月明かりの下で
今日という日にも終わりがやってくる。
陽は地平線の彼方に姿を隠し、代わりに月が顔を見せる。
あの後は特に問題もなく進み、アクティビティが終了した。
絶対に転覆しないと心に決めていたはずなのに、最後の最後で気を抜いてひっくり返り、シャッチーから何かと弄られたから無駄に疲れてしまったが……。
まあそれは楽しかったし問題ないだろう。
風呂から上がり、部屋でゆっくりしていると机の上に置いていたスマホが振動する。
〈明日は湖周辺のウォークラリーをした後、ホテルのすぐ近くでバーベキューをして東京に帰る。 明日も起床時間は指定しないが、集合時間までに荷物をまとめておくこと〉
澤谷先生からだ。
こういうマメなところは澤谷先生らしい。
ほんと、いい先生だ。
気付けば明日で宿泊行事は終わりか。
まだ終わってはいないが、意外とあっさり終わったな……。
宿泊行事とはいえ、別に5時、6時に起きてラジオ体操をやったりすることもなく、自由に過ごすことができたからだろうか。
学校行事というものは基本的にある程度拘束されているようなイメージがあるから、ストレスを感じることもなかった。
何不自由なく生活をさせてもらえるなんて最高だ。
ベッドに倒れ込んでここ数日を勝手に振り返っていると、同じく風呂から上がってきたルームメイトたちが帰ってくる。
「友潟戻んの早くねー? 折角風呂があんな豪華なんだしさ、楽しめばいいのに」
「僕はあんまり風呂は長居したくない人でさ、すぐのぼせちゃうから」
「ふーん、なるほどなぁ…………」
そう言って彼らはそれぞれのベッドに向かう。
会話をするようになったというのは僕にとっては確かな進歩だが、話すといってもこれくらいだ。
それぞれグループ単位で行動してるんだ、無理もない。
することもなくテレビをつけてぼーっとしていたら、奥から楽しそうな声が聞こえてきた。
「なあなあ、誰か先生に夜更かししていいか聞かね?」
「まじで!? 澤ちゃん結構優しいけど、あの人怒ったら怖いらしいぜ?」
「これくらいじゃ怒んねーよ! ……誰いく?」
「言い出しっぺの法則でお前な」
「いや、ここは公平にジャンケンでいこう」
……なんだか嫌な予感がしてきた。
ちょっとロビーにでも行くかな……。
即断即決即行動。
決めたからにはすぐにテレビを消して部屋を出る。
「おい、友潟ー? お前も……あっ待て行くな」
くそ、気付くのが遅かったか…………。
「「「じゃーんけーんぽん」」」
結局僕も混ざることになった。
だが……。
「うわぁぁぁぁ俺かよぉぉぉ!」
「ほらな、言い出しっぺの法則なめんな」
言い出しっぺの法則なるものによって僕の心の平穏は保たれた。
発見した者に感謝だ。
……まあ僕が言えば澤谷先生は二つ返事でOKしてくれるとは思うが。
にしても……本当にやるのか……。
「い、いくぞ……?」
しゅっ、という軽い音と共にメッセージが送信される。
〈先生、今日のアクティビティだけじゃ物足りなくて、元気が有り余ってるせいで今日の夜は寝られそうにないんですが…………良いですか?〉
「なあなあ、お前ちょっとビビってるだろ」
「な……!? いや、直で聞くわけねーだろ! 遠回しに言った方がきっとうまくいくぜ?」
「いや、どっちもアウトだからね……?」
「うお、友潟ってツッコミもできたのか」
「いや『も』ってなんだ『も』って。 そもそも僕ボケた記憶ないんだけど……」
「いや、どっちもいけそうだよな? 明日バーベキューで漫才やる?」
「どういう誘いだよ。 断る」
しょうもない会話をしている間に、澤谷先生からの返信がくる。
思ったよりも早い。
「「「えっ、まじで?」」」
そこには……
〈…………騒ぐなよ〉
と、短く書いてあった。
やっぱり、良い先生だ。
正式(?)に夜更かしが出来るようになったためか、消灯時間になってもM組の部屋は電気が付きっぱなしだった。
この雰囲気だとオールする羽目になりそうだ……。
だが、たまにはこういうのも悪くないと思った僕もなんだかんだ言って彼らと一緒に過ごしていた。
〈……起きてるよね? お話ししませんか?〉
唐突に来たメッセージに驚く。
迷ったが、断るのも申し訳ないと思い僕は彼らが盛り上がっているのを横目に部屋を出た。
ロビーは静まり返っている。
もう12時になるから仕方ないか。
「やっほ~、来てくれたんだね」
「おい、こんな時間に呼び出して先生とかいたらどうするんだよ」
「大丈夫大丈夫、先生たちも最後の晩餐を楽しんでいるみたいだから」
「いや先生たち死なないからね? というか晩餐って……」
「先生も今日くらいは楽しみたいんでしょうよ。 ……外行かない?」
「暑いと思うけど……まあいいよ」
扉を潜って外に出る。
外は風が少し吹いていて、暑さは思いの外感じなかった。
2人で少し歩き、湖のほとりに来て立ち止まる。
月は僕らを見て煌々と光を発していた。
「で、何か話したいことがあるんでしょ?」
「えぇ、優ってそんなズバズバくるタイプだっけ? 月が綺麗ですね、とか言ってみてもいいんだよ?」
「そんなことしたら告白じゃん。 そんなのできないよ」
「私は…………いい……けど……」
「ん? ごめん、聞き取れなかった」
「ん、ううん。 いいの、気にしないで」
男女で真夜中に出歩くなんて、物語の中の話だと思っていたけど、まさか実際にこんな状況が訪れるなんてな……。
え、まさか……告白!?
いや、流石にないか……そんなことを考えるなんて、僕は既に深夜テンションに足を踏み入れているんだろうか……。
普段なら触れることもない空気。
そよそよと吹く風に身を委ねたい気持ちになる。
そんな中、どこか話しづらそうにしていた彼女は口を開く。
「私……も……見たんだよね」
「え? 見たって、何を?」
「優が…………カヤックから抜け出せなくて溺れて……死んだ夢……」
「え…………? 死んだ……?」
たかが夢だ。
そう思って微妙に頭に引っかかっていたものを強引に取り除いた僕を、再び混乱の渦に引き込んだのは。
突然の玲の告白だった。
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