プロローグ
召喚の光というのは、どの世界でも似たような色をしている。
青白い。少し紫がかっていて、しかし青白い。
魔法陣の模様だけが、世界ごとに異なる。今回は六芒星だった。
刻まれた文字は見慣れないものだった。
大陸の西側の言語系統に属するものだろう、と考えた。
考えたが、考える必要がなかったと思い至る。
何故なら、いつものことだったからだ。
何十回、あるいは何百回と繰り返してきた儀式において、もはや思考は
付随物に過ぎない。
手順を踏む。
それだけだ。
床に降り立つ。
石畳の感触。松明の煙の匂い。
緊張した顔の人間たちが半円状に並んで、こちらを取り囲んでいる。
予想通りの光景だった。
これまで何度も目にした、いつも通りの光景。
「勇者よ」
豪奢な椅子から立ち上がったのは、初老の男だ。
王、あるいはそれに準ずる者だろう。声に力がある。
場数を踏んできた者の声だ。
恐怖を知り、それでも前に立ち続けてきた者の、声だ。
――嫌いではない。
「この世界を、救ってほしい」
俺は少し間を置いた。
「……一つ聞いてもいいか」
室内が静まり返った。想定外の返答だったのだろう。
王の顔に、わずかな困惑が浮かんだ。
「……なんでしょうか」
「世界を救う、というのは、どういう状態を指す?」
沈黙。
誰も答えなかった。答えられなかった、というのが正確かもしれない。
当たり前すぎて考えたことがなかったのか。
あるいは、考えないようにしていたのか。
王は少しの間、俺を見ていた。困惑が、別の何かに変わっていく顔だった。
「魔王を、討伐することです」
「魔王を討伐した後、この世界はどうなる」
「……それは」
「平和になるのか。争いがなくなるのか。人々が皆幸せになるのか」
王は答えなかった。
答えられなかったのかもしれない。答えたくなかったのかもしれない。
その区別は、俺にとってはどうでもよかった。
どちらにしても、同じことだ。
俺は小さく息をついた。
「わかった。やろう」
また室内にざわめきが広がった。
今度は安堵と、それとは別の、微妙な空気が混ざっていた。
その時、視界の端に動く影があった。
人垣の後方。石柱の陰。
一人の少女が立っていた。
召喚の儀に居合わせた者たちからは少し離れた場所で、こちらを凝視していた。
睨んでいる、と表現する方が正確だろう。それを隠そうとする素振りもない。
その顔には、怒りと——
怒りとは少し異なる、もっと複雑な、名前のつけにくい感情が滲んでいた。
目が合った。
少女は視線を逸らさなかった。
――なるほど。
事情は、大体察しがついた。




