第31話 第二章 野生のイルザ (5/6)
女刑事イルザは、部下とともにホテル・エアリアの事件を調査していた。
並行して行われるテロ組織『ラビド・ミスル』の一斉摘発。
エースの従姉妹であるイルザに課される試練とは?
登場人物
■刑事
イルザ:女刑事
アレックス:イルザの後輩
ラルフ:重大犯罪捜査課 本部長
ヒュベルク:組織犯罪捜査課 本部長
レグルド:イルザのアカデミー時代の同期
■チーム:マッド・ドラゴン
エヴァン・アトラス:主人公 通称『As エース』
Dr.竜宮:科学庁のお荷物
ミキ・竜宮:エヴァンのクラスメイト
アカリ・竜胆:エヴァンのクラスメイト
■その他
アルバート・スミス:管理官
言いながらレグルドは無線を一時的に本部から切り離して、部下たちに命令を出し始める。
「おい。聞こえるか。ボスが尻込みしてやがる。本体停止命令が正式に下る前に突入しちまうぞ」
近くのベンチでコーヒーを飲んでいる部下が言う。
「やるのか。露骨な命令違反だぞ」
「まだ最終オーダーは出ちゃいない……。先走っても奴ら殺せば、俺たちの手柄だ」
部下の男はしぶしぶうなずくと、全体に指示を出し始める。
「A班、B班は突入を始めろ。俺らもすぐ続く」
モニターで見ていたヒュベルクは異変に気付く。
「あのバカ共、始める気だな。おい、全体無線をつなげ」
座っているオペレーターが言う。
「つなげようとしていますが、つながりません」
ヒュベルクは顎を触る。
「無線拒否か。ジャミングを言い訳にするつもりだな。おいイルザにつなげ」
レグルドはイルザを突入させる気が無かったため、連絡をしておらず、それゆえ彼女はいつ突入するかタイミングを掴めずにいた。
「おい聞こえるかイルザ捜査官」
「ヒュベルク部長……。途中から無線が通じずで……。もう突入ですか?」
「レグルドの馬鹿が行くつもりだ。中止のオーダーが気に入らんらしい。おそらくもう止められん。お前、現場に行ってフォローに回れ。すぐにこちらも応援を出す」
イルザは、捜査データが見えるグラスをかけると、車を降りて現場に近づくことにした。
現場では隊員たちが一気にマンホール下の下水道に飛び降りて行く。レグルドは工事用の掘削機の音を全開にして。突入が悟られないようにしていた。
「A班全員入りました。奥に向かいます」
A班の全員およそ5名ほどが、一気に下水道の奥めがけて走っていく。
「B班、全員到着しました」
目的の下水からは二方向から進めるようになっているため、レグルドは班を二班に分けていた。
「了解。B班も進め、俺もすぐに入る」
レグルドは作業着を脱いで、グラスを掛けるとマンホールを飛び降りてA班の後を追いかける。そのおよそ30秒後イルザがマンホールに辿り着く。
「あたしも入る。ナターシャ聞こえてる? 視覚サポートをお願い」
ナターシャは返事する。
「了解です。さすがに指示無視はすごいですね」
イルザはヒュベルクとは無線を繋がずに返事する
「そうだね。まあ気持ちはわからないでもない。目の間に奴らがいるんだからね」
言いながら、イルザは一気にマンホールの下へ降りて行く。
――すごい匂い……。マスクした方がよさそうね。
イルザはあまり好きじゃないので普段はしないが、一応機械のマスクを装着する。
下水道は暗くハンドガンにつけたライトが頼りだった。
「レグルドたちの無線聞ける?」
モニターを見ながらナターシャが言う。
「少々待ってください。多分秘匿回線つかってるんだろうね……。まあそれでも管轄内だよっと」
イルザの耳にレグルドたちの声が聞こえてくる。
「スキャンを使え。見つけたぞ。このくそ野郎どもが……。」
「だいたい5人弱って感じですね。どうします? 一気に行きますか?」
「当たり前だ。そのためにわざわざこのガトリング持ってきたんだからな。合図で行くぞ」
銃声が聞こえ始める。
「部長。始まったみたいです」
ヒュベルクは冷静に告げる。
「だな。気をつけろ。予感は強くなってる」
イルザの進む先には曲がり角がありその先で銃声と弾が反射で光るのが見える。
角を曲がると、その先にはレグルドたちがラビド・ミスルと思われる人間達を取り囲んでいた。レグルドは追いついてきたイルザを見つける。
「なんだ。来たのか」
「部長。お怒りよ」
レグルドは笑う。
「ジャミングで聞こえなかったんだ仕方ないさ。それに見ろこいつら」
もうおそらく死んでいるラビド・ミスルの戦闘員をレグルドは蹴って正面を向かせる。
「何が『予感』……だ。この程度の奴らとっとと殺せばいい」
たしかにイルザも拍子抜けしていた。
その時、後ろから声がする。
「うちの戦闘員をよくもまあ……」
レグルドは一気にイルザを押しのけてその声の方向にガトリング弾を撃ちまくった。
「これはこれは……。話もできないのかね」
イルザはライトで声の方向を照らす。そこには一人の男が立っていた。
「なぜ無傷なんだ?」
レグルドが疑問を呈す。イルザは男の様子を見ながら考えを巡らせていた。
――ラビド・ミスルは大半の戦闘員がサイボーグだが、特に幹部は、ほとんど兵器そのものだと聞いたことがある。
「全員で撃て!」
全員がフォグバーンに銃を撃ちこむ。するとその瞬間フォグバーンは上に飛び跳ねて下水道の上に四つん這いでへばりついた。
全員今度は飛んだ方向に撃ち始めるが、また瞬時に下に飛ぶ。よく見るとフォグバーンの体からは黒い巨大な足のようなものがもう四本飛び出してきている。
イルザはその異様な光景にとっさに後ずさりした。
「あれは何?」
ナターシャが瞬時に検索をかける。
「昔見たことがある、歩行支援のサポートパーツに似てるけど……」
「歩行支援……。クロノス社か」
フォグバーンの新たに追加された足が伸びたかと思うと、それは瞬時にパルスシールドを展開した。
レグルドたちは弾を撃ち続けたが全てパルスシールドに弾かれてしまう。
一通り打ち終わった後で、フォグバーンはゆっくりと顔をレグルドたちにむける。
「終わりかな? ではこちらの番です」
そう言うとフォグバーンの追加された足のパーツがこちらに向く。足の裏に銃の発射口がついていて、それが青く光り始める。
イルザはとっさにお守りのスイッチを押した。青いパルスシールドがイルザの体を包む。
次の瞬間、フォグバーンの足から次々とレーザーが飛んできて、レグルド以下突入したA班の面々は皆倒れた。
イルザが目を開けると、そこには捜査官の死体が山積みになっている。思わず彼女は座り込んでしまった。
「おや……。一人残っていましたか……。敬意を評してあなたは直接殺してあげましょう……」
フォグバーンはペタペタとイルザの方に歩いて来る。無線からは必死で叫ぶ部下たちの声が聞こえてくるが、イルザは立ち上がれない。
パルスシールドの前まで来ると、フォグバーンは足の一本からレーザーブレードをだしてパルスシールドをこじ開けようとする。
イルザの手に装備しているお守りがどんどん熱を帯びて行く。
「ボス! 立って逃げてください!」
アレックスの声が聞こえる。
イルザは震える手でハンドガンを構えようとした。その瞬間、お守りが赤く光り出す。
「許容限界を越えます。モードを攻撃に切り替えますか?」
イルザは神にすがる思いで返事をした。
「はい」
すると、パルスシールドが一気に爆発して、イルザもフォグバーンもお互い吹き飛ばされた。
「自爆ですか……。全く無駄なことを……」
フォグバーンは咳をしながらがれきを払う。
「死にましたか?」
フォグバーンが見ると、爆発した煙の向こうから、一瞬青い目が光った。




