51. 星野の休日 1
この物語はフィクションです。実在の人物・団体・事件・名称等は一切関係ありません。
帰還輸送艦が着艦した後、私はてっきりついに「その場に倒れて死んだふりをし、誰かが宿舎まで運んでくれるのを待つ」段階に入れると思っていた。
現実は、連邦の手続き設計が人間の夢より常に完璧だということを証明してくれた。
艙門が開いた瞬間、出迎えてくれたのは拍手でも花束でも「お疲れ様、みんな」という最低限人間の言葉に聞こえるものでもなく、冷酷なほど白い医療スタッフの列、スキャナーフレーム、消毒ミスト、リストバンド端末、そして一言だった。
「自力歩行可能な方は左、補助が必要な方は右、意識不安定な方はその場に座ってください」
私はその瞬間、考核の現場から帰ってきたのではなく、高リスク家畜の競売場から回収されてきたような錯覚を覚えた。
「温かみのある歓迎儀式ですね」ハーヴィーが後ろで小さく言う。
「あるじゃん、消毒ミストが温かい」ジェスが即答する。
「それは温度じゃなくて屈辱」
「生きて帰ってきて文句言うな」
私たち八人が医療艙の前室に踏み込むと、すぐに医療スタッフと教務処の人間に分流された。
私、ジェス、ロイ、ハーヴィーは「自力歩行可能だが即時検傷が必要」の列に振り分けられた。
D、ラン、九島は体に明らかな固定帯や筋損傷の跡があり、後続処置が必要なため、反対側の詳細検査エリアへ連れて行かれた。
アカリが一番極端だった。彼女は明らかに何事もなかったように安定した歩き方をしていたのに、それでも一人の看護士官に呼び止められた。理由は「左前腕の熱傷、深層熱損傷の有無を確認する必要がある」。
彼女は聞き終えてから、淡々と一言返した。
「ようやく熱損傷という言葉を思い出してくれたんですね」
その看護士官が一瞬詰まった。
危うく吹き出すところだった。
さすがアカリ・フラック。
普段は冬の凍った湖みたいに言葉が少ないのに、一度口を開くと相手の自尊心まで一緒に凍らせる。
私の手首にリストバンドが装着された時、前の端末機に入力画面が表示された。
医療士官は顔を上げずに言う。
「番号」
少し眉をひそめる。
「フロスト01」
「氏名」
半秒止まってから、言った。
「星野霜」
妙な感覚だった。
この二週間、私たちは番号か、呼び名か、「おい」かのどれかで呼び合っていた。撤退が終わって、改めて真剣に自分の名前を要求されると、「ああそうか、私には戸籍があったんだ」という奇妙な違和感がある。
隣でジェスが別の書類を記入していたが、私が名前を言うのを聞いて、すぐ横目でこちらを向いた。
「本当に星野って苗字なんだ。自分で格好つけるために適当につけた名前かと思ってた」
「私が何だと思ってるの。生死がかかった考核の場で芸名をつけるアイドル候補生?」
「言いきれないよ、あなたの普段の発言がそれっぽいから」
「黙って書類書いて」
彼女は鼻を鳴らしながら、自分の情報を申告した。
「ジェス。ジェスで書いて」
医療士官が顔を上げて一瞥する。
「フルネームで」
「教えたくない」
「医療記録に必要です」
「『気性は荒いが命は丈夫な方』で登録してもらっても構わない」
最後は渋々フルネームを補足した。
私は笑わなかった。自分も同じことをしたかったから。
ハーヴィーは情報申告の時、やけに正式に名前を全部言い切った。何かの自己紹介をしているみたいに。
「ハーヴィー。ハーヴィーだけでいいんだけど、どうしても全部必要なら――」
「必要です」医療士官が無表情のまま遮る。
「……センスがない」
「次の方」
ロイは一番素直だった。速く、正確に申告し、過去二週間の脱水の時間帯と大まかな摂取量まで自主的に補足した。医療士官がそれを聞いて思わず顔を上げた。
「普段からこうなの?」
ロイは正直に答える。
「……情報を漏らすのが怖くて」
私は横で思った。違う、あなたは情報を漏らすのが怖いんじゃなくて、生まれた時からメモ帳を本体として配布されるべき人間なんだ。
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正式な検傷は思ったより面倒だった。
スキャン、計測、問診、包帯を全部解いてやり直し、最後に記録写真まで撮る。前線から拾い上げられたばかりなのに、「本当に十分ひどい目に遭ったことを証明してください」という行政手続きを全部こなさないといけない感じがした。
私の右肩の包帯が外された瞬間、担当の看護師が息を吸い込んだ。
「これ、誰が巻いた?」
私が答える前に、隣のベッドの九島が静かに口を開いた。
「私」
看護師が振り向いて彼女を見てから、また私の肩を見た。
「……固定の角度、悪くない」
文句を言われるのを待っていたのに、その言葉を聞いて、危うく九島のために拍手しそうになった。
九島本人の反応は、非常に九島らしかった。
彼女はただ淡々と返した。
「ありがとう。ちゃんと巻かないと、この子がもっと面倒になるから」
「ちょっと」
「罵倒じゃない、医療的評価よ」
「毎回罵倒じゃないって言うのに、毎回そう聞こえる」
隣のベッドのジェスが、全く良心のない笑い声を上げた。
「医療的評価、あははは、隊長が公式に面倒源として認定された」
「足がつった時に私の腕に噛みついた件、まだ忘れてないから」
「あれは戦場の絆よ」
「あれは犬科の行動よ」
Dの方からも動きがあった。
彼の脚がやっと完全に解かれて再診察され、医師が押しながら眉をひそめた。
「この状態で、撤退ポイントまで歩いたの?」
Dは静かだ。
「歩いた」
「あなたたち全員、『死ななければ問題なし』という基準で動いてたんじゃないの?」
ハーヴィーが遠くから即座に手を挙げた。
「報告します、その通りです。しかも広く好評を博しました」
医療スタッフ全員の顔が「まずこいつを縛っておきたい」という表情になった。
アカリの方はもっと静かだった。
彼女の左前腕の熱傷が再処置される時、私は通りがかりに一瞥した。ちょうど彼女と目が合った。
叫び声はない。
息を飲む様子もない。
「痛い」という顔を一切しない。
ただ座っていて、表情は他人の手を処置しているみたいに平坦だった。
この人は本当に怖い。
痛みを感じないのか、それとも痛みを特に言及する価値のない背景ノイズとして処理しているのか、どちらなのか、永遠に分からない。
座席に戻されて包帯を巻き直してもらいながら、私は初めてきちんと、私たち八人が互いの名前を呼ばれるのを聞いた。
番号じゃない、「おい」でもない、「あの人」でもない。
「ドワイト・"D"・バークリー、こちらにサインを」
「アカリ・フラック、処置後二十四時間は大きな伸展動作を避けること」
「九島真紀、医療処置の記録を補足登録する必要があります」
「星野霜、肩の固定は三日間、自分で外してはいけない」
「ジェス、地面を踏まないで」
「ハーヴィー、手掌の傷口に機械油をつけないこと」
「ロイ、帰ってからも水分補給の経過観察を続けること」
「ラン、肩関節の可動域を毎日報告すること」
その瞬間、奇妙な感覚が来た。
私たちは雨林で一緒に死にかけた。
一緒に壕を掘った。
一緒にJägerをやり過ごした。
一緒に火災旋風に追われて掩体壕に駆け込んだ。
それなのに今、医療灯の下で傷患者として一人ずつ再包装されながら、私たちはようやく初めてちゃんと互いを知ったみたいな気がした。
荒唐無稽だ。
ジェスも同じことを感じたらしく、脚を巻き直してもらいながら、横目でこちらを見た。
「正直に言うと、星野霜って名前、あなた本人より小説のキャラクターっぽい」
「じゃああなたの名前は、三章で男主人公を殴り飛ばす問題キャラっぽい」
「わあ、高評価」
「褒めてない」
「分かってる、でももらっとく」
ロイが隣で真剣な顔で言った。
「でも考えてみると、私たち本当に今になってやっとフルネームを交換したんですね」
ハーヴィーがすぐ続ける。
「そうだよ、普通の人は名前を交換してから一緒に飯を食うのに、俺たちは一緒に逃げて、傷病者を引きずって、塹壕を掘ってから、最後に名前を補足した。人間関係の順番が連邦すぎる」
Dが珍しく低く笑った。
「効率的だ」
「どこが効率的なの、これは先に人間を絞り肉機に放り込んでから名札を配るやつよ」ジェスが言う。
「理にかなってる」アカリが突然口を開いた。
私たち全員が彼女を見た。
彼女は袖を引き直しながら、声は相変わらず平坦だった。
「最後まで残った人間の名前は、自然に残るから」
その場が少し静まった。
ハーヴィーが先に「おお~」と声を上げた。
「それ、格好いい」
「座右銘にしようとしてる顔をするな」私は言う。
「遅い、もう覚えた」
「あなたが覚えるものはたいてい碌でもない」九島が刺す。
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