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哲学と私 あるいは、チンポジ博士の講義  作者: チンポジ博士


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105/105

権力とは。

 権力とは何か。


 その問いを出すと、博士は紙ナプキンに短く書いた。


 他人の選択肢を変えられる力。


「怖いですね」


「怖い」


「悪ですか」


「違う」


「違うんですか」


「違う。だが危ない」


 博士はコーヒーを飲んだ。


「まず分けよう」


 博士は紙ナプキンに書いた。


 権力。

 権威。

 暴力。

 責任。


「また分ける」


「何度でも分ける」


「権力は?」


「他人の選択肢を変えられる力だ」


「権威は?」


「この人の言うことなら聞く、と思わせる力だ」


「暴力は?」


「身体や生活を直接壊して従わせる力だ」


「責任は?」


「自分の行動を引き受けることだ」


「全部近いですね」


「近いから危ない」


 博士は紙ナプキンに書いた。


 権力。

 権威。

 暴力。


 混ぜるな。


「権力と暴力は違うんですか」


「違う」


「でも権力は暴力を持つことがありますよね」


「ある」


「国家とか」


「そうだ」


「警察とか」


「そうだ」


「では同じでは?」


「違う」


 博士は言った。


「暴力は、力そのものだ」


「はい」


「権力は、その力を使える位置や構造だ」


「構造」


「そうだ」


 博士は紙ナプキンに書いた。


 力そのもの。

 力を使える位置。


「なるほど」


「権力は、殴らなくても人を動かせる」


「はい」


「上司が言う」


「はい」


「教師が言う」


「はい」


「親が言う」


「はい」


「行政が言う」


「はい」


「専門家が言う」


「はい」


「殴っていない」


「はい」


「だが、相手の選択肢は変わる」


「権力ですね」


「そうだ」


 博士は続けた。


「ここでチンポジ哲学だ」


「早いですね」


「近い」


 博士は紙ナプキンに書いた。


 他人のベスポジに手を入れられる力。


「それが権力ですか」


「かなり権力だ」


「怖いですね」


「怖い」


「でも全部悪ではない」


「そうだ」


 博士は言った。


「子どもが道路へ飛び出す」


「止めます」


「倒れている人がいる」


「助けます」


「店で暴れる人がいる」


「止めます」


「契約を破った人がいる」


「処理します」


「犯罪がある」


「法で扱います」


「全部、何らかの権力が必要だ」


「なるほど」


 博士は紙ナプキンに書いた。


 権力は悪ではない。

 だが、無害でもない。


「ここですね」


「ここだ」


「権力を全部なくすと?」


「止める力がなくなる」


「権力を野放しにすると?」


「支配になる」


「難しいですね」


「権力だからな」


 博士は続けた。


「ここでカントを借りよう」


「人を手段としてのみ扱うな」


「そうだ」


「権力でも?」


「当然だ」


 博士は紙ナプキンに書いた。


 相手を、自分の目的の材料にするな。


「権力者向けですね」


「権力を持つ者すべて向けだ」


「政治家だけではない?」


「違う」


「上司も」


「そうだ」


「教師も」


「親も」


「そうだ」


「専門家も」


「そうだ」


「多数派も?」


「そうだ」


「あ」


「来たな」


 博士は紙ナプキンに書いた。


 権力は、国家だけにあるわけではない。


「民主主義的ですね」


「かなり民主主義的だ」


「権力というと、国家対市民に見がちです」


「それだけでは足りない」


「足りない?」


「民主主義では、市民も権力を持つ」


「投票とか?」


「そうだ」


「世論とか?」


「そうだ」


「多数派とか?」


「そうだ」


「炎上とか?」


「かなりそうだ」


 博士は紙ナプキンに書いた。


 国家の権力。

 多数派の権力。

 世論の権力。

 専門知の権力。

 家庭の権力。


「多いですね」


「多い」


「権力はどこにでもある?」


「ある」


「では全部疑う?」


「点検する」


「疑うではなく?」


「疑うだけでは足りない」


「では?」


「誰が、誰に、何を、どこまで変えられるのかを見る」


「社会問題テンプレですね」


「そうだ」


 博士は続けた。


「ミルならどう見るか」


「危害原理ですね」


「そうだ」


「他人に危害を与える行為には、権力による介入がありうる」


「はい」


「不快なら?」


「権力で潰すのは危ない」


「そうだ」


「迷惑なら?」


「調整」


「そうだ」


 博士は紙ナプキンに書いた。


 不快なら距離。

 迷惑なら調整。

 危害なら介入。

 犯罪なら手続き。


「ここにもつながる」


「全部つながりますね」


「哲学だからな」


「チンポジなのに」


「チンポジだからだ」


 博士は言った。


「権力は、他人の選択肢に触る」


「はい」


「だから理由がいる」


「はい」


「範囲がいる」


「はい」


「手続きがいる」


「はい」


「責任がいる」


「はい」


 博士は紙ナプキンに書いた。


 権限。

 手続き。

 責任。

 限界。


「権力四点セットですね」


「名前は悪いが、まあよい」


「これがない権力は?」


「危ない」


「なぜ?」


「好き嫌いで人を動かせるからだ」


 博士は紙ナプキンに書いた。


 気に入らない。

 だから動かす。


「これは?」


「支配です」


「そうだ」


「心配だから動かす」


「干渉です」


「そうだ」


「善意だから動かす」


「危ない」


「多数派だから動かす」


「かなり危ない」


「正義だから動かす」


「さらに危ない」


 博士はうなずいた。


「権力は、正義の顔をして広がる」


「怖いですね」


「怖い」


「悪人の権力より?」


「善人の権力の方が危ないこともある」


「なぜですか」


「自分が危ないことをしている自覚が薄いからだ」


 博士は紙ナプキンに書いた。


 正しいことをしている。

 だから止まらない。


「刺しますね」


「刺している」


「ニーチェですね」


「そうだ」


 博士は続けた。


「ニーチェなら、その権力は誰の欲望か、と疑う」


「権力欲ですか」


「そうだ」


「助けたい」


「はい」


「本当は支配したい」


「ありますね」


「守りたい」


「はい」


「本当は管理したい」


「あります」


「正したい」


「はい」


「本当は従わせたい」


「かなりあります」


 博士は紙ナプキンに書いた。


 救済。

 管理。

 支配。


「混ぜるな」


「救済回ですね」


「そうだ」


「お節介回でもある」


「そうだ」


「干渉回でもある」


「全部ここにつながる」


 博士はコーヒーを飲んだ。


「アリストテレスなら?」


「共同体ですね」


「そうだ」


「共同体には役割がある」


「はい」


「役割には力がある」


「はい」


「親、教師、上司、役人、店員、医者、警察官」


「はい」


「それぞれ相手の行動を変えられる」


「権力ですね」


「そうだ」


「でも必要な権力」


「そうだ」


 博士は紙ナプキンに書いた。


 役割がある。

 だから権力が生まれる。


「権力はなくせない?」


「なくせない」


「即答ですね」


「人が複数いる限り、力の差は生まれる」


「能力差」


「はい」


「知識差」


「はい」


「年齢差」


「はい」


「立場差」


「はい」


「人数差」


「はい」


「金の差」


「はい」


「情報の差」


「はい」


「全部、権力になる」


 博士は紙ナプキンに書いた。


 差は、権力になることがある。


「では差を全部なくす?」


「無理だ」


「では?」


「力の使い方を縛る」


「義務回ですね」


「そうだ」


 博士は言った。


「強い者がいる」


「はい」


「知っている者がいる」


「はい」


「決められる者がいる」


「はい」


「ならば?」


「義務が生まれる」


「そうだ」


 博士は紙ナプキンに書いた。


 権力を持つ者には、説明義務と抑制義務が生まれる。


「重いですね」


「権力だからな」


「自由ではない?」


「権力者の自由は、他人の自由を壊しやすい」


「はい」


「だからブレーキがいる」


「義務ですね」


「そうだ」


 博士は今日の答えをまとめた。


 権力とは、他人の選択肢を変えられる力である。

 権力、権威、暴力、責任は違う。

 権力は悪ではない。

 だが、無害でもない。

 権力は、国家だけにあるわけではない。

 多数派、世論、専門知、家庭、学校、会社にも権力はある。

 権力は、他人の選択肢に触る。

 だから、権限、手続き、責任、限界がいる。

 不快なら距離。

 迷惑なら調整。

 危害なら介入。

 犯罪なら手続き。

 気に入らないから権力を使うな。

 善意だから権力を使うな。

 正義だから無制限に権力を使うな。

 権力は、正義の顔をして広がる。

 権力を持つ者には、説明義務と抑制義務が生まれる。


「博士」


「何かね」


「チンポジで言うなら?」


 博士は少し考えた。


「君のチンポジは君にしか分からない」


「はい」


「だが、私が君の椅子を動かせる立場にいる」


「はい」


「私がパンツを配る立場にいる」


「はい」


「座り方を決める立場にいる」


「はい」


「それが権力だ」


「怖いですね」


「怖い」


「でも椅子を整える必要がある場合もある」


「そうだ」


「パンツを用意する必要もある」


「そうだ」


「公共の場で足を閉じてもらう必要もある」


「そうだ」


「では何が大事ですか」


 博士は紙ナプキンに最後の一文を書いた。


 権力とは、他人のベスポジに手を入れられる位置である。

 だからこそ、勝手に直すな。理由を示し、範囲を絞り、終わったら手を離せ。


「かなり本丸ですね」


「本丸だ」


「権力は悪ではない」


「そうだ」


「でも危ない」


「そうだ」


「では?」


「抜き身で持つな」


「常時抜刀回ですね」


「そうだ」


 博士は静かにコーヒーを飲んだ。


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