第29話 第二章 野生のイルザ (3/6)
女刑事イルザは、部下とともにホテル・エアリアの事件を調査していた。
並行して行われるテロ組織『ラビド・ミスル』の一斉摘発。
エースの従姉妹であるイルザに課される試練とは?
登場人物
■刑事
イルザ:女刑事
アレックス:イルザの後輩
ラルフ:重大犯罪捜査課 本部長
ヒュベルク:組織犯罪捜査課 本部長
レグルド:イルザのアカデミー時代の同期
■チーム:マッド・ドラゴン
エヴァン・アトラス:主人公 通称『As エース』
Dr.竜宮:科学庁のお荷物
ミキ・竜宮:エヴァンのクラスメイト
アカリ・竜胆:エヴァンのクラスメイト
■その他
アルバート・スミス:管理官
アレックスが指差したモニターにはリヴァンエネルギーの観測値が折れ線グラフになって表示されていた。スミスは首を傾げる。
「基準値内に見えるが……」
「僕が言ってるのは比較値ですよ。電力量と、発生した磁力量の値的に、リヴァン値は59万リドバル程度じゃないとおかしい。低く出すぎている」
スミスは顎をかく。
「一理ある……。だが、そこから何につながる?」
イルザは、モニターを凝視した。
「観測値の改ざんを行っている……?」
「ありえない。管理局向けのデータだぞ……」
ホテル・エアリアの事件後、エヴァンはDr.竜宮に苦言を呈していた。
「あの武器……。使用痕跡が大きすぎます。このままじゃすぐに足がつく……」
Dr.竜宮は笑って眼鏡を外す。
「どこが最初に気づくと思う?」
エヴァンは、ロボットに車椅子を運ばせてDr.竜宮の前に行く。
「間違いなく『管理局』には勘づかれます」
Dr.竜宮は眼鏡を拭きながら答える。
「だろうね……。おそらく次のタイミングまでに捜査局は、場所を割り出す方法まで特定するだろう」
エヴァンはDr.竜宮をじっと見る。
「折り込み済みということですか。気付かれることも」
Dr.竜宮はうなずいた。
「そうだね。むしろ、私は彼らの標的を君にしたい。うすうす気づいているんだろう?」
エヴァンはマニュアルを見た時のことを思い出す。
「そのための自爆装置なんですね」
Dr.竜宮はエヴァンの肩を叩く。
「なるべくたくさん巻き込んでくれると助かる。その分ヘイトは君側に向くからね」
エヴァンはDr.竜宮を見ながら考えた。
――この人は、本当に娘のためならなんでもする気だ。
Dr.竜宮はエヴァンの警戒心むき出しの目を見て笑った。
「だが無論、そもそも足が付かないようにの工夫はすべきだ。それをこれから説明するよ」
アレックスは言う。
「多分なんですが、観測させる前のエネルギーそのものに対して制御をかけてるはずです」
スミス管理官は納得したようにうなずく。
「だとするなら、この関係値が鍵だな」
イルザはスミスに言う。
「同じ割合の数値になっている、日付や場所を出せますか?」
スミスはロボットに言う。
「だせ」
言われたロボが作業を始める。
「8月27日のデータです。場所は3-3-1地区」
「隊長その日は……」
「ホテル・エアリアよりさらに前のクロノス・タワーの事件の日……。繋がったね。この観測比率、記録しておいてください。そして、次回観測時に捜査局に連携をお願いできますか?」
スミスは頷いた。
帰り際スミスがイルザにだけ聞こえるようにつぶやく。
「こいつ。ただのアホじゃないみたいだな」
イルザは笑うと、アレックスを連れて管理局を後にした。
捜査局に戻ると、イルザの元に一本のコールがあった。
「ヒュベルク本部長さんから連絡来てます」
イルザはそれを聞くとアレックスに後を任せて、ヒュベルクのいる、『組織犯罪捜査部』へと向かった。ノックをすると、『入れ』と低く響く声がする。
「来たな、イルザ捜査官。今回のラビド・ミスル包囲戦の件だが、今回の作戦における部隊長を紹介しておく」
テロ組織『ラビド・ミスル』の取り締まりはイルザがここ最近強く望んでいることだった。
「来い! レグルド」
すると、後からイルザの何倍もある体躯の男が部屋に入ってくる。
「イルザ。テメェ久しぶりだなぁ。アカデミー以来か」
イルザの顔に不快な色が一瞬刺したが、すぐさま彼女は無表情に戻った。
「レグルド・トーマス。組織犯罪捜査部所属になったとは聞いていましたが……」
レグルドは不敵に笑う。
「意外か? まあそうだろうなぁ。アカデミー時代てめえには散々してやられたもんなぁ。だが、ここじゃ結果が全てだ。能力がどうこうは関係ねぇ」
ヒュベルク本部長が口を挟む。
「おしゃべりはその辺にして作戦を説明しろ。レグルド」
レグルドは舌打ちしながらブリーフィングを始める。
空中にマンホールから下水道に侵入する経路が表示される。
「ラビド・ミスル幹部のフォグバーンの活動拠点が下水道だという情報が入った」
レグルドはチラリとイルザを見る。フォグバーンの拠点を捜査で見つけ出したのはイルザだった。当然レグルドはそれが気にいらない。
「数ある下水道の中でも、今回ターゲットに選んだのが、このブルーバーンストリート二丁目付近にある下水道だ。ここに襲撃をかける」
ヒュベルク本部長が口を挟む。
「下水道に生息とは、影の組織らしい」
レグルドが、下水道の上にある地上を指さす
「襲気づかれると逃げられる可能性がある。ラビド・ミスルが使用している監視カメラも
見つけたので、それを突入する直前で一時的にハッキングする」
イルザは聞いている限り、レグルドの作戦に異論はなかった。むしろ彼女は別の事が気になっていた。
「ヒュベルク管理官、なぜ今回の任務に私をアサインしてくれたんですか?」
レグルドはイルザからこの質問が出てくると思っていなかったのか、興味深そうにヒュベルクの様子をうかがった。
「勘だ。一言で言うとな」
レグルドはため息をついた。ヒュベルク本部長は捜査官時代、その天性の勘で、事件を解決してきた経緯がある。その圧倒的な精度から彼はしばしば『第六感』と称されていた。
イルザはそれを知ってはいたが、さすがに仲の良くないレグルドにも同情を禁じえなかった。
わけのわからない勘で全体方針を決められ、しかもそれが当たってしまうのでは、やる気もなくなる。
「今回はな。嫌な予感がするんだ。特にラビド・ミスル絡みは、不確定要素が多すぎる。お前たちはそのリスクヘッジだ」
レグルドが言う。
「なんでわざわざこいつなんです? 別の強い部隊でもいい。個別案件の捜査をしている重大犯罪捜査部なんて、襲撃には役に立ちませんよ」
役に立たないと言われてイルザは少しむっとしたが、あくまで正論だった。しかしヒュベルクは笑って返す。
「戦闘力はお前らで十分だろう。それ以外の何かを俺は恐れてんだよ。そこら辺の違和感に敏感なのは、初めに尻尾を掴んだこいつ以外適役はいない」
レグルドはそう聞くともういい返さなかった。
「じゃじゃ馬が、足引っ張ったら承知しねえからな」
そう吐き捨てられながら、イルザは組織犯罪捜査部を後にした。自分の部署に戻る途中でイルザはラボに立ち寄る。ラボの奥にある武器専門の実験室に行くと、中から声がする。




