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絶対なる輝き


 端末に従い、ヘリが目的地であるショッピングモール上空は、既に黒煙が立ち込めており、今もなお爆発が散発的に発生していた。

 建物の外には、避難してきたものたちがひしめき合っており、大混乱となっている。

 耳に装着している小型通信機にノイズが奔る。


 『兄さん、現場上空に到着しましたね。近くにヘリを着陸させます。その後は、中から負傷者と取り残された方々の救助を』

 

 ガァンッ!! という破砕音と共に、強風が体に吹き付けられた。

 体制を崩しそうになったところをギリギリで踏みとどまり、音の方向へと振り向くと、扉だけが破壊されて無くなっており―――邑歌もヘリ内部どこにもいなかった。


 「っ! あの馬鹿!! 飛び降りやがった!! くそっ!」

 『は?』

 

 俺は扉があった部分から下を覗くと、既に邑歌は小さい点となって降下していた。

 高さからして、身体能力が向上している能力者が即死するものではないだろうが。それでも打ちどころを間違えれば大怪我をする可能性もある。


 「…ネフィ、着陸にどれくらい…っ!?」

 

 直後、邑歌が降りて行った場所が、爆発する。もはや迷っている時間も許されない。


 「兄さん、扉の近くに簡易武装の拳銃が…」

 「もう取った!」


 頭痛を抑えながらも、俺もまた、ヘリを蹴って空へとダイブする。

 同時に俺は、息を大きく吐き出し、幻想結界を、【熾す】

 幻想結界は、自らの意志で引き起こすモノと、勝手に発動してしまうモノの二つがあるが、俺のように、二つの側面を持ち合わせた幻想結界も存在する。

 自発的に発動させる方法は、能力者自身の感覚で行えるモノなので説明が難しいのだが。

 一番近い表現は、頭の中で、手回しの自家発電をするようなものだろうか。

 能力の強度はある程度自身で調整することが出来、強度上げようものなら、その分、疲労は激しくなる。レベルが高い幻想結界者ほど、能力の強度は高く、疲労も少ない。

 視界の世界がブレる。否―――世界が二重に見える。

 地面に到達した瞬間、前回り受け身の要領で転がり、衝撃を外へと逃がす。体の節々に痛みが奔るものの、機能が制限されるほどの怪我には至らなかった。

 

 「真凛! あちこちに怪我人が! 」

 

 邑歌は、霊装を展開しながらも、血を流し、倒れている人々を指さす。


 「落ち着け邑歌。怪我人はすぐに来る応援に任せる。俺たちはあのロボットたちを止める」


 一瞬の逡巡を見せるも邑歌は刀を構え直す


 「っ…分かった!」

 「とはいえ、メイン戦闘は―――お前に任せる」

 「…あれ、そういえば真凛その目、何か光って……っ!?」


 半透明に映る世界は、ロボットが邑歌を背後から、腕に取り付けられている機銃を掃射する映像を映し出す。

 俺はすぐさま邑歌の肩に触れる。

 映像から僅か3秒。

 実体のある世界において、半透明の世界で発生した事象が起こった。

 明確な殺意を持った攻撃を放たんと、ロボットは腕の穴から弾丸をばらまかんと跳んでいる。

 だが、既に邑歌は、くるりとロボットへと向き、武器を振り抜いていた。

 機銃は射撃されることなく、ロボットは真っ二つになって転がる。


 「……今、撃たれるのが…分かった?」

 

 邑歌は目を擦ったのち、俺に振り返る。


 「もしかして、真凛の力?」

 「簡単に言えば、俺の能力は未来予知だ。一人だけ視界共有もできるからお前も」

 「よく分からないけどありがとう! ロボット破壊しまくってくる!」

 「聞けよ!」


 闊歩しているロボットたちは、邑歌を発見すると、内蔵していた機銃を一斉に掃射してくる。

 しかし邑歌は、


 「見える…全部、分かる!」


 全攻撃を回避、あるいは斬りながら次々と破壊していく。

 縦横無尽に駆け抜ける後ろ姿を追いながら、周りを見渡す。

 犯人が残っているとは限らないが、少なくとも全てのロボットからも幻想結界の反応があるなら、ネットワークのシステム介入によるプログラム改竄というよりは、ロボットたちが能力によって作られた、あるいは遠隔操作を受けている可能性が高い。

 この状況を作り出した奴の目的は何だ。大量殺戮を目的としたテロ行為…?

 俺は、ふと走る中で、ある違和感に気がつく。


 「…誰も、死んでいない?」

 

 ロボットたちは、建物にぶつかっては爆発している。その爆風や衝撃に巻き込まれた人々のなかに、怪我をしているものはいるものの、いずれの人間も能力者相当の身体の為か、致命傷になっている様子はなさそうだ。

 殺戮が目的なら、直接人を狙えばいいはずだ。

 俺は小型通信機をネフィに繋ぐ。


 「ネフィ、救護はもう到着してるのか?」

 『はい。現在の避難完了率はおよそ70%。モールから逃げ遅れた者たちも、簡易治癒を施したのちに随時救出中です。』

 「死者は確認できてるか?」

 『亡くなっているもの…………確認しましたがいずれも命に別状はないそうです。』

 「…こっちでも確認してるが、今のところ、誰も致命傷になってない。どのロボも建物に向かって自爆、し、て………」

 『……兄さん?』

 

 俺は内心で舌打ちをして、邑歌へ追いつかんと走る速度を上げる。

 俺は、ついさきほどの状況を思い出す。

 俺たちが着いた瞬間、ロボットは―――明確に邑歌を狙って発砲してきた。

 いや、建物に対する破壊活動を止めてまで、邑歌に対して攻撃を仕掛けている。

 まるで、狙いは――――

 一階の大きな広間に着くと、大量のロボットが機械の手足を動かしながら、山のように積み上がっていく異様な光景が広がっていた。

 邑歌は、その様子を睨み付けたまま、見上げるにとどまる。さしもの邑歌も、あれを一つでも爆発したら、他のロボットが誘爆するかもしれないことを分かっているらしい。分かっていてくれ。

 次々とモール中のロボットが集まり、山は大きくなる一方だ。

 もはやその山が10メートル以上をも超える高さに達するのと同時に、風紀委員の腕章を付けた者数名が合流する。

 

 「こちら005他3名。レベルⅥたちと合流。……無事か新人たち」

 「あぁ、避難と救護の進捗は?」

 「最終確認中だが、そちらは全て完了した。数が多いのもうちの取り柄だからな……それにしても、なんて数だ」

 

 005というコードの男の風紀委員は、ライフル式の霊装を構えながら、ロボットの山を見て呟く。

 

 「………やはり、全て材質は粘土なのか」

 「…粘土だと?」

 「俺の幻想結界は、撃ち抜いた奴の構成物質を鑑定するものでな。暴走しているロボを数十と撃ち抜いたが、その全ては外装は粘土だった。

 強度は鉄並みだがな。内部に爆薬と起爆装置が入っている。それに、一部には戦闘武装すら搭載しているしな。」

 

 粘土。わざわざそんなものからロボット一から創り、この数を操作しているなら、能力者はまさしくレベルⅣにふさわしい規格外だ。

 学園都市で会ったことのあるレベルⅣの記憶を辿ろうとした瞬間、小型通信機にノイズが奔る。


 『全員いますぐその場から避難しなさい!! 』 

 

 ネフィは、これまでの冷静な指示とは打って変わり、切迫した声で叫び続ける。


 『その機械どもが、これまでのと同じ火薬量と種類なら! 同時に爆発した場合半径10キロは軽く吹き飛びます! 』

 「は?」


 俺はその言葉に対して、ほぼ反射的に山を見据え、幻想結界を最大限に熾す。

 全身が沸騰するような感覚が襲うのと同時に、映る半透明な世界が、さらに先の未来を読み込んでいく。

 動画を早送りするように、視界は加速し―――やがてロボの山が輝きを伴って視界を真っ白に染める一分後の世界を視た。

 それを確認した瞬間、俺の両ひざから力が抜け、同時に発動していた幻想結界の発動が止まる。

 

 「…っ…2分後、だ」


 俺がそう言うと、他の風紀委員たちが動揺する。


 「そんな……クソ!ヘリ使っても10キロなんて逃げられない……」

 「防壁とかの能力者は避難民のとこにいるんだぞ! 」

 「い、嫌だ、こんなところで、死ぬのは嫌だ…」

 

 005を除く部隊員は、僅かな生存の可能性の為、その場から出口に向かって逃げ出す。

 能力者は頑強だ。数十メートルから落下したとしても、大半は運が悪くても大怪我で済む。

 だが、結局のところ、能力者も人体の構造に変化があるわけでは無い。脳や心臓が吹き飛べば、死ぬ。

 街を吹き飛ばすレベルの爆発を受ければ、もはやその手の生存系の能力でなければ、間違いなく即死する。

 能力を熾す体力はもはや残っておらず、残っている005の能力も、現状を打破するものではない。

 それでも、俺たちの前で、少女はこちらに振り向くと、微笑みながら、


 「―――大丈夫。私が守る」


 と断言した。

 その目に一切の嘘偽りを語っている様子はない。

 少女の――――亜紗宮邑歌の瞳の色は、黄金色に染まっていた。

 俺はその瞳を見た瞬間、絶対的な安堵感に覆われる。

 それは、もはや―――――洗脳にも近い形で、俺の脳に、この光に任せればいい。という感覚が支配する。

 同時に、使い切ったはずの幻想結界が起動し、視界を染め上げる。



 少女が掲げる光は、神話の一振り。

 天高く光の柱が昇り、大気が軋む膨大なエネルギーは、その余波だけで少女に降り注ぐ殺意の嵐を振り払う。

 戦場にて死体の丘に立つ―――邑歌の姿。

 



 世界を滅ぼす悪夢のような未来。その聖剣の使い手と――――邑歌の顔が一致した。


 「っっ!? 」


 俺は警鐘にも似た頭痛に襲われながらも、邑歌に手を伸ばす。これ以上、邑歌を―――この女を覚醒させてはいけない。そんな確信めいた予感が、動かない体を必死に前に出す。

 しかし、既に邑歌はこちらを向いておらず、ただ、眼前の破壊の元凶に立ち塞がっている。


 「聖剣――抜刀」

 

 虚空より顕現するは、木の棒―――ではなく、ヒビ割れた西洋風の剣。

 邑歌は、その剣を大きく振りかざすと、世界そのものを照らすようにソレは黄金に輝いた。

 ロボットの山が赤い熱を発しながら膨れ上がる。

 同時に、亜紗宮邑歌は振り上げた聖剣を、下へと振り抜いた。

 黄金の光は、多大なる衝撃と共に、ロボットの山へと直撃する。

 本来ならば、これほどの衝撃をくわえれば、結局爆発は避けられない。

 光のぶつかり合いに、思わず目を覆う。

 瓦礫と粉塵が体の一部に被弾し、あちこちから血が噴き出す。

 そう―――本来ならその感覚すら感じるいとまなく、体は吹き飛んでいるはずなのだ。

 ゆっくりと目を開くと、そこには―――青空があった。

 目の前にあったロボット群による爆弾は眼目にはなく、大穴の空いた天井からはパラパラと破片が落ちているだけだった。


 『………全幻想結界反応が……消えた? 有り得ない……爆発を、押し返したとでも、いうの?』


 振り抜かれたひび割れた聖剣は砂となってその場から消える。

 邑歌は、こちらに振り向くとⅤサインをして微笑んだのち、その場で昏倒した。

 間違いなく偉業だ。神の御業。英雄と呼ぶに相応しい能力。

 ここに俺たちは生きているのは、間違いなく邑歌のおかげだ。


 だというのに、俺の心は邑歌に対して、感謝でも、敬意よりも先に。

 恐怖していた。

 

 

 


 


 

 

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