新しい友情
「じゃあ、これからバスに乗って移動になるが、場所がそれぞれ離れているから、班ごとに降りてもらう。 だから、バスの座席はなるべく同じ班で固めてくれ。 あと、これはあくまで学習の一環らしいから、そこは念頭に置いてくれ」
いや、教師が『らしい』とかはぐらかすなよ。
自信持てよ。
眠そうにしてるのバレてるぞ。
などと、心の中で澤谷先生にツッコみまくってオーバーキルさせてからバスに乗り込む。
僕らの班は先生の話によると最初に降りるみたいなので、バスの前に座ることにする。
僕の隣には勿論明梨が座っている。
バスに乗った後にクラスの男子からまた痛い視線を感じなければならないことに怯えていた僕だったが、それは杞憂だったようだ。
普段なら僕と明梨が一緒にいるのを見た瞬間から突き刺さる熱い視線が、今日はあまり感じられない。
一番前の席に座っているから視覚的な情報は得られないが、僕の頭は極めて小さい違和感を敏感に感じ取っていた。
戸惑う僕の様子に気付いたのか、隣に座ってる明梨が僕の方を見て、得意げに笑ってみせる。
『ほらね? 私の言った通りでしょ?』とでも言いたげな表情だ。
どことなく煽られてるような感じがしたが、可愛いから許すとしよう。
バスが出発すると同時に車内に緩い雰囲気が生まれ、徐々に会話の声が大きくなっていく。
後ろの方で男子の誰かが『しゅっぱ~~つ!!』と大声を出したときは心臓が止まるかと思った。
こんなに騒いで運転手さんも多少怒ったりするんじゃなかろうかとミラーを通して様子を伺うと、こんな僕らの様子を見て微笑んでいるのが見えて、思わず笑ってしまった。
青春時代を懐かしんでいるのだろう。
みんなが楽しそうにお喋りをしている中、だんだんと睡魔に飲み込まれそうになってきた僕は何か話そうと明梨の方に視線を向けるが、僕が気付かない間に明梨は夢の世界に旅立ってしまったみたいだった。
気持ち良さそうにする明梨を見てると夢から現実に引き戻すのも気が引けるし、そっとしておくことにしよう。
微睡の中を彷徨っていると、突然肩を叩かれるのを感じて振り返ると、同じ班になった男子の顔が。
名前は……すいません、覚えてないです。
「どうした?」
「いや、ちょっと話してみたくなって。 ほら、俺と友潟って全然話したことなかったじゃんか?」
「……昨日のことがあったから?」
「……んん、まあそうとも言うかな!」
にかっと眩しい笑みを見せる彼。
彼はクラスでお調子者みたいなキャラを定着させていて、男女共に親しまれている。
正直なところが彼の良いところなのだろう。
「にしてもさ、昨日まじで凄かったよ。 普段は友潟ってなんかこう……静かだからさ、ああいうところに出るとは思ってなかったんだけどな」
パッとしないんだろうけど、オブラートに包んでくれるあたりに優しさが出ている。
僕は彼のことを僕なんかと関わろうとしないような陽キャラだと決め付けてしまっていたが、考えを改めるべきだったのは僕の方だったのかもしれない。
「パッとしないようならキャラで悪かったな。 僕だって本当は最初出るつもりじゃなかったんだけど、成り行きで出てみたら意外と楽しかったよ」
「やっぱり? だってお前、歌ってるときずっと楽しそうに笑ってたもんな!」
「え?」
「『え?』って、あれ無意識だったのか? まあ無意識であんなに楽しそうにしてるってことは、心の底から楽しめてたってことか!」
はははっ、と彼は笑う。
僕は彼の言葉を聞いてただただ驚いていた。
彼に言われるまで気が付かなかった。
あのとき感じていた高揚感の理由なんて、頭で考えて出るようなことじゃなかったんだ。
心臓が高鳴り、全身が熱くなるあの感覚は、僕が心からあの瞬間を楽しんでいたことの証明だったんだ。
「……ああ、やっぱり僕は変わってるな……」
「…………ん? なんか言ったか?」
「いや、なんでもない。 ありがとう」
「……ん? んん? んんんんん? ど、どういたしまして?」
些細なこととはいえ、教えてくれた彼に感謝だ。
「ねえ、なんて呼べば良い?」
「ん、なんか今更って感じがするな……。 気のせいだな! 俺のことはまあ、シャッチーとでも呼んでくれ」
「シャッチー? なんでだ?」
「俺もわかんないんだが、何故かそれが定着しちゃったみたいなんだよな。 だから気にしないでそう呼んでくれ!」
「ああ、じゃあ……よろしくな、シャッチー」
「うん、よろしくな!」
名前を覚えていないのがバレないように遠回しに聞いてみたのだが、まさか愛称があったとは……。
でも愛称とはいえ呼び名を知れたからいいか。
こうして、今更ながら1つの新しい友情が芽生えた。
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