232.再びの会談 1
この物語はフィクションです。実在の人物・団体・事件・名称等は一切関係ありません。
翌日。
真紀が昨日予言した通り、朝早くから端末がメールの受信音を鳴らした。
静かな朝に響くその通知音は、特別に腹立たしかった。
短く、正確で、感情がこもっていない。連邦という国家が、学生に見せるべきではないものを朝の八時きっかりに学生の受信箱にねじ込んでくる、あの作風と見事に一致していた。
私は寝ぼけ眼で端末を引き寄せ、差出人欄を一目見た瞬間、眠気が半分吹き飛んだ。
連邦中央星間連合軍事学院 行政通達
しかもグレーの背景に公式の認証印まで押されている。
その文字列を見つめ、私は深く息を吸い込んだ。
朝一番に届く公式印付きのメールに、良い知らせだったことなど一度もない。唯一の例外は学校側が誤送信した奨学金の入金通知だが、そんなことは私のこれまでの人生で一度も起きていないし、今後起きる可能性も低い。
私はそれを開いた。
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連邦中央星間連合軍事学院
「九星戦」個人及び小規模チーム競技規則に関する正式通達
通達番号:第09-CIA-04号 発信日付:本週通常業務第一日 宛 先:本校代表関連事務に係る幹部各位 分類等級:一般行政 公開可 外部への無断転載・転送禁止
本校は連邦九星防区連合協定に基づき、今次「九星戦」を年度代表チーム選抜の正式評価項目として位置づける。代表候補学生全員は所定の規則に従い手続きを行うものとし、いかなる形式による出席回避、報告遅延、または現場秩序への違反も認めない。
記
一、徒手格闘 ▶規則を確認する
二、武器格闘 ▶規則を確認する
三、精密射撃 ▶規則を確認する
四、ロングレンジ障害レース ▶規則を確認する
関係幹部は規定のスケジュールに従い、所定の内部手続きを完了すること。
規則違反、無断欠席、または本星系の名誉を損なう個別行為に対し、本校は一切の懲戒処分権を留保する。
以上
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私は画面を見つめた。
一から三項目は開かなかった。
前の三項目のルールは大体知っている。連邦がどれほど華やかに書き飾ろうと、結局は相手に勝てるかどうかというだけの話だ。そして今朝、私を完全に叩き起こしたのも、その三項目ではない。
私は「ロングレンジ障害レース」の行に指を置き、一秒止まった。
理性では分かっている。これを開いても愉快な読書体験にはならないだろうと。
感情でも分かっている。開かなければ、後で生徒会室に行った時、真紀があの「自分で見れば分かるでしょ」という目で私を見てくる。
私はため息をついた。
開いた。
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連邦中央星間連合軍事学院
九星戦 ロングレンジ障害レース 規則細則(節略公開版)
今次「九星戦」における多星区合同競技の要請に応じ、本項目は「多段接力式長距離機動」形式にて実施し、チームを単位として得点する。関連規則の要旨は以下の通りとする。正式文書は別途下達する。
記
一、参加員数 各星区代表チームは十名で構成する。 うち五名は、本星区の先行三種目——「徒手格闘」「武器格闘」「精密射撃」——の総合成績評価により選抜する。 残り五名は、本星区代表校の生徒会が規定に従い幹部を推薦・派遣する。
二、区間計画 全行程を十区間に分割し、各参加者は一区間を担当する。 起点及び終点並びに経路は別途公告する。詳細な地形、気候、生物分布状況については、公式の最終発表を正とする。
三、抽選権限 具体的な競技地点は、先行三種目の総合得点が最高の学校が代表一名を指名し、公開抽選会議に出席のうえ決定する。 他の星区は当該抽選結果に対する変更要求を提出できない。
四、装備規範 各参加者は規定に従い制式火器、指定弾薬、及び個人戦闘装甲を携行し、各区間の受付ポイントにて装備検査を通過した後にのみ出発できる。 装備検査を完了しない場合、当該区間は一律失敗とみなす。
五、引き継ぎ規則 選手は指定の引き継ぎポイントにて次の選手との引き継ぎを完了した後にのみ前進できる。 引き継ぎの際、次の選手が今回の競技公式認定の「証物」を所持していることを確認しなければならない。次の選手が所定の位置にいない場合、証物が紛失した場合、又は指定時間内に有効な引き継ぎが完了しなかった場合、当該区間は自動的に失敗と判定される。
六、環境対応 移動中に現地の野生生物による襲撃に遭遇した場合、参加者は自身の装備に基づき合理的な防衛行動をとることができる。 異常気象が発生した場合は公式のリアルタイム発信情報に準ずること。停止命令を受けずに自主的に停止し、又は経路を離脱した者は、一律失敗とみなす。
七、行為制限 競技期間中、他校参加者への実弾攻撃は厳禁とする。 関連する細則は現場審判団の公告を優先する。
八、後続公告 具体的な参加地点、詳細な行程、気候及び生物調査資料については、先行三種目終了後に別途公告する。
九、リスク告知 本項目の経路は野外の複雑な地形、制御不能な自然環境、及び潜在的な生物学的リスクを含み、本校が認定する「高強度実務評価」項目に該当する。 参加者は受付当日をもって、関連する一切のリスクを完全に承知し、自発的に引き受けたものとみなす。 参加者本人の行為の過失、判断の誤り、又は規則違反に起因する身体的損害、機能喪失、行方不明、又は回収不能の事態については、本校及び本大会運営機関が現場において規定に従い処理を行う権限を有し、事後の個別訴追は受け付けない。 関連する慰撫事務については、連邦の既存規範及び本校内部手続きに従い一括して処理する。
各代表チーム選手が今次任務において本星区の名誉と士官学校の精神を体現されることを願う。
以上
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私は最後の段落をじっと見つめた。
二度読んだ。
三度目も読んだ。
それから端末を閉じた。
「……」
大体五秒ほどかけて、自分が今も夢の中にいないかどうかを、非常に真剣に考えた。
違った。
本当に夢ではなかった。
私は朝一番、パジャマ姿でベッドの縁に座り、布団から足を半分だけ出したところで、自分の所属する軍事学院から公文書を叩きつけられたのだ。「事後の個別訴追は受け付けない」「関連する慰撫事務については連邦の既存規範に従い処理する」という、穏やかで、ほとんど優しいとさえ言える言い回しを使って、正式にこう告げられた。
――学生さん、あなたは死ぬかもしれません。
――もし死んでも、規定に従い処理しますので、ご安心ください。
なんという思いやりだろう。
連邦という国は、人をあの世へ送り出す時でさえ、先に印鑑付きの書類を発行してくれる。
私は力強く息を吸い込み、端末をベッドに投げ、制服を掴んで着替え始めた。
今の私に必要なのは、朝食でもコーヒーでもない。
九島真紀のところへ行き、この公文書を一ページずつ彼女の顔に突きつけて、大声で問い質すことだ。
これが駅伝だって??
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三十分後、生徒会室。
私は昨日よりもさらに大げさな勢いでドアを押し開け、入るなり端末をテーブルに「バン」と叩きつけた。その勢いで、横に積まれた未処理の公文書の山まで一緒に震えた。
「ふざけんな、これのどこが駅伝なのよ!」
私は声を張り上げた。
「これ完全に死の行軍じゃない!!!」
室内にはランもロイもヘートヴィヒもいなかった。当然だ。誰もが私のように、連邦に選ばれて朝一番にこの血圧急上昇の名文を受け取ったわけではない。
真紀はいた。
しかも今日は昨日よりさらに深く座り込んでいた。会長席のデスクの後ろに埋まり、机の上には彼女の顔をちょうど隠せる高さの資料の束が立てられている。まるで数分前から私がこう飛び込んでくることを予測し、あらかじめ薄い紙製の掩体を築いておいたかのようだった。
「会長」
私は彼女の机の端まで詰め寄った。
「私が今さっき何を読んだか、分かってる?」
反応なし。
「その公文書の最後の段落に、『事後の個別訴追は受け付けない』って書いてあるの、知ってる?」
反応なし。
「連邦って、あなたを死地に送り出す前に、『規定に従い処理します』っていう正式通達を先に発行してくる国なの、知ってる?」
やはり反応なし。
資料の掩体の向こうは静まり返っていた。
「……会長」
私は目を細めた。
「今声を出さないなら、昨日『大体駅伝みたいなものかしら』って言い方で、月面の災害から生還したばかりの無実の副会長を騙したことを、黙って認めたとみなすわよ」
「騙してないわ」
紙の掩体の向こうから、ようやく声が聞こえた。
「私はただ、『大体』と『かしら』という二つの言葉を有効活用しただけよ」
「そういう有効活用は殴られるわよ」
「だから今日は先に机の後ろに座っておいたのよ」
「そっちの方がよっぽど殴りたくなるんだけど」
「それも計算済みよ」
私は机の角を掴み、力強く息を吐き出した。
いい。
非常にいい。
九島真紀には一片の罪悪感もないどころか、私の感情が最も激しくなるタイミングを見計らって、自分の身体が打たれる可能性を最小限に抑える位置を事前に評価していたのだ。ある種の奇妙なプロ意識で、感心すべきか、もう一度深呼吸して怒るべきか判断がつかなかった。
結局、両方やることにした。
「それに、このルールは穴だらけに見えるのよね」
私は端末の画面を睨み、ロングレンジ障害レースの細則を再び呼び出した。
「まるで、穴を探させようとしてるみたいに」
私は少し笑いさえした。
好意的な笑いではない。
何かひどく悪いことにようやく気づき、それを口に出すまでの数秒間、口角を上げて時間を稼ぐような笑いだ。
「ほう?」
真紀がようやく資料の掩体の後ろから顔を出した。
その目が私の顔に落ちた時、語気にはごくわずか——本当にごくわずかだが、確かにある——私が実習生の課題をぎりぎり合格させた時に覚える、あの淡い満足感が混じっていた。
「珍しく、ようやく気づいたのね?」
「珍しくって何よ」
私は公文書を第七条までスクロールし、指の関節で二回叩いた。
「例えばこの一条。『他校参加者への実弾攻撃は厳禁とする』」
「ええ」
「じゃあ、ナイフで斬るのは?」
「……」
「それとも、鎮圧用フォーム弾は?スタンレーザーは?麻酔針は?音響兵器は?エアクッション打倒装置は?高周波振動ショートバトンは?」
「あんた、学内備品リストを暗記したの?」
「これを危機管理って言うのよ」
「危機管理は攻撃用の部分だけを暗記するものじゃないわ」
「だから二種類とも暗記したのよ」
真紀は舌打ちをした。
とても短い舌打ちだった。
だが私には分かった。彼女は笑いをこらえている。
「具体的に言うと」
彼女は指を資料の山から抜き出し、机の上を二回叩いた。私のために非公式なまとめをしてくれているかのように。
「ここには、ルールがあるように見えて」
「実は、ルールがないのよ」
私は手元の端末を下ろし、静かに彼女を見つめた。
「この競技の目的は、栄誉のためじゃないわ」
真紀は言った。
「みんなに、恨みをきれいに清算させるためよ」
私は彼女を見た。
「分からない」
本当に分からないわけではない。
ただ、彼女の口から最後まで聞きたかった。
真紀は私を一瞥した。
その一瞥は、いつもより冴えていた。
「考えてみて」
彼女は椅子の背にもたれた。
「この競技が終わった後には、何がある?」
「チーム戦でしょ?」
「そうよ」
彼女は言った。
「しかも今回のチーム戦は、本気の殺し合いよ」
私の背筋が冷たくなった。
「つまり、あんたが言いたいのは——」
「たぶん、自分の仲間から後ろから撃たれるのを恐れているのよ」
彼女は冷たく笑った。
その笑いは短く、感情すらこもっていなかった。
だが感情がないからこそ、特別に冷たかった。
私は二秒沈黙し、それから頭の中の線を繋ぎ終えた。
九つの星区。
九つの防区。
九つの士官学校、それぞれが自分たちの星系の伝統、家系の因縁、上層部の派閥、政治的な清算し残しを抱えている。
帝国と正式にぶつかる前に、連邦はまず「個人戦」で口火を切り、そして駅伝のように見せかけて実は意図的に抜け穴を残したこのロングレンジ障害レースで、「小規模チーム」レベルを作り出す。
名目上はウォーミングアップ。
実際には——
まず全員に、互いの積年の恨み、面子、宿敵との因縁を、制度が許す範囲内でできる限り清算させるのだ。
そうすれば、本当のチーム戦に入った時、誰も自分の仲間の背後で引き金を引かなくなる。
私は顔を強くこすった。
「……本当にでたらめね」
私は思わず感嘆した。
「これをやったら、私たち九つの星区の溝は、ますます深まるだけじゃない」
「だから栄誉のためじゃないと言ったのよ」
「統合作戦司令部も本当に性格が悪いわね」
私は天井を見上げた。
「何をやらせても中途半端なくせに、身内を陥れることに関してだけは天下一品だわ」
真紀は珍しく、すぐには反論しなかった。
彼女はただ、とっくに冷めたコーヒーを手に取り、一口飲んで、そっとカップを戻した。
その動作は単純だったが、私には分かった。彼女のこの件に対する見方は、私とほとんど変わらないのだと。ただ彼女は自分の立場上、私のように無償で「でたらめ」と吐き出すわけにはいかないだけだ。
「じゃあ、この名簿はまだ提出しなくていいの?」
私は訊いた。
「ええ」
彼女は頷いた。
「前の三種目が終わってから、人を探せばいいわ」
私は頷き、端末を机に置いた。
少し考えてから、やはり聞かずにはいられなかった。
「ところで、この通知——」
私は顔を上げた。
「これって、もしかして」
真紀は私を一瞥した。
「会長と副会長だけよ」
その語気は軽く、むしろ少しからかうような響きすらあった。
私は彼女を睨みつけた。
「うわあ、卑劣ね」
「これを階級と言うのよ」
「これは、災害から帰ってきたばかりの人間いじめと言うのよ」
「それでも階級よ」
「自分でも恥ずかしくないの?」
「ないわ」
彼女は言った。
「今日は先に机の後ろに座っておいたもの」
「そういう姿を見ると、余計に机をひっくり返したくなるんだけど」
「ぜひ我慢して」
「どうして?」
「ひっくり返した後でも、この公文書は次に引き込まれる人間に見せなきゃいけないからよ」
「……」
私は彼女を見つめた。
真紀は冷めたコーヒーを再び手に取り、端末を一寸だけ前に押し出し、指の関節でロングレンジ障害レースの規則ページを軽く叩いた。
「まずこれに慣れておいて」
彼女は言った。
「前の三種目が終わる頃には、私がなぜ最初から説明しなかったのか、大体分かるはずよ」
私はうつむいた。
画面の一番下に、「事後の個別訴追は受け付けない」という一行が、まだ冷たくぶら下がっていた。連邦という国がすべての学生に残した、非常に成熟した、非常に責任感のある、非常に思いやりのある小さなメッセージのように。
私は力強く息を吸い込み、端末を閉じ、机の縁にもたれて座った。
窓の外の天気は相変わらず良かった。
この公文書の内容と、呆れるほどのコントラストをなすほどに。
私は真紀を見た。
彼女も私を見た。
しばらく、どちらも何も言わなかった。
そして、ついに私が口を開いた。
「……真紀」
「何?」
「昨日、あんたが『大体駅伝みたいなものかしら』って言った時」
「ええ」
「本当はもう一言、付け加えたかったんじゃない?」
私は目を細めた。
「『繋ぐのは命だけどね』って」
真紀は微笑んだ。
「今日は特別に賢いわね」
「今日のあんたは特別に殴りたくなるわ」
「否定はしないわ」
私はため息をつき、椅子の背に体を預けて天井を仰いだ。
分かった。
今ようやく、本当の意味で理解した。
昨日の真紀の「大体駅伝みたいなものかしら」は、ごまかしでも冗談でもなかった。
彼女はただ、非常に九島式のやり方で——先に笑わせ、少し気を緩ませ、そして自分でその後ろの内容を読んだ時に、心の底からあの一言を撤回させたのだ。
「とても面白い」★四つか五つを押してね!
「普通かなぁ?」★三つを押してね!
「あまりかな?」★一つか二つを押してね!




