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鷽から出たマコトの世界  作者: 久安 元
フィアー・ウィッシュ・アンド・ディサイド
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抜け殻

 イアやクダンたちと別れ、俺を含む縹ちゃんのプレゼント選別部隊はいま大型デパートの三階、女性向けの商品を扱っているフロアにて星の数ほどもある品物の山から相応しいものがないかを物色しようとしていた。

 化粧品の類やら、バッグ、果てはヘアピンのような小さなものまでカバーする幅広い商品に囲まれながら俺が明らかに場違いな空気を感じていたことはいうまでもない。

 男の俺には何に使うのかも分かんないものが山のようにあるんだが。何あのちっちゃい鬼の棍棒みたいなヤツ? え、美顔ローラー? 何、顔を潰すの?

 あっちにはデカいホッチキスみたいなもんがある……。うん? ヘアーアイロン? ドライヤーのようなものなのだろうか……?

「天原君、きょろきょろしてどうしたの?」

「ああ、南……。いや得体のしれねえモンがたくさんあるなと思ってさ……」

「ふふ、そうだろうね……あれ? でもイアちゃんの服とかはどうしてるの?」

「服は美咲に貰ったヤツでまだ着てないのもあるし、ねだられたことはねえな。それにアイツ化粧なんてしねえし」

 だからこういうところにはこれまで縁がなかったのだ。

「それであのツヤツヤの肌……、良いなあ……」

 南が自分の頬を撫でながら、暗い表情で呟く。声をかけようとしたが俺が立ち入れそうな雰囲気ではないのでそっとしておくことにした。きっと男にはわからない女性特有の何かがあるのだろう。

「つーか、深緋よ。縹ちゃんはどういうもんが好きだとか役に立ちそうな情報をまず提供してくれや。適当に探してちゃ日が暮れちまう」

「……そうね、予めある程度絞れていれば探しやすいわ。四谷さん、妹さんのことについて教えてくれないかしら?」

 いつもに比べて遥かに小さい声で美咲がボソボソと尋ねる。おい、さっきまであった俺の手首を圧し折らんばかりの元気は何処行った?

「容姿、という意味でしたら満月に聞いた方が正確に教えてくれると思いますよ。白波瀬さん」

「え?」

「私は手で触れて大体の感じでしか相手の姿を掴めませんから。光を失う前の縹の容姿は目に焼き付いてますけどアナタが知りたいのはそんな前のことじゃないでしょう?」

 …………おおう。なんか深緋の言葉の至る所に棘を感じるのは気のせいだろうか? しかも、あの美咲が年下にあんな口のきき方をされて黙るどころか、気圧されているとは。怪訝な目で満月を見ると、彼女は何も言わず両肩を少し竦めるだけだ。

「そ、そうだね。じゃあ十六夜さん、お願いできますか?」

 深緋の口調に押され、南がおずおずと満月にそう口を開く。

「あいよ、アタシのスマホに写メがあるからそれ見りゃ一発さ。中身は深緋に似てなくて可愛いよー?」

「は、はは……」

 そうして美咲と南、満月が肩を寄せ合って縹ちゃんの写真を眺めている間、俺はこそこそと車椅子に乗った深緋の隣へと移動する。

「おい、おいって」

「あら、何かしら? 約束破りさん?」

「誰がだ、コラ」

「だってそうでしょう? こんなに大勢連れてくるなんて約束した覚えはないわ。私はアナタに手伝ってほしいって言ったのよ。相談したいこともあったし……」

「んなこと言ったって俺じゃ力になれねえだろうが。結局縹ちゃんのプレゼントを選べなきゃ意味ねえし……、つーかオマエまさかこんなことで臍曲げたのか? それにさっきから美咲に風当たりが強いのももしかして俺のせい?」

「……はぁ、もう良いわ。後で時間を見つけて話に付き合ってくれさえすれば。あああと、白波瀬さんのことは頼人さんと関係ないから気にしないで頂戴」

 気にしないでって不可能だろ……。全身くまなく刃物の先端で突かれているかのようなこの状況で平静でいられるヤツがいるとすればそれは仙人か何かだよ。

「…………あん時のことまだ根に持ってんのか?」

 ジェヴォルダンから戻った後、俺の家で深緋とリーンハルトが美咲と龍平、南と鉢合わせたときに少々いざこざがあったのだが、この様子からするとどうやらまだ腹の虫は収まっていないようだ。

「ええ、勿論。あの程度の謝罪で許すものですか。だって誠意のかけらも感じられなかったもの。ただ言葉を並べるだけじゃあ意味がない。それはアナタが良く知っていることでしょう?」

「…………まあな」

 あのとき、部屋を出ていく際に放った美咲の謝罪の言葉は嘘ではない。――が、本物でもない。自分が悪いことをしたということに気付いていても肝心の何が悪かったのかという理解がないのだ。

 相手の心を傷つけた凶器をまだ探していて。

 それを見つけることのできない自分に嫌悪感を抱いている。

 いまの美咲はそういう状態。だからこそ自分が傷つけた相手に対して萎縮してしまう。そしてこのままその答えを出すことができなければ、いずれあのときの謝罪は形だけのもの。詰まる所「嘘」に成り下がることになる。

 俺の大嫌いな嘘に。

「あら意外と冷静ね。てっきり怒り狂うものかと思っていたのだけれど」

「そりゃあな。う、う……、上原とかなら兎も角美咲は嘘吐きにはならねえって分かってる。龍平と美咲は絶対に俺を裏切ったりしない」

「それはそれは。大層な自信だこと。そんなに信じられている彼女たちが羨ましいわ」

「信じてるんじゃねえ。俺にもどうしてかはわからねえけど、そんな気がするんだよ。何ていうんだ、こういうの?」

「さぁ? まあ、私もアナタが彼女を嫌うような事態にならないよう祈っておいてあげる」

「そいつはどうも……っと、よう美咲、南。縹ちゃんの見た目、どんなかわかったか?」

「ええ、そりゃあもう!! 脳細胞に焼き付けたわ!!」

「白波瀬さん、鼻血!!」

 二筋の鼻血を垂らしながら満面の笑みで満月とともにこちらに帰ってきた美咲。ああ、そうだな。その様子だと聞くまでもなかったな。

「ほら、これさ」

「どれどれ……」

 彼女の差し出したスマートフォンの画面を見ると、そこには深緋によく似た、しかし何処か儚げな少女の姿が映し出されていた。前に電話で話した印象としては、性格的には姉と正反対なようだったし、あくまで似ているのは外見だけということだろう。

「頼人さん、何を考えているのかしら?」

「いやぁ、お姉ちゃんによく似た可愛い子だなあと思いまして」

「あらあら、それはどうも嬉しいわ」

「はっはっは」

「うふふふふ」

「満月さん、あの二人何だか怖いんですけど……。背後に虎とか龍とかがうっすら見えるんですけど……」

「あっはっは、気にしなくて良いよ、燕。いつものことだから」

 俺は不本意だけどな、こんな物騒な日常。

「おし、じゃあ取り敢えずどんな子かわかったことだし、もう一回各々で探してみようぜ、一時間後「これだ!!」と思う物持ってここに集合な。最終的なジャッジは深緋に任せる」

 全員固まってうろうろするよりそちらの方が良いだろう。嗜好、ゴホン、思考の違う人間が色々なものを持ち寄った方が思わぬ結果を招き寄せられそうだ。

「……私と満月は「ここに」待機していればいいのね?」

「ああ、「ここで」ゆっくり雑談でもしててくれや」

 俺の返答を聞いた深緋は少し頬を緩め、その申し出を承認してくれた。

「わかったわ。じゃあ頼人さん、南さん、それに「白波瀬さん」? 宜しくお願いします」

「……ええ」

「「「…………」」」

 拝啓、イア様

 いかがお過ごしでしょうか?

 こちらはとても居心地が悪く、俺は胃がキリキリと痛む思いです。というか痛みます。そちらはきっと楽しく過ごしているのでしょうね。龍平にこの野郎とお伝えください。何なら言葉とともに拳を一発お見舞いしても構いません。え、ダメですか? そうですか。そろそろプレゼントを探し始めないと後の予定が実行できなくなるのでこの辺りで失礼しますが、あなたもも久々の遠出、楽しんでいただければと思います。

 敬具

「――ん?」

 そんな俺の脳内の謎電波に呼応したように俺の携帯に何者かからの電波が届けられた。ポケットから取り出し、画面を見ると――。

「ったく、遅えよ……」

「どうかしたのかい、頼人?」

「電話。ちょっと行ってくるから先始めててくれ」

 満月にそう言い残すと俺は一人、静かな場所を求めてその場を後にした。


 部屋の掃除をしました、特になにもでてきませんでした!! どうも、久安です。

 

 本当に化粧品って見た目で何に使うかわかりません。武器に見えたりします。だから化粧品コーナーって見てる分には楽しい。そしてフロアのお姉さんに声かけられる前に早足で去る。きっとよっくんもそんな気持ちだったことでしょう。

 まあ、なんにしても主人公の胃に穴が開く前に深緋ちゃんと美咲の仲が改善すれば良いネッ!!


 駄文はここまで。ここから次回予告です。

 次回は4月1日 7時です。一旦クダンに視点が移ります。キーパートになる予感。ではでは。

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