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拝啓、終末の僕らへ  作者: 仁乃 戀
第三章
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平和の捉え方

 「えー、本日は、生徒一人一人が節度を守り、しっかりと行動できたことでこの夜も楽しく過ごすことができていたな。 ……まあ、1人だけやけに騒がしい教師もいたが…………特に問題なく終えることができて嬉しく思う。 しかし、このまま浮ついた気持ちでーー」


 まだ入学から半年も経っていないのに、もはやお決まりとなった生活指導の先生からの話を聞き流しながら、僕は静かに高揚感に浸っていた。


 今まで人の前に立つことを避けていた僕が、自分の意志で前に立ち、行事といえど成果をあげて表彰までされた。

 勉強が出来たとしてもそれが理由で表彰などされない。

 勉強以外で結果を出そうと努力を積み重ねたものなど1つもない僕にとっては、この賞状は宝物のようなものだった。


 「優? そんなにぼーっとしてどうしたの?」

 「ん? ああ、ちょっと疲ちゃったのかな。 先生の話も退屈だし」

 「いつものことだから仕方ないよ」


 そう言って苦笑する明梨。

 彼女に出会わなかったら僕はどうなっていたのだろう。

 高校デビューに失敗したとはいえ、彼女と出会ったおかげで良い方向に変わることができた。

 それは紛れもない事実だ。

 もし僕が入学式の日に彼女と話をしていなかったら?

 僕が明梨とは関わらないという決断をしていたら?


 多分、僕はさぞかし()()()生活を送っていただろう。

 あいつは勉強が出来る奴だ、という認知をされて、他人に勉強を教えることもあるかもしれない。

 ただ、それは上っ面だけの付き合いで、結局のところ僕は独りぼっちだった。

 そんな気がする。


 「平和」という言葉は、捉え方によっては「無」に変わると思っている。

 感じ方は様々だろうから、そんなことないと言う人もいるかもしれない。

 ただ、人との関わりを断つ。

 いわば人間関係において「無」そのものに近い状態を作ったとしたら?

 それも一種の「平和」だろう。

 怒りを感じて喧嘩することもなければ、出会いの喜びも別れの悲しみも気にすることはなくなる。


 ……つくづく皮肉に思う。

 殆どの人間がわざわざ険しい道に足を踏み入れるのだから。


 「ーーでは、これからの流れを説明します。 風呂にはクラス順で入ってもらいます。 順番は担任の先生の方からメッセージで送ってもらいます。 消灯時刻は23時。 かなり遅くしているので、くれぐれも、それ以上の夜更かしはしないように。 明日の農村体験では実際に畑仕事などを手伝う班がほとんどだと思うので、疲労を残さないようにしてください。 それでは、解散にします」


 先生の解散の指示を聞くなり、ホール内にざわつきが戻る。

 基本的に自由行動のため、ここに残ろうとする生徒もいればすぐさま帰ろうとする生徒もいる。


 僕は後者……のはずだったが、すぐさまこちらに向かってきた玲と充に捕まってしまった。


 「いやーお疲れ。 まさか優が優勝するなんてねぇ~。 私油断しちゃったよぉ」

 「凄く良い歌声だったよ。 この4人じゃ僕がビリなわけだし、悔しいけどみんなに奢りかな」


 自嘲気味に笑う充。

 この2人の様子を見てると、不思議と疲れも吹き飛び、むしろ元気をもらえる。


 最下位の人が奢るというルールを忘れていたのか、明梨と玲は顔を見合わせた後、にっこりと微笑む。

 それを見て、やってしまったという様に充が頭に手を当てる。


 「充。 言わなかったら、2人とも気付かなかったかもな」

 「だね。 どうやら墓穴を掘っちゃったみたいだ」


 こういう感じも新鮮だ。


 「「じゃあ、二次会といきましょうか?」」


 満面の笑みで、明梨と玲が僕らに問いかける。

 僕らの答えは最初から決まっていたようなものだ。


 「勿論行くだろ? 充」

 「そうだね、優」


 そうして僕らはホールを出て、それぞれ1本ずつジュースを買い、談笑に花を咲かせるのだった。

 勿論、充の奢りで。

いつも読んでくださりありがとうございます!


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