある光景だ。
一方病院は違う。いつも混んでいる――だが、そのエントランスには現在誰もいない。だから当然オンコは不審に思う。
(なぜ誰もいない――?)
(ここだけか? もしそうだとすれば探す必要がある)
と、オンコは決めた。“黄緑の眉毛”――そんな容姿をした人をオンコは見たことがない。この智恵文市にはいないだろう――だが、ひょっとすると病院にいるかもしれない。入院しているから見かけたことがないかもしれない。そう考えてオンコは病院へやって来た。その病院は五階建ての大きさだけあって様々な充実した医療が受けられるから、近隣の市町村からも多くの人が来る。従って入院患者も沢山いる。探すべき場所だ。
「君」
と、オンコの背後で声がした。振り返ると、白衣を着た若い女性がいた。
「この病院には誰もいないわ」と、女性は微笑んで続ける「他を探しなさい」
(何?)
オンコは怪訝な表情で「君は何者だ? なぜ私が探し物をしていることを知っている?」
「私は医者よ」と、女性は答える「後者の質問には答えられないわ。でも私は善意で君に話しているのよ」
「――そのようですね」
と、オンコは病院を出た。
「ねぇ、君」
と、右から声。見ると、小さな女の子――小学校低学年くらいの日本人、黒いロングヘア、茶色い目、キュートな顔、小柄、華奢、黒い長袖ワンピース、白いスニーカー――がいて「私も“黄緑の眉毛”を一緒に探してあげるよ」と、笑顔で言ってくる。
「どうして“黄緑の眉毛”のことを知っているんだ?」
「私の名前を言ってみて!」と、少女は楽しそうに言う。
「えっ?」
「あれ? もしかして分からないの?」
オンコは頷く。
「君はこの街の人だよね?」と、少女は不思議そうな顔で言う。
「うん。でも君のことは知らない。――君は誰なんだ?」
「私はマミコ」と、少女はまた笑顔になって名乗った「よろしくね、パートナー」
「はっ? パートナー?」
きょとんとするオンコに「うん、だって“黄緑の眉毛”を一緒に探すんだから」
「手伝わなくていいよ」と、オンコはきっぱりと断る「家か学校に行きな」
「家か学校? どうして? 私にはどちらも行く理由がないわ」
「えっ?」
「だって私は“力”を持たされているから」
「“力”?」
「うん。あっ、別にその二つに限らないけどね。別に行きたいところないから。ねぇ、一緒に探していいでしょ?」
「駄目だ」
「どうして?」
不思議そうな顔をする相手に「会ったばかりの子供を連れ回すなんてできない。当たり前だろ?」と、オンコは言った。
すると少女は笑みを浮かべ「私は君を知っているよ。だから大丈夫だよ、オンコ」
「どうして私の名前を?」
と、彼が不思議に思った時「その子のお願いを受け入れたほうがいい」と、彼の背後でそう聞こえた。オンコは振り返る。
紫色の目と目が合う。その目を持つのは黒人の男子――十代半ば、腰まである白髪、優しげなイケメン、中背、細身、ボタン上三つ開けて裾出しっぱなしのグレーの長袖シャツ、黒いズボン、黒いスニーカー――だ。
しかし、ここで作者は言っておくことがある。黒人を登場させたのは、なんとなく出したいなと思っただけである。別に差別的な意図があるわけではない。
「君が優しい人間ならその子を同行させて」と、黒人は続けて言う「じゃないとまずいよ?」
「君は誰だ?」
「私は死神だ」と、相手はさらりと答えた。
「死神?」
「うん、私の近くにいる人間は死んでしまう。だが君は違うようだ。その子も」と、黒人はオンコの隣にいるマミコを一瞥しつつ言う「もっともその子は君と一緒にいるから無事なんだ。離れたら死ぬ」と、またマミコを見る「失礼。怖がらせてしまったね」
オンコも少女を見る。真っ青になって震えている。
オンコは黒人に向き直り「なぜ人を死なせたいんだ?」と、顔をしかめて聞く。
「ふっ、好きでそんなことしないよ。そもそもできないんだ、望んでそんなこと」と、相手は苦笑して答える「仮にできたとしてもやりたくない。そんなことしたら逮捕されるし、そもそもそんな酷いことする理由も意味も分からない」
「――運命なのか?」
「ああ、運命なんだ」と、相手は微笑して答える「だから親切をしたいんだ。いつか来る裁きの直前までね。――私の話、信じてくれるかな?」
オンコは頷く。「信じるよ」
「私も」と、マミコは微笑して言う。
「ありがとう、二人共」と、黒人は笑顔で言った。
「私はオンコ。君は?」
「ミシェナス」と、黒人は名乗り、微笑する「めちゃくちゃ久しぶりに会った人間が君達でとても嬉しいよ」
「めちゃくちゃ久しぶりってどれくらい?」と、マミコは聞いた。
「そうだな――智恵文と名寄が合併した年以来かな」
「よく分からないな――ねぇ、“黄緑の眉毛”について何か知らない?」
「“黄緑の眉毛”? さぁ、分からないな」
「そっか――ねぇ、私達と一緒に探さない? “黄緑の眉毛”、気にならない?」
「えっ? まぁ、ちょっとは。でも私が動き回ると色んな人に迷惑がかかる」と、ミシェナスはオンコを見る「ここでさいならしよう」
「一緒に行こう」と、オンコは言う「私と一緒にいれば君の運命なんて気にならないんじゃないか?」と、苦笑する「根拠はないけど」
ミシェナスはふっと笑う。「どうして一緒に?」
「キミを気に入ったからだ。返事は?」
「オーケー」




