啓蒙とは。
啓蒙とは何か。
その問いを出すと、博士は紙ナプキンに短く書いた。
自分の頭で考えろ。
「珍しく真面目ですね」
「元ネタが真面目だからな」
「カントですね」
「そうだ」
博士はコーヒーを飲んだ。
「啓蒙とは何か」
「はい」
「カントは言った」
博士は紙ナプキンに書いた。
自ら招いた未成年状態から抜け出せ。
「未成年状態」
「そうだ」
「子供という意味ではない」
「はい」
「自分で考えられるのに」
「はい」
「他人に判断を任せる状態だ」
「なるほど」
博士は続けた。
「この薬を飲め」
「はい」
「この本を読め」
「はい」
「この人に従え」
「はい」
「この思想が正しい」
「はい」
「全部、他人に考えてもらっている」
「楽ですね」
「楽だ」
「でも?」
「啓蒙ではない」
博士は紙ナプキンに書いた。
考えろ。
「シンプルですね」
「かなりシンプルだ」
私は少し考えた。
「でも博士」
「何かね」
「啓蒙って、自分が正しい方向へ導くイメージがあります」
「そこが事故る」
「事故るんですか」
「かなり事故る」
博士は即答した。
「なぜですか」
「導くことと、考えさせることを混ぜるからだ」
博士は紙ナプキンに書いた。
考えろ。
↓
私と同じ結論になれ。
「違いますね」
「違う」
「かなり違う」
「かなり違う」
博士はうなずいた。
「ここで事故が起きる」
「事故」
「啓蒙の名で思想を配る」
「はい」
「啓蒙の名で価値観を配る」
「はい」
「啓蒙の名で正解を配る」
「はい」
「すると?」
「考えてませんね」
「そうだ」
博士は紙ナプキンに書いた。
考えろ。
ただし答えはこれだ。
「最悪ですね」
「かなり最悪だ」
博士は続けた。
「ここでチンポジ哲学だ」
「来ましたね」
「他人のベスポジを知る術はない」
「はい」
「なら?」
「決められません」
「そうだ」
「正しいチンポジも決められません」
「そうだ」
博士は紙ナプキンに書いた。
考えろ。
だがベスポジは自分で決めろ。
「なるほど」
「啓蒙と相性が良い」
「意外です」
「意外だな」
博士は続けた。
「啓蒙とは、本来」
「はい」
「自分で考える能力を育てることだ」
「はい」
「自分の結論を植え付けることではない」
「はい」
「かなり違いますね」
「かなり違う」
博士はコーヒーを飲んだ。
「ここでミルを借りよう」
「自由ですね」
「そうだ」
「異なる意見が必要だ」
「はい」
「反論も必要だ」
「はい」
「間違う自由も必要だ」
「はい」
「なぜですか」
「考えるためだ」
博士は紙ナプキンに書いた。
考える。
失敗する。
修正する。
「かなり人間ですね」
「かなり人間だ」
「ウィトゲンシュタインは?」
「言葉の使われ方を見る」
「はい」
「啓蒙という言葉が出たら注意する」
「なぜですか」
「啓蒙という単語の中に、教育と支配が混ざりやすいからだ」
「なるほど」
「ニーチェは?」
「その啓蒙は誰の価値観だ、と聞く」
「出ましたね」
「必要だ」
「アリストテレスは?」
「徳を育てろと言うだろう」
「はい」
「ただし、人間を完成品として工場出荷しようとは言わない」
「かなり違いますね」
「かなり違う」
博士は紙ナプキンに書いた。
育てる。
作る。
「混ぜるな」
「そうだ」
私は少し考えた。
「博士」
「何かね」
「啓蒙って難しいですね」
「難しい」
「なぜですか」
「成功すると、相手が自分で考え始めるからだ」
「はい」
「そして、自分と違う結論を出す」
「あ」
「そこまで含めて受け入れられるか」
「難しいですね」
「難しい」
博士はうなずいた。
「だから啓蒙は危険なのだ」
「危険」
「そうだ」
「考えろと言いながら、自分と同じ答えを要求した瞬間」
「はい」
「啓蒙は支配に変わる」
博士は今日の答えをまとめた。
啓蒙とは、自分の頭で考えることを促すことである。
他人に判断を任せ続ける未成年状態から抜け出すことである。
啓蒙は、正解を配ることではない。
価値観を植え付けることでもない。
考えろ、ただし答えはこれだ、は啓蒙ではない。
他人のベスポジを知る術はない。
だから、正しいベスポジを配ることもできない。
啓蒙とは、自分で考える能力を育てることである。
そして、その結果として自分と違う結論が出ることも受け入れなければならない。
「博士」
「何かね」
「チンポジで言うなら?」
博士は少しだけ考えた。
「チンポジが気になる」
「はい」
「自分で調整する」
「はい」
「試す」
「はい」
「失敗する」
「はい」
「また試す」
「はい」
「これが啓蒙だ」
「え」
「私が君のベスポジを教えてやろう」
「はい」
「これは?」
「啓蒙ではないですね」
「そうだ」
「支配です」
「そうだ」
博士は紙ナプキンに最後の一文を書いた。
啓蒙とは、正しいチンポジを教えることではない。
自分で探せるようになることである。
「かなりチンポジですね」
「かなりカントだ」
「同じなんですか」
「たぶん怒られる」
「でしょうね」
博士は笑った。




