118. 親友からのキスは修羅場の始まり!? 5
この物語はフィクションです。実在の人物・団体・事件・名称等は一切関係ありません。
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食堂を出た後、本来ならおとなしく自室へ戻って眠るべきだった。 本当に。 戻る道すがら、私は自分に真剣に言い聞かせていた。いいか星野 シモ、今から洗顔して、横になって、目を閉じて、頭の中では冷却管でも数えろ。真紀を数えるな、あの忌々しいヘリウム・水素駆動炉も数えるな。
だが、二等艙の手前の廊下まで来たところで、ジェスが立っているのが見えた。
一人で。 壁に寄りかかって大げさなポーズを取っているわけでも、誰かが通り過ぎるのを待って可哀想な顔を作っているわけでもない。廊下の照明の下にただ立っていて、手に空のカップを抱え、その表情はいつものジェスらしくないほど、静かだった。
正直に言えば、突然泣き崩れた時より、その光景の方が怖かった。
私は足を止めた。 「……なんでここにいるの?」 ジェスは私を見て、まず唇をわずかに結んでから、ゆっくりと口を開いた。 「待ってた」
その二言が、本能的に私の警戒心を引き上げた。 危険だからではない。 ジェスが笑いを使わない時は、大抵これから言うことが直接的だからだ。そして直接的な人間が一番防ぎにくい。特に、普段は笑い話を緩衝材として使い続けている人間の場合は。
私は数歩近づいた。 「どうしたの?」
ジェスは手の中の空のカップを見下ろし、親指でその縁を一度撫でた。すぐに顔を上げて返事をしない。言葉を組み立てているようだった。彼女にとって、これは非常に珍しいことだ。珍しすぎて、私はもう少し姿勢を正すべきかもしれないという気持ちになった。
「ちゃんと言えてなかったな、と思って」ようやく彼女は口を開いた。声は小さく、いつもより少し軽い。「前のこと……ありがとう」 私は少し固まった。 「前のこと?」 ジェスは目を上げて私を見た。 「何度もあったから」と彼女は言った。「艦橋の時も、採水の時も、私が一人でギリギリだった時も。あなたはたぶん、ただの流れでやったことだと思ってるかもしれないけど、私は覚えてる」
……これは困った。 彼女がいつも通りの笑い飛ばす口調でいてくれれば、「気にしないで、あなたが死んだら代わりに噂話を流してくれる人がいなくなるから」みたいな適当な返しで、空気を生きやすい区間へ戻せた。 だが今は違う。 今の彼女は、本気だ。 本気すぎて、私は乾いた声でしか言えなかった。
「急にそういうこと言われると、慣れないんだけど」 ジェスが笑った。 ほんのわずかに。 「分かってる」と彼女は言った。「だから、あなたが部屋に戻ろうとしてる時、頭が一番鈍くなってるタイミングを選んで言った」 「……ジェス、それはかなりの奇襲よ」 「あなたたちと長くいたら、悪い癖が移った」
私が次の言葉を探している間に、ジェスは一歩前へ出た。 そして、腕を伸ばして私を抱きしめた。
私は全身が固まった。 戦術的な支え合いでもなければ、死線をくぐり抜けた後の雑な肩ぶつかりでもない。ちゃんとした抱擁だった。腕が回ってきて、力は重くはないが、軽く触れただけでもない。 彼女の身体から、食堂と艦内の洗剤が混じった淡い匂いがした。髪が私の顎をかすめた時、くすぐったさで呼吸のタイミングを忘れそうになった。
「……ジェス?」私の声が少し掠れた。 「動かないで」彼女は胸元でくぐもった声で言った。 「その言い方、強盗みたいよ」 「じゃあ、感謝の儀式感を少し強盗してると思って」
何て言い訳だ。 問題は、私にはそれより上手い反論がすぐに浮かばなかったことだ。
仕方なく、私はぎこちなく立ったまま、両手を宙に浮かせて、今の自分が抱き返すべきか、離すべきか、それとも運命を受け入れた手すりのように黙って立っていればいいのかを、まったく判断できずにいた。
だが、さらに厄介なことが待っていた。 ジェスが腕を緩めた瞬間、私がほっと息をついたのと同時に、彼女は泥棒のようにさっと顔を上げて――
ごく軽く、ごく短く。 ほとんど掠めるだけのように。 私の唇に、触れた。
私の中で、すべてが三秒ほど止まった。 それは激しく理性を焼き切るような口づけでも、技巧があって成熟した何かでもなかった。短さは奇襲に近く、軽さは、彼女自身がこれを越境と呼ぶかどうかをまだ決めきれないまま先に踏み込んでしまったような、そんな感触だった。 だが、あまりにも短く、あまりにも軽かったからこそ、それは精確な一撃のように響いた。
私はその場に立ち尽くし、頭が三秒ほど完全に止まった。
ジェス自身も、少し顔が熱くなっているようだったが、それでも「私は慌てていない、慌てているのは宇宙の方だ」という表情を死守しながら、半歩後ろへ引いた。空のカップをぎゅっと抱え、目線が泳いで泳いで、最後に精一杯の言葉を絞り出した。
「……友情のキス」
私:「……」
彼女はさらに付け加えた。 「そう。健全で、普通で、別に大騒ぎするようなことじゃない、友情のキス」
私:「…………」
「そんな目で見ないで。今、私、すごく引っ込みがつかない」
「ジェス」私はようやく自分の声を取り戻した。「友情っていう言葉の定義、かなり広く取ってない?」
彼女の耳の付け根がさらに赤くなったが、それでも死守した。 「辺境地域は風習が違うから、いいでしょ?」 「犯罪地帯の慣習で自分を包むのはやめて」 「包んでないし、ただ……」彼女はそこで詰まり、最後にとても小さな声で言った。「ただ、まずこうしたかっただけ」
この一言は、あの一瞬より、さらに反則だった。 冗談ではないからだ。 少なくとも、全部が冗談ではない。
彼女はもう私を見なかった。カップを胸元へさらに引き寄せ、自分の中の何かを押し込めるようにして、素早く視線を逸らした。
「とにかく、おやすみ」ジェスは言った。「寝てきて。私は今のを……えっと、友情を表現した、ということにしておく」
私が何か返す前に、彼女は本当に泥棒のように背を向け、早足で立ち去った。
廊下に私だけが残された。 壁と、照明と、空調の音と、それから完全に混乱した自分の頭と、向き合いながら。
……友情。 友情のわけがない。
手の甲で自分の唇に触れ、そして心の中でひどく明確に一つのことを自覚した。
今夜もし眠れたとしたら、それは雪風の医官がとうとう給水システムに高効率の鎮静剤を混ぜ込んだからに違いない。
私はほとんど本能だけで自室へ戻った。 ドアを閉めた瞬間、そのままドアに背中を預けて、目を閉じ、深く息を吸った。 まったく意味がなかった。
なぜなら、頭の中は今、「一つのこと」などではないからだ。 災難の鍋だ。
半分は九島重工の新型ヘリウム・水素駆動炉のことを回していて、半分はキャプテン・ハックと氷晶の出所が漏れていることを回していて、半分はハーヴィーが言った「完全に不可能ではない」を回していて、そして残りの少なくとも二半分が全部、ジェスのさっきの抱擁と、あの盗んだような軽い一瞬の再生に使われている。
さらに最悪なことに、こんな状況で、私はまだ真紀のことを考えていた。 深層改修区画の影の中で私を引き戻した時、肩口の前に当てられた彼女の手の力のことを。私の乱れた襟元を直してくれた時のあの感触のことを。「よくやった」という声のことを。「今この瞬間から、キャプテン・ハックの船は単なる闇市の見聞録じゃない。目標よ」という言葉のことを。
そしてまたジェスの「友情のキス」に戻る。
その瞬間、私の頭はついに唯一の誠実な結論を出した。
――終わった。
私はそのままベッドに倒れ込み、腕を目の上に乗せた。まったく異なる方向から飛んできた二発の砲弾に同時に命中したような感覚で、しかも損害管制の支援を要請することもできない。
「……何なのよ、これ」
部屋には当然、誰も答えてくれない。 ただ、雪風のごく遠い低い振動だけがある。まだ換えていないあの老いた反応炉が、艦壁の奥で一定のリズムを刻んでいる。普段ならこの音は安心させてくれる。まだ生きている老いた獣の腹の中に横たわっているような感覚。 だが今夜は、それがカウントダウンのように聞こえた。
分かっているからだ。目を閉じた先に広がるのは、たぶん暗闇ではない。 三つの顔が順番にやってくるのだと。
「換装の段取りをちゃんと考えておいてください」と顔に書いてある、ハーヴィーの工学的に消耗しきった顔。 冷静すぎて、そのまま戦術定規として使えそうな、真紀の顔。 自分だって動揺しているくせに、あれを「友情のキス」と言い張った、ジェスの顔。
……眠れるわけがない。
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