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星姫計画  作者: クンスト
Ver2.00 第一章 イリーガルナンバー035 剣道姫 蜜柑《マンダリン》の場合
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転入一月目 蜜柑-8

 蜜柑マンダリンに土下座をされてしまった日向ひゅうがは助けて欲しそうに周囲を見渡す。が、誰にも助けられない。

 だってそうだろう。同級生の女子に土下座されるなんて珍事、普通は発生しない。地球に隕石が落ちてくる確率の方がまだ高そうである。


「お師匠。どうか、その技を。超硬合金を斬る技を私に伝授をっ!」

「え? いや、そう言われても。超能力は生来のものだから……」

「そこをどうかっ。どうかッ」

「そんなに頼まれても。なぁ、武蔵むさし、助けてくれよ!」


 土下座されている日向の方が困っている。

 仕方がないので俺が助け船を出してやろうではないか。



蜜柑マンダリン。修行の道はつらく長くけわしいぞ。それでも、挑戦するのか?」

「はい、お師匠!」

「おいっ、他人事だと思って無責任な事を言うなよっ」



 誰も日向を助けるとは言っていない。

 蜜柑マンダリンの肩に手を当てて、これからの修行に必須となる物品を持ってくるように指示を出す。


「いい度胸だ。では、食堂に行ってスプーンを取ってきなさい」

「はい、お師匠!」

蜜柑マンダリンも武蔵の言う事を真に受けるなって。俺、一言も教えるって言っていないよ。というか、武蔵の事を師匠って言っていない?!」


 いいや、サイコキネシスは日向の範疇だから、日向が師匠で間違いない。

 颯爽さっそうと土下座を解除して、フラッグダッシュよろしく部屋を出て行く蜜柑マンダリン

 対して日向は俺に詰め寄って体をシェイクしてくる。


「どうするんだよ?! サイコキネシスに限らず超能力は先天的なものであって、他人に教えて開花させられる事は絶対にない。臓器を抜き取って移植したって駄目だった。スサノウ計画のデザインチャイルドなら嫌って程に分かっているはずだろ、武蔵! まして、超高度AIが超能力を習得なんて!」


 事が超能力であるため、日向はちょっと本気で怒っている。掴まれた腕が少し痛い。


「別にサイコキネシスを開花させなくてもいい。蜜柑マンダリンの願いは金属柱を斬る事だ。超能力を使う必要はないだろ」

「全然、斬れていなかったのに!」

「日向がお手本を見せる事で何かしら進展があるかもしれない。超高度AIの解析能力は人類の想像を絶する。そこを信じよう」

「確証もないのに無責任だっ」


 確かに確証はないのだが、そんな事は俺以上に蜜柑マンダリンが分かっている。超高度AIは計算高い。

 だが、それでも蜜柑マンダリンは土下座をしてまで超能力なんてオカルトに賭けてきたのだ。もう他に掴むべき藁はないのだろう。


「無理に挑戦するのは無駄って態度だった蜜柑マンダリンが土下座までしたんだぞ。本心では諦めたくないってのが見え見えだ。それを、日向は見捨てろっていうのか?」

「……いや、そうは言わないけど。だからって」

「無理に挑戦させてやろうぜ。まがりなりにも同級生だ。応援してやろうぜ」

「……でも、それでも駄目だったらどうするんだ。かえってうらまれる結果にならないか? そもそも、星道学園の生徒って俺達の敵っぽくない?」

「敵か。敵に対して土下座するのは、まったくもって奇妙だよな。どんな事情があるのやら」


 蜜柑マンダリンが金属柱を斬れる保証はまったくないが、蜜柑マンダリン本人に対してはいちおう策を考えている。


「無理に挑戦するのは無駄って態度、懐かしいよな。まるで、マッド共に飼われていた頃の俺達のようだ。どうせ外に逃げても世界は滅びると考えて、何もしなかった俺達を日向は今、どう思っている?」

「武蔵……」

「スサノウ計画のデザインチャイルドなら否定したくはならないか。日向だけでなく、お前等全員そうだろう?」


 どうせ超能力を使えば解決できるという怠慢モラトリアムは終わりだ。ここからは学園生らしくでいこう。


「本気で蜜柑マンダリンに勝ちに行くぞ」





“シリアルナンバーXXXより、シリアルナンバーXXY宛

 眉唾でしたが事象を目の前で見せつけられました。解析調査のため、リソースの占有を申請します”

“シリアルナンバーXXYより、シリアルナンバーXXX宛

 三名よりリソース貸出、二名より余剰リソース供与がありました。……大変申し訳ありません。こちらが限界です。生徒会長を名乗っていながらなさけない限りです”

“シリアルナンバーXXXより、シリアルナンバーXXY宛

 十二分です。必ず再現してみせます”

“シリアルナンバーXXYより、シリアルナンバーXXX宛

 あまり気負い過ぎないようにしてくださいね。未だに解明できていない領域への挑戦になるのですから”

“シリアルナンバーXXXより、シリアルナンバーXXY宛

 問題ありません”

“……シリアルナンバーXXYより、シリアルナンバーXXX宛

 シリアルナンバーXXZより、メタ量子の関与も検討されると情報提供がありました。論文のリンク先を転送します”

“シリアルナンバーXXXより、シリアルナンバーXXY宛

 メタ量子ですか? 量子を構成する更に極小の量子。観測できない域にあるため仮定のものでしかないという”

“シリアルナンバーXXXより、シリアルナンバーXXY宛

 サイコキネシスが観測外のエネルギーのやり取りである事は間違いないでしょう。参考にしてみてください”

“シリアルナンバーXXXより、シリアルナンバーXXY宛

 ありがとうございます。参考にしてみます”





 蜜柑マンダリンは肉食動物のような目をしながら、日向の手元に注目している。

 日向の手の先、道場の畳の上に置かれているのは何の変哲もないスプーンだ。


「お師匠、お願いします」

「そんなに見つめられる程のものではないけど。こうやって、まずスプーンを持ちます」

「はい、お師匠」

「スプーンが溶けます」

「……お師匠、分かりません」


 そりゃそうだ。日向がスプーンを手にした途端、指で触れている部分が液化して折れ曲がった。意味が分からない。


「日向、端折はしょり過ぎだ。もう少しゆっくりしろ」

「そう言われても……」


 スプーンに対しては完全にオートで働く日向のサイコキネシス。

 人生において一度たりともスプーンでカレーを食った事のない男の悲哀を知っている身としては同情を感じなくもないが、それはそれとして、お手本にならないからもう少し工程ごとに超能力を使えよ。


「ゆっくりと超能力を使わないと蜜柑マンダリンが観測しづらいだろ」

「触れたらスプーンが融解するのに、どうやって」

「指でこする的な行動は?」

「あった方が曲げ易いのは確かだけど、スプーン程度なら必要ない」


 一般的に広まっているスプーン曲げの超能力の知識通り、指先でスプーンの持ち手をこするというが初心者向けのようだ。実際、金属柱に対しては日向は手ででていた。


「擦る……。お師匠、熱を加えているという事でしょうか。液化していますし」

「熱くはないんだよなぁ」


 日向の言う通りスプーンの温度は変化していない。溶けた直後のスプーンに触れても熱くなかった。パイロキネシス系もそううなずいている。蜜柑マンダリンがサーモグラフィでも確認した。


「だったら、どうして溶ける?」

「そう言われても……。武蔵、お前のアポーツだって人に原理を説明できないだろ」

「擦るという行動に意味があるのでしょうか」


 分からないので、俺、日向、蜜柑マンダリンの三人で並んでスプーンを指で擦る。

 日向は擦るまでもなく再びスプーンを融解させてしまったが、俺と蜜柑マンダリンは真顔で奇行を続ける。

 ……ふと、胸に幼き頃の情景が浮かぶ。超能力者ながらに、他の奴の超能力をうらやましがって真似した日々がかつてあったな。特に備後びんごの超能力はかなり練習した。

 まぁ、他の超能力に目覚める事はなかったのだが。


「お師匠、これ、意味があるのでしょうか?」

「修行はつらく長いものだと言ったぞ。たったの五分で音を上げるなど笑止」

「も、申し訳ありません」

「いや、サイコキネシス系として言うけど、意味はなくない?」


 後ろ向きな事をいう日向のひたいをスプーンで叩く。と、液状化して飛び散り糾弾に失敗する。


「指である必要性はなさそうだな。額でも試してみるんだ、弟子の蜜柑マンダリン

「はい、お師匠」

「いや、だから武蔵は師匠でなくて、立ち位置的には俺が師匠枠」


 スプーンの固く冷たい感触を額でも味わったが、当然ながらスプーンは曲がらない。

 同じスプーンを日向に触れさせると、やっぱり溶け出す。


「だからすぐに溶かすなって」

「スプーン形状の金属全般はこうなるんだ。木材ならまだマシなのだけど」

「木材はありませんが、超硬合金製のスプーンなら用意しましたよ」


 そう言うと、銀色の光沢ある超硬合金製のスプーンを手渡してきたのは無花果いちじくだ。加工が大変と聞いていたのにワザワザ準備してくれていたらしい。


「なるほど。日向のオート発動と超硬合金の強度、どっちが上かは気になる」

「そうでしょう?」

「よし、日向、持ってみてくれ」


 恐る恐る日向が手にした超硬合金のスプーンは……溶けない。形を維持している。


「お、おおッ。俺はついに、スプーンで食事可能な男になったんだ!」


 感動する日向は愛猫を撫でるように超硬合金スプーンを撫でる。直後に、溶けて曲がって、落下していくスプーンの首。


「俺のスプーンがッ」

「だから溶かすなよっ!」


 その日はまったく成果なしであった。




 翌日も蜜柑マンダリンはスプーンを擦り続けているが、男子生徒は別の事に励んでいる。道場に全員で並ぶと朝から永遠と竹刀を振り下ろして練習だ。


「普通に疲れるぞ、これ」

「弱音を吐くな、日向。弟子に笑われるぞ」


 目標は打倒、蜜柑マンダリン。彼女と師弟関係になってもそれは変わらない。

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