第20話 第二章 血が滴るショッピングモール(3/5)
ミキとアカリの殺し屋稼業を手伝うことになったエヴァン。
Dr.竜宮からの提供で、エヴァンはロボットの体を手に入れる。
一方のミキとアカリはショッピングモールで任務を遂行しようとするが……
登場人物
エヴァン・アトラス:主人公 通称『As エース』
Dr.竜宮:科学庁のお荷物
ミキ・竜宮:エヴァンのクラスメイト
アカリ・竜胆:エヴァンのクラスメイト
ヴエロ:剣聖
そのおよそ2時間ほど前、レストラン・バーグレッテの前で1人の女記者が今か今かと人を待っていた。
そこにサングラスをかけた剣聖ヴエロが現れる。髪は長髪だったが黒く染めており、後ろで結んでいた。
「ヴエロさん!」
剣聖ヴエロは静かに、と口を人差し指で抑える仕草をする。
「気づかれると面倒なんだ。すまないね」
二人はそのままレストランの席に着いた。
「にしても、今日はどうして、このレストランなんですか? イタリアンお好きなんでしたっけ」
店員にメニューをもらいながら剣聖ヴエロは言う。
「いやいや、今日ここに来たのはね……。実は、占いでそう言うお告げがあったからなんだ」
女記者は怪訝な顔をした。
「占い? ですか?」
「そう、少し悩んでいてね……。剣士というのは、自分と同じくらいの力量の相手が成長には欠かせないんだ」
女記者は首を傾げて見せる。
「ヴエロさんと同じなんていないのでは」
「そう、まさにそれが悩みだ。最近はもはや、挑んでくる相手すらいない。試合でも踏み込んでこない相手ばかりだ」
近年、技術の発達により兵器の殺傷能力も飛躍的に上昇した。その一環の中で注目され始めたのが、剣術である。
基本的に剣は銃に勝てない。しかし運動サポート技術の発展により、状況によっては近接戦闘に特化した剣術が上回るケースが出始めたのだ。
そこに政府は目をつけた。
VR技術と絡めて、剣術を一競技に引き上げて国として推進することで、有能な剣士や兵士予備軍を組織的に鍛えることにしたのだ。
この過程で現れたのが、剣聖である。ポイント制の大会をいくつも開き、その上で最上位を獲得したものを剣聖と呼ばれる。ヴエロはこの競技で世界ランキングの頂点に立ち続けていた。
「警察との専属契約も、もう3年目になりますね」
「何なら銃を使う強盗と戦っている方がよほどスリルがあるよ。競技でやるよりもね」
政府は剣聖をうまく使う一環として、警察との専属契約を結ばせ、武器の形態と使用許可を授けた。これによりヴエロは街中で堂々と暴漢を成敗することができるようになっていた。
「怖くはないのですか?」
「死ぬことが? いや、死は救いさ。この退屈な人生のね」
女記者はいいコメントが取れた。と少し上機嫌だった。剣聖ヴエロは必ずしも理想的な性格の持ち主とは言えずしばしば言動が物議を醸すこともあった。
「最近では、カース地区に出た強盗の事件も解決したと言う話が……」
話の途中で剣聖ヴエロはふと外が気になった。瞬間警報が中に鳴り響く。
店内がパニックなるなか、剣聖ヴエロは立ち上がった。
「皆さん!! 落ち着いてください!」
客の注目が集まると、剣聖ヴエロはサングラスを外して、どこからともなく剣をかかげた。
すると、長髪はほどけて白く染まる。
「剣聖だ!」
周りの観客が気づく。
「この警報は不審者用の警報です。私が対処するので皆さんは焦らずに私の後ろ側に下がってください」
女記者は、咄嗟に動画を撮り始める。
剣聖ヴエロは入り口近くの壁の前に座っていたカップルを丁重に退かせると、剣を構えた。
「お店、後で弁償しますね」
そう言うと、一気に踏み込んで斬撃を放つ。その斬撃をアカリは先ほど躱したのだった。アカリは自分の体が震えているのがわかる。
「剣聖……なぜこんな所に?」
喋り声はミキが加工してあった。
「占いで、ここに来ると生涯のライバルに会えると聞いてね。どうやら出会えたらしい。私と踊らないかい?」
キザな物言いだが、アカリは剣聖ヴエロから発される尋常ではない圧におされ続けていた。
「アカリ。やる必要はないよ。逃げな」
ミキはそう言ったが、アカリはそうできなかった。
――背中を見せれば、間違いなく殺される……。覚悟を決めるしかない。
アカリは構える。
「どうして!」
ミキは必死で叫ぶが、アカリに答える余裕はなかった。剣聖は微笑む。
「片刃刀とは、珍しいね」
ヴエロはアカリと違い大仰に構えることはせず、ゆったりと受けの姿勢を見せる。アカリは一気に踏み込むと、切りつける。ヴエロは受けずに飛び上がって下がった。
「まだだ」
アカリは一気にもう一段踏み込んだ。しかしアカリの踏み込み斬りをヴエロは着地しながら難なく剣で受ける。
「いいね。勢いがある。殺気も心地いい響きだ」
ヴエロの目は余裕を感じさせる。アカリは一度剣を振り払いながら後ろに飛んで下がった。
――もう一度、居合で決めるしかない……。私の渾身を出す。
アカリはもう一度構える。アカリの家族である竜胆家は、代々鬼道流という、居合を主とした流派に属している。そのため、アカリも打ち合いより居合による速殺を目指していた。
――鬼道流奥義、『鬼涙』。
アカリは再度グンと踏み込むと一気にヴエロに近づく。しかし、踏み込み先はまっすぐヴエロに向かわず、斜め右に少し逸れていた。
片やヴエロは一歩も引かず、逆にアカリ側に踏み込む。アカリは右にそれたところから、踏み込み足に力をいれ方向を変えてヴエロに近づいた。
お互いが剣で切りあって、すれ違う。一瞬の間が空いて、アカリがその場に崩れ落ちた。
「アカリ!」
ミキが叫んだ。ヴエロは余裕の表情で振り返る。
「居合の途中で方向替えとは面白い……。たがそれだけだ。最後は直線にならざるを得ない」
アカリは何とか立ちあがろうとするが、腰のところが浅く切られていた。
――後1センチで致命傷だ。
「まだやれるだろう? もっと見せてくれよ」
剣聖ヴエロは嬉々とした表情を浮かべる。
――まずいな。勝てる絵が見えない。
アカリは追い詰められていた。その時、モール中に警報と共に、煙が充満し始める。
皆が一瞬気を取られたタイミングでアカリは駆け出す。
「逃げるのかい!」
剣聖ヴエロは追いかける。




