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鷽から出たマコトの世界  作者: 久安 元
悪因悪果ミミクリー
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ジェヴォルダンへの門

 神様集会、そして鷽猿会合の翌日。

 休日ということもあり爆睡するイアとネロを放置し、のんびりと部屋で読書をしていたのだが、その平和な時間はけたたましく鳴り響く着信音で掻き消された。

 ……ううむ、実に面倒くさい。

 俺は基本的に電話があまり好きではない。離れていても直接会っているかのように話せる、というのが電話の利点として挙げられるだろうが、俺としてはそれが何故利点として挙げられるのかが理解できないのだ。

 というのも遠距離の相手と連絡を取り合うだけが目的であるならメールで十分事足りるし、わざわざ肉声で話す必要はないと思ってしまうからだ。それにメールならば電話と違い文面が記録に残る為、待ち合わせ等で何度も時間や場所を確認しなくて良いし、何よりこうして自分の時間を強制的に邪魔されることもない。

 まあ、緊急の連絡が必要な場合にはその強制性が役に立つ場合もあるので、電話という機能そのものを否定している訳ではなく。

 単に要、不要を考えてから使うツールを選べよ、という話。

 俺に当て嵌めていえば、電話を使うのは切羽詰まったときだけだ。最近よく使うのは禍渦退治に必要な情報を仕入れなければならない事態が増えたためで、下らない雑談に使ったことは一度もない。言ってしまえば精神的なパーソナルスペースが広いことを自覚している分、他人の領域を犯すことも、またしたくないということだ。

 まあ、俺の持論は置いておいて。

 相手がその『緊急』であるかもしれないことを考慮して、ため息をつきながらも迅速に机の上に放置していた携帯を手に取り電話に出る。

「もしもし?」

『あっはっはー、どうも頼人くん。ちょっと聞いて下さいよー。昨日あの後、裏世界に散歩に行ったときなんですけどー、なんと驚くことに――』

「死ね」

 すぐさま通話を終了する。

 アンタだったから緊急なのかと思ったらそんな話かよ。てっきり異常禍渦の足取りが掴めたのかと思ったのに。

 ベッドの上に携帯を放り投げると、再び俺の自由を破壊せんと電子音が響く。

 あのヤロー、いい加減にしろよ……。

「…………も・し・も・し!!」

『異常禍渦を見つけましたよ』

「散歩中にかよ!?」

 そんなタンポポ見つけたみたいな発見の仕方で良いのか!?

『あっはっはー、まあ散歩を兼ねた調査だったんですけどねー。通常の禍渦と違って常時動いているので捕捉しにくかったんですが、さっそく見つけちゃいましたよ』

「はぁ……本当アンタと話してると疲れるぜ……。つーか、そんときに破壊してれば良かったんじゃねえの?」

『いや、それがですねー』

 なんとも歯切れの悪い言い方をする。

「何だよ?」

『見失っちゃった、てへ』

「………………」

 あ、ヤバイ。携帯握り潰しそうだ。

『ああ、ちょっと!! 仕方なかったんですってば!! 何か霧みたいなものに覆われたと思ったら、もうどっか行っちゃったんですって!! それに行き先の見当はついてます!! 最後に見失った地点の付近には禍渦が一体存在していますから、あの異常禍渦が他の禍渦を狙うなら間違いなくそこに現れる筈ですよ!!』

「いや、だからよ」

 俺が言いたいのはそういうことではなく。

「出現地域が絞れてるんだったらアンタが自分でやれば良いじゃねえかって遠まわしに言ってんだけど?」

 わざわざ俺たちに依頼するまでもなく、自由奔放に動ける神様が片をつければ一番手っとり早い筈。そう思って自身の考えを口にしたのだが、腹の立つことに一笑に付されることになった。

『あっはっはー、何を言うかと思えば頼人くん。それじゃあ君たちに端末を貸し与えた意味がないじゃないですか。昔から言うでしょう? 働かざる者食うべからずって。よく働くことですよ。――お互いのためにも』

「……は、そうかよ」

 これじゃあ深緋も不安に思う訳だ。

 生きて行く上での光をいつ取り上げられるか、本当にわかったものではない。

「良いぜ。実を言えばその狂った禍渦に興味があったんだ。直接お目にかかれるならそれに越したことはねえ」

 禍渦という嘘の塊。

 その禍渦の中でも更に異端な存在であるならば。

 未だ俺の知らない嘘のカタチを内包している可能性は高い。

 なら。

 どんなものか見極めて、その後完膚なきまでに壊してやる。

『それは丁度良かった。では一時間後、御社でお会いしましょう』

「ちょ、一時間後だと? いくらなんでも早――」

 文句を言う前に今度は神様が一方的にこちらとの繋がりを切る。聞こえるのは誰とも繋がっていないことを示す音だけ。

 一時間後、ということはあまりのんびりしてはいられない。

 ウチの連中を起こして、飯を食わせて……。はは、いきなり平穏な休日が戦場と化したな。

 やることは一気に増えたが、取り敢えず一番にすべきことは。

「寝ぼすけどもを叩き起こすとするか……」

 目の前に突如出現した高難度の第一ミッション。

 さぁて、クリアするのにどれだけ時間がかかることやら……。

 そんな陰鬱な気持ちを抱えながらも、俺は部屋を後にすることにした。

 

 

「お、来ましたねー」

 何とかイアとネロの目を覚まさせることに成功した俺は二人を連れ、約束の時間内に御社へと到着することができた。学校の井戸に繋がっている門をくぐった先に俺たちを待っていたのは呼び出した張本人である神様と――。

「………………」

 リーンハルト。

 既に同調を済ませている彼の身体からはこの間感じたような弱々しい雰囲気は一切見受けられない。……俺の勘違いだったのか?

「結構、結構。いまで丁度一時間です。いやあ、流石頼人くん、一方的な約束でもキッチリ守りますねー」

「あ、当たり……ハァ、前……だ」

「うう……、おでこ痛い……」

「僕は鼻が痛いよ……」

 未だぶつくさと文句を垂れる同居人たち。

 うるせー、文句言うんだったらさっさと起きろや。二度ならず三度寝までしやがって。

「つーかアンタ、今日はホログラムじゃねえんだな」

「ええ、身体がないとできないことも多いですから。今日のは特に、ですがねー。ネロ君ちょっとこっちへ」

 ちょいちょいとネロを手招きする神様。

「……何かな?」

 寝起きということもあってか、ネロの機嫌はすこぶる悪い。ちらと視線を向けると彼はやや危険な光を孕んだ瞳でジロリと手招きする男を睨んでいた。

 だが、睨まれた本人はと言うとそんなことには怯むことなく、尚もネロを自身の元へと誘導している。

「はぁ……、頼人。行かなきゃダメかい?」

「んー、まあ一応行っとけ。その代わりおかしなことされそうになったら噛んで良いぞ」

「……わかったよ」

 渋々、といった様子で神様の前に歩み寄るネロ。その左前脚は未だ地面を踏みしめることはなく、ひょこひょこと宙に浮かんでいた。

 何とも痛ましい光景だが、本人は折った深緋、いや満月に対して特に悪い感情は抱いていないそうだ。なんでも本気の勝負なんだから脚を折られたくらいでごちゃごちゃ言うものではないとのこと。

 ヤダ、ネロ格好良い。

 そういった考えはやはりこれまでの環境に培われてきたもの。

 本気の勝負すらしてもらえなかったネロにとって、同等の存在とみなし、そして一切の遠慮なくぶつかってくれたこと、それ自体が嬉しいのだろう。

「……何か用かい? 早く済ませてくれると――」

「左脚」

「え?」

「出しなさい。いくら適応できるといっても限度があるでしょう?」

 そう言って強引にネロの左脚を掴む。

「痛ゥッ!! この、何を!?」

「おっと」

 牙を剥き、噛みつこうとするネロ。神様は左脚を放し、その牙をさっとかわす。

「折れてる脚を掴むなんて何を考えて――あれ?」

 驚くことに先ほどまで宙に浮かせていた左脚はいまやしっかりと床を踏みしめており、まるで折れていたことが嘘であったかのよう。

 しかし、それが嘘でなかったのは誰よりも俺が一番良く分かっている。

「うん、うん。ちゃんと治ったみたいですねー。よく分からない敵と戦うのに手負いというのは頂けませんから」

「…………ありがとう、とは言わないよ?」

「ええ、この程度のことで礼など結構です。それに雇用主としては従業員のケアも仕事のうちでしょう?」

「ふん……」

 ――僕は従業員になったつもりはないよ。

 そう言い捨てネロは俺の元へと引き返してくる。

 これが普通のヤツだったら「素直じゃねえなあ」と茶化すこともできるのだが、ネロの場合本気でそう思っているから、それも出来ない。

 この人狼は。

 心の底から神を嫌悪し。

 心の底から神を信用していない。

「さぁ瑣末事も終わりましたし、ブリーフィングと行きましょう」

 ネロの憎まれ口などどこ吹く風、神様は昨日と同じように宙に地図を浮かべ、その一点を指し示す。

「今回君たちに向かってもらうのは裏世界のジェヴォルダン村。位置は表世界でいえばジンバブエ共和国、カリバ湖の辺りですねー。ここには多くの魔物の一族が集落を作っているんですが、ジェヴォルダンはその中でも比較的小さい村に分類されます。ま、場所としては他に特徴の無い場所なんですが……」

 言い淀むように神様は一度口を噤む。

「そこに住んでいる魔物が厄介でして。ヴァリエールという種族なんですが、何と言いますか、こう、酷く閉鎖的なのです。不可侵領域を作り出す彼らのスキル『禁世端境ケルムト』で村周辺を覆ってしまう程に。

 まあ、侵入に関してはリーンハルトに一任するとして……、良いですか二人とも? 村で何が起こっていようと手を出してはいけませんよ?」

「あ? 何でだよ?」

「言ったでしょう? ヴァリエールの一族は閉鎖的だと。彼らの生活に、行動に干渉しようとすれば即座に村から叩きだされます。もっと言えば襲いかかってくる可能性もゼロじゃあありません」

「え、ちょっと待って。その村には禍渦がいるんでしょ? 禍渦にも手を出しちゃダメってこと?」

「無論です。そもそも今回の目的は異常禍渦を観察、破壊することですよ? エサとなる禍渦を壊してどうするんですか。馬鹿ですねー、イアは」

「うぐぐ……」

 頬を膨らませて、遺憾の意を示すイア。だが、まあ今回はオマエが悪い。命令無視して禍渦を壊そうと思うなら俺のように腹の中で思っておくだけにすべき――。

「頼人くん、君も良いですねー?」

「…………」

「良いですねー?」

「……チッ、分かったよ。極力我慢する」

「よーりーとーくーんー?」

「だぁぁああ、分かった、分かりました!! 禍渦を見つけても壊しません。『約束』してやるよ!! これで良いだろ!?」

「よろしい。異常禍渦との戦闘に関しては基本的にお任せしますが極力近接戦闘は避けるように。でないと深緋ちゃんを今回の依頼から外した意味がありませんからねー」

 ああ、やっぱりそういう理由だったんだ。あとで一応アイツにも教えといてやるか、……一応。

「伝えるべき情報はこれくらいですかねー。取り敢えずさっき言った禁止事項に触れなければ現場の判断で自由に動いてもらって構いません。――と、ああ、危ない危ない、忘れるところでした。頼人くん、はい、これ」

 神様はそう言うと白衣のポケットから何やら赤い弾を俺に手渡す。通常の弾丸とは違いえらく派手な外見をしているが、これは一体……?

「もし異常禍渦が手に負えないと判断したらこれを銃に込めて空に撃ってください。それで何とかなる筈ですから」

「? どういうことだ?」

「あっはっはー、まあ良いから、良いから。さ、最寄りの門はあれですからそろそろ行ってください。遭遇は明日の夜の予定ですが、万が一遅れたら意味がありませんからねー。それに周囲を散策して地形でも把握しておくなりなんなりして戦いに備えておいた方が良いでしょう」

 むう……。何かはぐらかされたような気がしないでもないが、実際に戦闘予定地を見ておくことは確かに重要だ。

 それにこの場で延々問い詰めたところでこの小賢しい男が吐くとも思えないしな。時間を無駄にしたくはない。

「はぁ……、イア、同調」

「はーい」

 そうして同調を終えた俺は神様に背を向け、目的の地へと繋がる門へと向かう。そのときリーンハルトとすれ違うことになったが勿論、目は合わせない。

「行くぞ、ネロ……、それにリーンハルト」

「あ、待ってよ頼人」

「…………」

 案の定、リーンハルトは黙ったまま。

 ふん……、まあ良いさ。コイツの嘘を問い詰めるのは、もっと邪魔の入らないところでだ。

 心にそう決め、俺は躊躇することなく。

 俺はジェヴォルダンへと通ずる門へとその身を投じた。


 一人でクリスマスケーキを食べても別に良いと思うの。どうも久安です。

 

 駄文……の前に御礼をば。お気に入り登録数が増えたことが嬉しくて仕方がなかったです。どなたかは存じませんがありがとうございます!!

 

 実は話の内容より魔物のスキルやら種族名を考える方が時間がかかったりしてます。漢字四文字縛り、かつ出来るだけオサレ(苦笑)なネーミングを目指して頭を悩ませる日々。まあ楽しいっちゃ楽しいので良いんですけどね。


 年末ということもあって何かと忙しいですが、何とかいまの更新ペース(1,2日おきに次話を投稿)を守っていきたいと思います。

 という訳で次回更新は12月25日 10時を予定しています。

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