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身代わり結婚のはずが、冷徹眼鏡公爵様に溺愛される〜元新婦に身体を押し売りされて、幽霊として憑かれているのですが!?〜  作者: 滝里シエル


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19/31

19 以上、夜会会場からお送りしました

 ずっと姿が見えなかったベアちゃんが、急に目の前に現れた。


「わっ、ベアちゃん!? びっくりした、どこ行って……」


『マリアンヌ様を追いかけて!!』


 ベアちゃんが私の言葉を遮って叫ぶ。


「え!? マリアンヌ様!? どうかしたの?」


『早く早く! あっちですわ!』


 私の質問には答えず、ベアちゃんは会場の出口を指差す。


 ベアちゃんの切羽詰まった表情を見れば、ただ事ではないのは分かる。でも、勝手に会場を出てもいいのかと、二の足を踏む。


(……アルフレッド様に伝えないといけないよね……?)


『スミレ! お願いですわ! 一緒に来て!』


 ベアちゃんの見たこともない真剣な表情に気圧され、私は頷く。


「……うん、わかった」

 私はベアちゃんの後を追い、会場を飛び出した。



 点々とランプの灯る回廊を進むと人影が見えて、私は慌てて柱の陰に隠れて様子を窺う。


 月明かり照らされた人影の中に、マリアンヌ様の姿が見えた。マリアンヌ様の正面には、派手なドレスの女性が三人見える。


「……誰?」

 覗いていることを気付かれないように、小声でベアちゃん尋ねた。


『あれはカタリナ・グランジュ公爵令嬢ですわ。あと、取り巻きの令嬢ですわね』


(カタリナ・グランジュ公爵令嬢……)


 ここからだと、顔は良く見えない。マリアンヌ様に向かって扇子を振りながら、何かヒステリックに叫んでいる声が聞こえてくる。



「身の程を知りなさいっ! あなたのような家格の娘が、殿下の隣に立つことなど不敬に値するのですわっ。低能なあなたは、そんなことも分からないのかしら!」


 マリアンヌ様はその言葉を、じっと黙って聞いていた。それが気に入らないのか、公爵令嬢はもっと激しく罵っている。


「どどどうしよう……ベアちゃん……。誰か呼んで来たほうがいいんじゃないかな……」

『そ……そうですわね……』

 ベアちゃんと顔を見合わせる。



「ちょっと、あなた、聞いていますの!?」


 その時、公爵令嬢が扇子を振り上げ、それをマリアンヌ様へ投げつける。


「きゃっ!!」


 悲鳴を聞いて居ても立っても居られず、私はマリアンヌ様を庇うように間に飛び出した。


「――やめてください!」


 私が飛び出すと公爵令嬢が驚いたように、目を見開く。


「……あら? これはこれは、ヴァレンシュタイン公爵夫人ではありませんか。このような場所でお会いするとは、思いませんでしたわ」

 そう言って目を細め、微笑む公爵令嬢。


(うわぁ、この人も美人さんだなぁ。でも、目が笑ってない……)


「そ、そうでございますわね……、おほほ」


「私は、彼女とお話しておりますの。そこをどいてくださいませんか、公爵夫人?」


 口元には笑みを浮かべつつも、何ともいえない圧力のようなものを感じ、背中に冷や汗が流れ落ちる。


「いいえ、そういうわけにはいきませんわ、おほほ」


 私が断ると、公爵令嬢の眉がピクッと吊り上がった。


「……そういえば、公爵様とはご一緒ではありませんの?」

「え?」


 急にアルフレッド様の話になったので、私は瞬きを繰り返す。


「あ、申し訳ございません、夫人。公爵様とは、関係がお悪いってことを失念しておりましたわ」


 公爵令嬢は大袈裟に謝り、優雅に口元に手を当てた。まるでドレスを品定めするかのように、視線を下から上へ動かす。


「今夜の装いも、ベアトリス様にしてはやけに地味ではございませんこと? うふふっ、好きなお色のドレスも買ってもらえませんの?」


 私は息を呑んだ。

 自分には違和感があっても、赤にするべきだったと後悔する。

 

「折角ご結婚なされても全く愛の無い仮面夫婦だなんて、お可哀想ですわ。いつ捨てられるのかって、社交界では専らの噂ですのよ? ……ねぇ、ベアトリス様?」


 まるで心配しているかのような口ぶりだが、その瞳はこちらを嘲笑っている。


(……ど、どうしよう……)


 私の軽はずみな行動のせいで、ヴァレンシュタイン公爵家や、アルフレッド様の顔に泥を塗ってしまうかもしれない。


 ……震える手を握りしめた、その時だった。


 

「――誰が、誰を捨てるだと?」


 低い声が響き渡る。

 振り返るとアルフレッド様が、眼鏡越しに鋭い眼光をこちらに向けていた。


「こ、公爵閣下!? な、何でもございませんわ!」


 公爵令嬢たちはアルフレッド様の顔を見るなり顔色を変え、一目散に逃げ去っていった。


 私がほっと胸を撫で下ろすと、アルフレッド様がこちらへ駆け寄る。


「会場から出るなと言っただろう!!」


 すごい剣幕で怒られて、身を縮める。


「……っ、ご……ごめんなさい……っ」

 私はしょんぼりと顔を伏せた。


「あの、申し訳ございません、公爵閣下。公爵夫人は私を助けてくださったのです。すべては私の責任ですわ」


 マリアンヌ様が私を庇ってくれた。

 彼女自身も大変なことがあったというのに、なんて優しい方なんだろう。

 アルフレッド様は大きく息を吐いた。


「……ブラン伯爵令嬢はお戻りください。殿下が心配なさいますので」

「は、はい……」


 マリアンヌ様はチラリと何か言いたげにこちらを見たが、一礼して会場の方へ戻っていった。



「……帰るぞ」


 アルフレッド様はぼそりと呟くと、歩き出す。


「……あ」

 私は慌てて後を追い掛ける。


(私、また……怒らせちゃった……)


 切なさが溢れる胸の前で、私はぎゅっと手を握りしめた。 

 

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