平等とは。
平等とは何か。
その問いを出すと、博士は紙ナプキンに短く書いた。
同じ人間として扱うこと。
「同じ扱いをすることではないんですか」
「近いが、違う」
博士は即答した。
「違うんですか」
「違う」
博士は紙ナプキンに書いた。
同じ人間として扱う。
同じ処理をする。
「分ける」
「また分ける」
「何度でも分ける」
博士は言った。
「平等という言葉は、すぐ壊れる」
「壊れるんですか」
「壊れる」
「なぜですか」
「同じにすることと、公正に扱うことを混ぜるからだ」
博士は紙ナプキンに書いた。
同一処理。
平等。
公平。
「増えましたね」
「必要だ」
博士はコーヒーを飲んだ。
「身長百八十センチの人がいる」
「はい」
「身長百五十センチの人がいる」
「はい」
「棚の高さが百七十センチだ」
「はい」
「二人に同じ踏み台なし、というルールを適用する」
「はい」
「同じ処理ではある」
「はい」
「平等か」
「怪しいですね」
「そうだ」
博士はうなずいた。
「同じ処理をすれば、必ず平等になるわけではない」
「なるほど」
「逆もある」
「逆?」
「違う処理をしたから、必ず不平等になるわけでもない」
「調整ですね」
「そうだ」
博士は紙ナプキンに書いた。
同じ処理が不平等を生むことがある。
違う処理が平等を支えることがある。
「これは強いですね」
「強くてよい」
「でも、調整しすぎると特別扱いになりませんか」
「なる」
博士は即答した。
「そこは認めるんですね」
「認める」
「ではどうするんですか」
「目的を見る」
博士は紙ナプキンに書いた。
何を同じにするのか。
「何を同じにするのか」
「そうだ」
「結果ですか」
「場合による」
「機会ですか」
「場合による」
「扱いですか」
「場合による」
「歯切れが悪いですね」
「平等は歯切れよく扱うと事故る」
博士は言った。
「試験なら、問題は同じ方がよいことがある」
「はい」
「だが、視覚障害者に同じ紙だけ渡して終わりなら?」
「受けられませんね」
「なら、点字や読み上げは?」
「調整です」
「特別扱いか」
「平等のための調整」
「そうだ」
博士は紙ナプキンに書いた。
平等のための違い。
「かなり大事ですね」
「かなり大事だ」
博士は続けた。
「ここでカントを借りよう」
「人を目的として扱え」
「そうだ」
「平等とは、人を同じ部品として扱うことではない」
「はい」
「同じ人間として扱うことだ」
「なるほど」
「ミルは?」
「自由ですか」
「そうだ。各人の自由を守る。ただし他人に危害を与えない範囲で」
「平等と自由は衝突しますか」
「することがある」
「面倒ですね」
「面倒だ」
「ロールズは?」
「ここで出すべきだな」
博士は紙ナプキンに書いた。
不利な立場の者から見てどうか。
「無知のヴェールですね」
「そうだ」
「自分がどの立場になるか分からないなら、どんな制度を選ぶか」
「はい」
「平等を考える時には使いやすい」
「チンポジ博士なのに、普通に哲学していますね」
「私は哲学者だからな」
「名前以外は」
「そこは平等に扱え」
博士は少し笑った。
「ここでチンポジ哲学だ」
「来ましたね」
「本人のベスポジは本人にしか分からない」
「はい」
「だが、他人のベスポジを理由に、自分が常に譲らされるなら?」
「不平等ですね」
「そうだ」
「逆に、自分のベスポジだけ通すなら?」
「王様面です」
「そうだ」
博士は紙ナプキンに書いた。
私のベスポジ。
あなたのベスポジ。
「両方ある」
「はい」
「平等とは、その両方を人間の領域として扱うことだ」
「かなり綺麗ですね」
「題材が悪いだけだ」
「自覚はあるんですね」
「ある」
博士は続けた。
「ここで危ないのは属性だ」
「属性」
「男だから」
「はい」
「女だから」
「はい」
「高齢者だから」
「はい」
「障害者だから」
「はい」
「外国人だから」
「はい」
「このあたりは入口にはなる」
「入口」
「そうだ」
「でも証明ではない」
「弱者回ですね」
「そうだ」
博士は紙ナプキンに書いた。
属性は入口。
扱いは個別。
「平等は属性を見ないことですか」
「最終的には、かなりそこへ向かう」
「最終的には」
「そうだ」
「最初から見ないと困ることもある?」
「ある」
「不利益を発見するため」
「そうだ」
「でも、ずっと属性を見続けると?」
「属性の席が固定される」
「差別する側と、される側」
「そうだ」
博士はうなずいた。
「だから平等は難しい」
「かなり難しいですね」
「属性を見ないと不利益を発見できないことがある」
「はい」
「だが、属性を見続けると平等から遠ざかることもある」
「はい」
「だから、最後は不問へ戻す」
「チンポジ哲学ですね」
「かなり近い」
博士は今日の答えをまとめた。
平等とは、同じ人間として扱うことである。
同じ処理をすることとは限らない。
同じ処理が不平等を生むことがある。
違う処理が平等を支えることもある。
何を同じにするのかを見ろ。
機会か、条件か、扱いか、結果か。
平等のための調整はある。
ただし、調整は特権化しやすい。
属性は不利益を発見する入口になる。
だが、属性は人間そのものではない。
最後は属性を不問へ戻す必要がある。
「博士」
「何かね」
「チンポジで言うなら?」
博士は少しだけ考えた。
「全員に同じパンツを配る」
「嫌ですね」
「同じ処理だ」
「平等ではないですね」
「そうだ」
「サイズが違います」
「体型も違う」
「好みも違う」
「生活も違う」
「つまり?」
博士は紙ナプキンに書いた。
同じパンツを配ることが平等ではない。
それぞれが収まる余地を持つことが平等である。
「かなりチンポジですね」
「かなり平等だ」
「同じものを渡すことではない」
「そうだ」
「でも、誰かだけ高級パンツなら?」
「揉める」
「では?」
「理由を見る」
「理由」
「必要な調整か。特権か。費用は誰が持つか。終わりはあるか」
「実務ですね」
「平等は実務だ」
博士は最後に紙ナプキンをこちらへ向けた。
平等とは、全員を同じ形に押し込むことではない。
全員を同じ人間として、不問に戻せる形で扱うことである。
「綺麗ですね」
「私は哲学者だからな」
「名前以外は」
「その名前への扱いは平等かね」
「同じ人間として扱っています」
「ではよい」
博士は笑った。




