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俺の彼女は死刑囚  作者: 氷雨 ユータ
ℯNÐ℮ªTℍ/ℍTª℮ÐNℯ

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私に絶対の信用を預けよ

 六薙罪人の正体は暗行路紅魔とばかり考えていたが、成程。薬子だったか。とすればこれは脅しだ。だがそんな脅しに屈してたまるものか。結局彼女を止めてしまえばついでに助けられるだろう。


 ―――本当にそうか?


 内なる俺がそんな疑問を抱いた。文章から人を想像する事は出来ないが、彼女にしてはやり方がみみっちいというか、それに何の意味がある? 薬子は俺に計画を止められる事など微塵も考慮していない。本気で警戒しているならマリアを助けに行った時点で首を落とされている。わざわざこんな風に俺を抑えつけようとするなんてらしくもない。

 抑えつけるも何も彼女が何処でレコードを抽出するのかも分かっていない。こういう行いは変にヒントを与えるだけで逆効果だとは思わないのだろうか。

 凛原薬子にしてはあまりにも迂闊。

 だが他の人間とは考えたくない。

 何故ならそいつは正真正銘の透明人間であり、探そうにもヒントが全くないのだ。どちらにしても俺が取るべき行動は無視一択。ジッとなんてしてられない。寝室に戻った俺は白蛇の仮面を回収すると、いつ動き出してもいいように鞄の中へ押し込んだ。結局『三人目』とはなんのこっちゃ分からないが、答えを聞かせる日は近いかもしれない…………



「あああああああああああああああああああああああああ!」



 そうだ。何故思い至らなかった。アカシックレコードをどちらの方法で下ろすかなんて決まっている。仮面を使う方だ。薬子はそれを求めていたからマリアを襲った。俺が位置を教えたので既に回収は済ませたのだろうが、本物は俺しか持っていない。薬子はレコード抽出をしたくても出来ない状態にある。

 ならば取引で誘い出せる可能性が…………いや、だめだ。連絡の取り方が分からない。あのメールに返信するのはリスクが高い。考えれば考える程あのメールを送る意味がないので別人だ。何かヒントはないものか。

 俺は核心部分にいながらかなりの情報を隠され、結果的に蚊帳の外に追い出されて来た。だが、様々な物を見て来た。特に二回目の過去は俺にとって絶大なアドバンテージだ。何故なら俺は同伴しただけなので多少の違いはあれど俺が鳳介に同伴した―――俺が通ってきた歴史における綾子の行動も把握できるから。鳳介が銃殺されるトラブルはあったが、あの経験がなければ現代天玖村で得られない情報が確実に存在した。


 ―――考え方を変えよう。


 ヒントは無い。ならば俺が薬子だったら何処を選ぶか考えよう。遠い場所で行う可能性、これはない。雫がまだ生きている以上、普通の場所は彼女が何とかして逃げおおせる可能性がある。それこそレコードの力を使って俺にメッセージを伝える事だって可能だ。

 何故そうしない? 使えないか、制限されているか…………諦めてしまったか。首を切られる寸前、雫は勝手に納得して死んでしまった。薬子と何を話したのかは知らないが、あれで戦意喪失した可能性は十分に考えられる。だから俺に『見つけてほしい』と頼んだのかもしれない。


『しずくうううううううううううううううううううううう!! 絶対、ぜええええったいに貴方を助けますからアアアアアアア!』

 

 過去から脱出する時に俺がそう言った。何故と問われたら奮起する為だが、あの瞬間であれば本人に聞こえた気がしたからだ。あの時の俺には、鼠を操る力があった。それはたまたま偶然手に入れた力などではなく雫の手助けがあったからだ。

 ―――なんで今は使えないんだ?

 雫が生きていると確信したのがあのタイミングだ。では脱出したタイミングで死亡した? 考えにくい。そこまでピンポイントですれ違ったなら俺に運が無さ過ぎる。何より現代の天玖村は雫の記憶の影響を受けていた。死人に記憶能力なんてものはない。状態はどうあれ生存している状態だ。

 つまり―――



















「僕に協力を仰ぐなんてどういう風の吹き回しかな?」

「一番予定が空いてそうだったので……」

 深夜。九龍所長に車を手配してもらうと、俺達は二人きりで薬子が居ると思わしき場所へ向かっていた。『元から』片腕がない所長の運転はハッキリ言って恐ろしかったが、道中には事故もなく、至って快適だった。

「君の友達の予定は知らないが、事務所の人間は全員予定が空いてるぞ。それこそ僕みたいなむさい男ではなく、雪奈君や緋花君みたいな美人と行けばいいのに」

「―――百目の相が、気になって」

「これか?」

 所長は時々説明もなく使っているが、雪奈さん曰く見透かされるとの事。何を見透かされるのかさっぱり分からないが、言葉通りの意味なのだろうと考えた。

「それ、どんな効果があるんでしたっけ?」

「端的に言えば過去を読む。目を合わせないなら少し時間がかかるな。別に魔法の道具じゃないぞ。呪いの道具だ。普通は神社とかで供養するタイプの物だな。雪奈君の物と違って他人には渡せないぞ。これは事故で憑りつかれたものだからな」

「でしょうね。じゃなきゃいつも着けてない。薬子が居たら……それを使ってアイツを見てほしいんです」

「僕は嘘発見器という訳か。うん、いいだろう。だが単独行動は組織のリーダーとしていただけない。すまないが一本連絡は入れさせてもらったよ」

「構いません。もしあそこにいるなら……逃げるつもりが更々ないと思うので」

 車が停止した。所長が先に降りろというので一足先にお邪魔する。


 ―――まさかもう一度ここに来るなんてな。


 合計三回目か。夕璃神社を訪れるのは。レコードが気を利かせてくれた二度目は脱出出来たが、一度目は脱出の際に鳳介一人を遺して爆破されてしまった。そのせいで俺も綾子も戻るに戻れず、俺は鳳介の提案に乗っかって嘘を吐くしかなかった。過去に飛びでもしない限り二度と訪れないと思っていたが―――



 塞がっていた筈の横井戸が元通りになっている。ビンゴだ。



「成程、あそこが塞がってないから当たったという訳か」

 背後から九龍所長が肩を並べに来た。その顔は無数の眼が描かれた布で覆われている。早速使っているらしい。呪いに劣化の概念があるのかは分からない。

「昔……いや、鳳介が雫を逃がす際にここを通れと言ったんです。雫の力を使えばここの障害物を取り除くくらい訳ない」

「他の人、例えば神社の神主が取り除いた可能性は?」

「ここ、とっくに誰も使ってないんですよ。というか何処にも繋がってない筈なんです。掃除する意味がない」

 鳳介なら許可を取りに行く所だが時刻は深夜。こんな小さな神社なら関係者は全員帰宅している筈なので、悪いがこのまま進ませてもらう。

 横井戸を躊躇なく突き進み、本来あり得ない出口を通過する。昔はこの先の景色に驚愕したものだ、井戸の先に村があるなんて。正直に言うと井戸に横が存在したという方が驚きだったが。



 綺麗な天玖村が広がっていた。



 霧はなく、怪物も居らず、夜ですらない。人っ子一人何の気配もない滅んだ瞬間の村。一望するだけで、ここが故郷だった錯覚さえ覚える。

「……成程。ここが『十年前』の天玖村か」


 廻る 廻る 幾歳の恨みが

  

「……歌?」

 あまりにも緩慢なテンポにそれが歌と気付くまで一瞬の遅れがあった。村全体に聞こえるその声は―――薬子こと七凪霖子。ここに居るのは間違いない。俺と所長は手分けして村の中を探す事にした。端から渦を描くように真ん中へ収束していけば必ず見つかるだろう。


 山間の 小さな村を訪れて 

 新たな救いと 大好きな声

 私の心を 受け入れてた

 共に居立つこと 希う

  

 村長の家には居ない。学校にもいない。七凪の家にもいない。何処に居るんだ。何処で儀式を行っているんだ。

「くーらくふーかいそーのーばーん、あーくまおーにととじらーれー♪ あーれもこーれもうーがーたーれー、こーえーたちーにくちのうるいー♪」

 声が近い。端っこではない。真ん中だ。村の広場、隠れ場所もなければ珍しい物体も無い。行くだけで全てが分かる。誰が居て誰が居ないのか、彼女が何をしようとしているのか。

 広場には、鳳介の遺した書類に記されていた奇妙な陣と、女性が一人。

「……見つけたぞ。凛原薬子、いや―――七凪霖子」













「……………………はあ、やっぱり、来たのですね」

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