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第二十三話:星の要塞

天文五年 卯月 / 西暦一五三六年 四月

 三郎の宣言通り、和泉いずみの海岸線に異形の構造物が姿を現し始めた。

 それは、日本の伝統的な「高石垣」とは一線を画すものだった。土を盛り、石を積むのではない。三郎が指示したのは、地面を深く掘り下げ、その掘り返した土を外側に積み上げ、さらにその表面を「水硬性石灰」を混ぜた厚いコンクリート壁で覆うという、徹底した構造力学の結晶であった。

「若君、この『五角の星』のような形……。これでは城の四方に死角がございませぬな」

 松永久秀が、建設中の稜堡りょうほうの上から眼下を見下ろした。三郎が設計したのは、後世のヨーロッパで主流となる「星型要塞(ヴォーバン様式)」である。

「そうだよ、久秀。これまでの城は『高く』作ることで威圧したけど、これからは『低く』、そして『厚く』作る時代だ。こうすることで、敵の鉄砲や大砲の弾を斜めに受け流し、どこから攻めてきても十字砲火で蜂の巣にできる」

 三郎は、4歳の短い足で泥を避けながら、壁の強度を点検していた。

 この時代、まだ大砲は極めて希少だが、三郎は知っている。いずれ「技術」が普及すれば、既存の天守閣はただの標的に成り下がる。彼は、この戦国時代を数百年分ショートカットさせようとしていた。

「若君、京の細川晴元が軍を動かしましたぞ。その数、五千。この要塞が完成する前に握りつぶす腹づもりでしょう」

 三好長慶が、馬を飛ばして本陣に駆け込んできた。その顔には、隠しきれない高揚感があった。

「五千か。……長慶、三好の鉄砲隊は何人揃えられる?」

「若君の『塩の道』で得た富で、種子島から百挺、さらに堺で百挺、計二百を工面いたしました」

「十分だ。……彼らには、この『星』がただの泥遊びじゃないことを、その身で理解してもらおう」

 三郎は、要塞の中心部に設置された「指揮所」へ向かった。

 心臓が激しく脈打つ。4歳の肉体には過ぎた緊張だが、前世のエンジニアとしての冷静さがそれを抑え込んでいた。

 (……ごめんね、細川の人たち。君たちが戦うのは、三好の兵じゃない。僕が設計した『最適化された殺戮空間』だ)

 数日後、要塞を包囲した細川軍の前に、見たこともない「石と土の怪物」が立ちはだかった。

 高い石垣も、立派な楼門もない。ただ、幾重にも重なった低い土塁が、獲物を誘うように口を開けていた。

「あれが噂の足利の稚児の城か! 踏み潰せッ!」

 細川軍の先鋒が鬨の声を上げて突撃する。

 だが、彼らが要塞の「外堀」に足を踏み入れた瞬間、三郎が冷徹に計算した殺戮の幕が上がった。

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― 新着の感想 ―
兄上が亡くなったので主人公が阿波公方の正統後継者になりました。 細川六郎さんからしたら将軍様になったら、我が身の破滅でしょう。 三好長慶さん、史実ではあれ程不義理と敵対行為した足利義輝を殺さず和睦する…
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