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身代わり結婚のはずが、冷徹眼鏡公爵様に溺愛される〜元新婦に身体を押し売りされて、幽霊として憑かれているのですが!?〜  作者: 滝里シエル


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16/25

16 夜会デビューでございます

 鏡に映る煌びやかな美女に、私は息を呑んだ。


 大きく肩まで開いたオフショルダーの、バイオレット色の艷やかなドレス。全体に金糸の刺繍が散りばめられている。

 長い髪は結い上げられ、耳にはキラキラ光るダイヤモンド、首元には大粒のルビーが輝く。

 

(さすがベアちゃんだわ、宝石に負けない美しさ……)


「それでは奥様、もうしばらくお待ちくださいませ」

 支度をしてくれたエミリーや、他のメイドたちは一礼して部屋を出ていった。


 

 今日は何時間も前から、夜会の準備で大忙しだった。

 お風呂に入り、マッサージをしてもらい、しっかりとお化粧も施され、最後にはぎゅうぎゅうにコルセットを締められた。


(う……、酸欠になりそう……)

 夜会へ出掛ける前に、力尽きそうだ。


『うんうん、やっぱりバイオレットのドレスには、このネックレスがいいですわね』


 私の周りをクルクルと飛びながら、ベアちゃんは一人頷いている。

 アクセサリー選びには、ベアちゃんからアドバイスをもらった。


「でも、ちょっとデコルテの辺、開きすぎじゃないかな……」


 鏡を見ながら、パカッと開いた胸元に手を当てる。

 大きな胸の谷間が見えて、恥ずかしい。ちょっと胸元が強調されすぎな気がする。

 

『何を言ってますの! イブニングドレスなのですから、それくらい普通ですわよ!』

「うぅ……」


 デザイン選びの際、もう少し露出の少ないものをとお願いしたのだが、ベアちゃんとマダム・ロザリンドに押し切られてしまった。


 青紫色のドレスは、ぱっと見の派手さはないが、洗練された上品な美しさが醸し出されている。


(やっぱり、とても綺麗な色……。だけど……)


「……ベアちゃん、本当にこの色で良かったの? 本当は赤が良かったんでしょ?」

 私の問いかけに、ベアちゃんは眉を吊り上げる。


『まだ気にしていましたの? 前にも構わないと言いましたでしょ!』

「……うん」


『それに……』

 ベアちゃんは透き通る手で私のドレスに触れながら、少し表情を緩めた。


『外見は私のはずなのに、どこか別人に見えるのですわ。それはスミレの魂が現れているからかしら……? 不思議ですわね』


「……私の、魂……?」



 ――君は本当に、あのベアトリスなのか……?


 昨夜のアルフレッド様の言葉が浮かび、ドクッと鼓動が跳ねる。


(アルフレッド様にも、私が別人に見えていたということ……?)


「ベアちゃん、どうしよう……。アルフレッド様に別人だとバレてるかもしれないよ……。昨日、疑ってたもん……」

 私は震える手をぎゅっと握る。


『だったら、何ですの? 冷血眼鏡が疑ったところで、あなたは正真正銘ベアトリスですのよ? 魂が別人だなんて、どう証明できると言うのかしら?』


 私の不安をよそにベアちゃんは、何ともないように言った。


「え、それは、そうだけど……」

 彼女の正論に、言い淀む。


『魂だけ別人だなんて、見るからに現実主義っぽいあの男が信じるはずがありませんわよ、おほほ』


「そ、それもそうだよね……」

 ベアちゃんに言われ、胸を撫で下ろす。


(私だって、当事者だけど、まだ信じられない時あるもんね……)


 安心していると、ふいに爆弾が落とされる。


『まぁ、替え玉かと思われてるかもしれないけれど』


(か、替え玉……っ!?)


「ちょ、ちょ、そっちの方がヤバくない!?」


 偽物だと思われて、追い出される。はたまた、公爵夫人になりすました罪に問われ、処刑とかになったら!?


「ベべ……べアちゃ……ん……」

 涙目でベアちゃんに縋るように見つめるが、彼女は顔を背ける。


『まぁ……、その時はその時ですわよ』

「うぅ、そんなぁ……」


 その時、コンコンとドアがノックされ、エミリーが入ってきた。

「奥様。旦那様がエントランスでお待ちです」


 私はピシッと背筋を伸ばす。

 いよいよ、夜会に出発だ。



 重いスカートを持ち上げ、転ばないようにそろりそろりと歩く。

 階段を降りきったところで、エントランスで待っていたアルフレッド様の背中に声を掛けた。


「お待たせして申し訳ございません! ……あ!」


 振り返った彼の姿に、思わず声を上げてしまった。


 黒い夜会服に白のネクタイ、白の手袋をはめ、髪型もいつもと違い、前髪をきっちりと固めていた。

 元々、気品のあるアルフレッド様だけど、今日はまた一段と洗練されている。


(本物の貴族は、やっぱ違うな……)


 私がまじまじと見つめていると、アルフレッド様が訝しげな視線をこちらに向けた。


「……何だ?」


「あ、いえ、とても素敵だな……と」


 私が素直に感想を述べると、アルフレッド様は一瞬、驚いたように目を見開く。


「……は?」


「え?」


 しばらく見つめ合っていると、ふいと瞳を逸らされる。横を向くと眼鏡を上げながら、ぼそりと何か呟いた。


「あ……、その、君も……、に……似合っている……」


 辛うじて聞き取れた言葉に、ドキッと胸が高鳴る。


「えっ!? あ、ありがとうございます……」


 ベアちゃんが美しいのは当たり前だけど、まるで自分が褒められたかのような錯覚を起こし、恥ずかしさで身体がむずむずして落ち着かない。


 胸元をさり気なく手で隠しつつ俯いていると、突然、ふわりと肩に布のような物を被された。


「……っ!?」


 肩に掛けられたのは、白いシルクのショールだった。

 驚いて顔を上げると、アルフレッド様はまだ目を逸らしている。


「……いや、デザインについて仕立て屋に押し切られたと、メイドから報告を受けた。……か、風邪でも引かれたら大変だからな。これでも羽織っていろ」


 アルフレッド様の口調は、心なしか早口に感じられる。


 肌触りのいいショールを身に包んだ私は、さっきまでの不安が飛んでいった。胸の中がほんわかと温かくなる。


「……ありがとうございます」

「……あぁ。……じゃ、行くぞ」


 アルフレッド様が腕を差し出したので、私はその腕にぎこちなく自分の手を絡めた。


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