第1話 序章(1/4) 鬼人四十面相と女刑事
高層ホテル最上階。
当選を祝うパーティーの最中、一人の殺し屋が姿を現す。
――鬼人四十面相。
標的は政治家グラハム。
現場に居合わせた女刑事イルザは、剣聖ヴエロと共に暗殺阻止へと動く。
登場人物
イルザ:女刑事
アレックス:イルザの後輩
グラハム:政治家
鬼人四十面相:殺し屋
ヴエロ:剣聖
3XXX年 15:00
ホテル・エアリアは貴族院の政治家御用達しのホテルで、パーティ会場が高層階にいくつもあった。
その中のとあるパーティ会場のテーブルで、一人の男がフォークをグラスに二、三度当て、観衆の注目を集める。
「今日は集まっていただき大変ありがとうございます。私、グラハム・ベルリッドの、貴族院当選の祝賀会と言うことでこのような会を開いていただき、誠にありがとうございます」
グラハムは、すらっとした高身長の白人で、歳は三十になったばかりだった。醸し出される成功者特有のオーラに観衆が拍手している中で、彼は続ける。
「今日は、ベルリッド家だけではなくアーガスタイン家の皆さまや、オックスコムの方々まで、本当に幅広くたくさんの方が、出席していただいているとお聞きしています。皆様のような、素晴らしい方々に今日の晴れの日を祝ってもらえる私は幸せ者ですね」
言いながらグラハムは、少し遠くにいた女性にグラスを掲げながら目で合図を送る。視線の先にいるのが、彼の結婚相手である、リヒナ・アーガスタインであることは周知の事実だ。
リヒナは、グラハムの合図に少し恐縮しながらグラスを掲げる。
「しかし、今日はまだ始まりにすぎません。まずは直近のデルタ地区改革法案成立に向け、イデア党の一員として最大限の貢献をしていくことを今日ここで皆様に約束させていただきます」
そう言ってグラハムがグラスを掲げると観衆も同じようにグラスを掲げた。
「乾杯!!」
その瞬間、彼の近くで護衛をしているサングラスをかけた黒人の男が不意に銃を抜いて、グラハムに向けた。
グラハムはとっさのことに何もできずにいたが銃を持った男は躊躇せずに引き金を引いた。
しかし、別の方向から、銃声が鳴り響き、黒人の男の銃が手から離れた。
銃声が来た方向には、金髪でスーツ姿の女性刑事が銃を構えていた。
「皆伏せて!!」
黒人の男が銃を向けてからその女の声が会場内に鳴り響くまでおよそコンマ一秒ほどの出来事だったが、その後すぐに近くにいた女性がグラスを落として金切り声を上げた。
会場内は一気にパニックになり、逃げ惑う人や、辺りで右往左往する人で、混乱が生まれる。その中で、女刑事は黒人の男から視線を外さなかった。黒人は背中に手をやる。
「動かないで!!」
黒人は女の声を気にすることなくそのまま背中から何かを引っ張り出す動作をした。すると何もないはずの背中から急に真剣が出て来る。
女刑事は弾を三発打った。しかしキィンと言う金属音が一瞬のうちに聞こえただけで、黒人は無傷だった。
女刑事はつぶやく。
「でたわね……。鬼人四十面相……」
すると黒人は女から視線を外してグラハムに向き直った。グラハムはあまりのことに腰を抜かして近くにへたり込んでしまっている。
「早く逃げて!」
しかしグラハムはその場で動けない。黒人は刀を構えると、そのままグラハムに斬りかかる。
その瞬間、金属同士のぶつかるギィンという音がして、黒人の刀は別の刀によって止められた。黒人の刀を止めたのは近くにいた白髪で長髪の男の剣だった。それを見て女は驚く。
「剣聖ヴエロ……なんでこんなところに」
剣聖と呼ばれた男は振り返る。
「ここに来たら鬼人と会えると聞いてね……。嘘じゃなかったようだ……」
剣聖ヴエロは女刑事に手を出さないようにと剣で合図する。
「ここは私が受け持つから早く中をなんとかした方が良い」
女刑事は言われて、カオス状態の会場を見渡す。すると横から若い刑事が現れた。
「イルザさん……。剣聖のいう通りにした方がいいですよ! 早くみんなを避難させましょう」
女刑事イルザは状況を見比べると、瞬時にその若い捜査官に指示を出した。
「仕方ないわね。アレックス。誘導をお願い……私はグラハム卿を逃すわ」
「合点!」
「どこで覚えたの……そんな言葉」
女刑事イルザは呆れながら警護対象であるグラハムの元まで走る。黒人はグラハムに追撃しようとするが、その前に剣聖ヴエロが立ちふさがる。
「よそ見できる立場かい?」
そう言うと剣聖ヴエロは黒人に踏み込んで下から切りかかる。黒人は後ろに飛び上がってそれを避けた。
剣聖ヴエロはただ切りかかっただけに見えたが、そこから斬撃が飛び会場の壁に大きな跡をつけていた。
アレックスはその様子を見ながら舌を巻く。
「おーこわ……。斬撃なんて生で初めて見た……」
女刑事イルザはその隙に腰を抜かしたグラハムを何とか起こして、会場から引っ張っていく。彼女の思考は警護対象の避難と鬼人の確保という二つ任務の間で揺れていた。
――正直、被害を考えると、彼と観衆が近づきすぎるのはよろしくない……。だが、そうでもしないと、殺されてしまうのが落ちか……。
女刑事イルザは苦渋の判断で近くのエレベーターのボタンを押す。




