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国家の審査観測記録  ―皇居へ拝謁するまで四日間―  作者: マック アダソン
第1章 来日 ―「観測される存在」
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②アダソン家のプライベートジェット機

その数十分後――フィラデルフィア国際空港。一般の動線とは切り離された専用搬入エリアに、リムジンが滑り込むように入ってきた。外からその動きを捉えられることはなく、音も光も、すべてが抑えられている。

 車が静かに停止する。わずかな間を置いてドアが開き、アレックスとアラクネアが降り立った。外の空気は冷たく、宮殿の前で感じたものと同じ質の緊張を帯びている。吐いた息が白く広がり、すぐに消えた。

 足を止めることなく、二人の前に別の車両が寄せられる。黒い車体はリムジンよりもひと回り小さく、無駄のない形をしていた。空港内の移動に特化した車両だと分かる。運転席には、アダソン家の使用人がすでに待機している。

 ドアが開かれる。言葉は交わされないまま、夫妻はそのまま乗り換える。動作は途切れず、流れの中に吸収されるようだった。

 車は短い距離を滑るように進む。外の景色はほとんど変わらないが、通る場所だけがわずかに切り替わっていく。やがて視界の奥に機体の輪郭が現れ、その前で車は静かに止まった。そこに、一機のプライベートジェットが待機していた。白と黒を基調にした外装は光を抑え、滑走路の中でも浮きすぎない。機体の側面と尾翼には、紋章が刻まれている。企業のロゴではなく、アダソン家の印だった。

 ドアが開く。夫妻は迷うことなく降り立ち、そのまま機体へと歩き出す。足元の音だけが、乾いた空気の中でわずかに響く。地上スタッフが距離を保ったまま動く。声はほとんど聞こえない。必要な動きだけが、順番に置かれていく。タラップの下で一瞬だけ足が揃い、そのまま上へと進む。段を踏む音が規則的に続き、やがて機内へと吸い込まれていく。

 機内に入ると、外の冷たい空気がそこで途切れた。扉が閉じられる前に流れ込んだ温度の差が、すぐに均されていく。

 夫妻は足を止めることなく、その場で外套を脱いだ。冬のあいだ毎年身につけている黒と赤のコートも、首元を包んでいたバラの刺繍入りのマフラーも、客室乗務員の手で静かに受け取られていく。外の季節をまとっていた色がそこで引き、代わりに、その下に整えられていた装いがはっきりと現れる。

 アレックスは深いネイビーのスーツに白いシャツを合わせ、首元にはオレンジのストライプのネクタイを締めていた。明るすぎない色の組み合わせの中で、そのネクタイだけが機内の白い光を受けて静かに残る。肩から胸元にかけての線は崩れず、動きに合わせても乱れない。その隣で、アラクネアは深い赤のスーツをきれいに保ったまま、視線を前に落としている。赤い口元だけが、わずかに光の中に浮かび上がって見えた。

 創業のころ、二人の装いはもっと簡素だった。黒を基調にした、実務だけを優先する服がほとんどだった。けれど今は違う。ただ働くためだけではなく、見られることまで含めて整えられている。それでも過剰にはならず、色も質感も、その場に必要な強さだけで収まっていた。

 そのまま奥へ進むと、ハッチが閉じられる。外の空気が完全に断たれ、音が一段落ちる。

 わずかな間を置いて、エンジンが始動する。低く重い振動が床を通して伝わってきた。騒がしいわけではない。それでも、その振動だけで、外の世界と切り離されていく感覚がはっきりと分かる。

 機体はゆっくりと滑走路へ向かう。窓の外で、地面の白が流れ始める。速度は少しずつ上がり、視界の端にあったものが後ろへ押し流されていく。

 加速が続く。そのまま、わずかに身体が押しつけられるような感覚が来て――次の瞬間、接地していた感触が消え、機体は空へと持ち上がっていた。地上の輪郭がすぐに遠ざかり、白と灰色の境界だけが広がっていく。揺れは少なく、上昇は滑らかだった。

 目的地は、日本――羽田空港。


挿絵(By みてみん)


挿絵(By みてみん)

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