アンコンシャス・バイアスとは。
アンコンシャス・バイアスとは何か。
その問いを出すと、博士は紙ナプキンに短く書いた。
気づいていないチンポジのズレ。
「最悪ですね」
「だが近い」
「近いんですか」
「かなり近い」
博士はコーヒーを飲んだ。
「まず、アンコンシャス・バイアスとは何だと思う」
「無意識の偏見です」
「そうだ」
「思い込みです」
「そうだ」
「差別です」
「そこは早い」
「違うんですか」
「違う」
博士は紙ナプキンに書いた。
偏見。
思い込み。
差別。
「分ける」
「また分ける」
「何度でも分ける」
博士は言った。
「アンコンシャス・バイアスは、まず認識の話だ」
「認識」
「そうだ」
「男だからこう」
「はい」
「女だからこう」
「はい」
「若者だからこう」
「はい」
「老人だからこう」
「はい」
「外国人だからこう」
「はい」
「こういう見え方だ」
博士は紙ナプキンに書いた。
見え方のクセ。
「なるほど」
「人間の脳は雑だからな」
「言い切りましたね」
「かなり雑だ」
博士は続けた。
「ここで認識論だ」
「出ましたね」
「人間は世界をそのまま見ていない」
「はい」
「見たものを整理する」
「はい」
「分類する」
「はい」
「省略する」
「はい」
「だからバイアスは発生する」
「なるほど」
博士は紙ナプキンに書いた。
認識は圧縮である。
「嫌な真理ですね」
「だが便利だ」
「便利なんですか」
「毎回ゼロから判断していたら死ぬ」
「それはそうですね」
博士はうなずいた。
「だからバイアスは悪そのものではない」
「おや」
「むしろ標準機能だ」
「じゃあ終わりでは?」
「終わらない」
博士は即答した。
「なぜですか」
「認識のクセと、扱いは違うからだ」
博士は紙ナプキンに書いた。
見え方。
扱い。
「分けろ」
「また分ける」
「分けないと事故る」
博士は言った。
「私は男は力が強いと思っている」
「はい」
「バイアスかもしれない」
「はい」
「では採用面接で女性を落とした」
「はい」
「これは?」
「外部行動ですね」
「そうだ」
「私は若者は頼りないと思っている」
「はい」
「だから若者を昇進させない」
「はい」
「これは?」
「外部行動ですね」
「そうだ」
博士はうなずいた。
「ここでチンポジ哲学が出る」
「出ますか」
「出る」
博士は紙ナプキンに書いた。
内心は不問。
行動は扱う。
「いつものですね」
「いつものだ」
「つまり?」
「何を思ったかより、どう扱ったかを見る」
「なるほど」
「アンコンシャス・バイアスは認識の問題だ」
「はい」
「差別は運用の問題だ」
「はい」
「混ぜるな」
博士は紙ナプキンに線を引いた。
無意識の偏見。
差別行為。
「同じではない」
「違いますね」
「違う」
博士は続けた。
「ここで面白い話がある」
「何ですか」
「アンコンシャス・バイアスという言葉は、時々おかしな使われ方をする」
「おかしな?」
「そうだ」
博士は紙ナプキンに書いた。
あなたにはバイアスがある。
「はい」
「だから従え」
「……あれ?」
「気づいたか」
「変ですね」
「変だ」
「なぜですか」
「バイアスがあることと、相手が正しいことは別だからだ」
「論理学ですね」
「そうだ」
博士は紙ナプキンに書いた。
あなたにはバイアスがある。
だから私が正しい。
「これは?」
「飛躍です」
「そうだ」
「かなり飛躍です」
「かなり飛躍だ」
博士は満足そうだった。
「人間にはバイアスがある」
「はい」
「私にもある」
「はい」
「君にもある」
「はい」
「だから?」
「気を付ける」
「そうだ」
「だから従え、ではない」
「そうだ」
博士は続けた。
「ここでニーチェを借りよう」
「その価値は誰が作った」
「そうだ」
「バイアス認定する側にバイアスはないのか」
「ありますね」
「かなりある」
「つまり?」
「全員怪しい」
「嫌ですね」
「かなり嫌だ」
博士はコーヒーを飲んだ。
「だから大事なのは」
博士は紙ナプキンに書いた。
バイアスをなくすこと。
「ではない?」
「ではない」
「え?」
「不可能だからだ」
「認めるんですね」
「認める」
「では?」
「バイアスがあっても、運用が壊れないようにすることだ」
「運用」
「そうだ」
「面接」
「はい」
「採点」
「はい」
「契約」
「はい」
「昇進」
「はい」
「できるだけ客観基準を置く」
「なるほど」
「バイアスを消すのではなく、暴れにくくする」
「現実的ですね」
「哲学は時々現実的だ」
博士は今日の答えをまとめた。
アンコンシャス・バイアスとは、無意識の見え方のクセである。
人間の認識には圧縮と分類があるため、完全には避けられない。
バイアスは認識の問題であり、差別は運用の問題である。
見え方と扱いを混ぜるな。
バイアスがあることと、相手が正しいことは別である。
「あなたにはバイアスがある。だから私が正しい」は飛躍である。
バイアスをゼロにすることは難しい。
だから、バイアスがあっても運用が壊れない仕組みを作れ。
「博士」
「何かね」
「チンポジで言うなら?」
博士は少し考えた。
「私はこの位置が楽だ」
「はい」
「だから他人も楽だと思った」
「はい」
「これは?」
「バイアスですね」
「そうだ」
「では、他人にも強制した」
「はい」
「これは?」
「外部行動ですね」
「そうだ」
博士は紙ナプキンに最後の一文を書いた。
自分のベスポジを、
他人のベスポジだと思うな。
「綺麗ですね」
「私は哲学者だからな」
「名前以外は」
「その評価にも、少しバイアスを感じるな」
「気のせいです」
博士は笑った。




