最終章:それでも生きていく
――速報です。
本日未明、長期間にわたり継続していた“壊れた結婚関係”が、
ついに完全崩壊したとの情報が入りました。
関係者によりますと、当事者である男性は、
過去の出来事と向き合うことを決断し、
すべてを「壊す」という選択を取った模様です。
なお、この決断により、
妻・過去の恋人を含む三者関係は解消されたと見られています。
現場は一時、強い緊張状態にありましたが、
現在は沈静化し、それぞれが別の道を歩み始めています。
続報が入り次第、お伝えします。
――それでは本編へ。
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最終章:それでも生きていく
朝だった。
久しぶりに、目覚ましで目が覚めた。
隣には、誰もいない。
静かな部屋。
生活音のない空間。
(……終わったんだな)
ぽつりと、そう思った。
あれだけ重かった空気も、
あれだけ逃げたかった日常も――
今はもう、ない。
* * *
キッチンに立つ。
コーヒーを淹れる。
インスタントでもいいはずなのに、わざわざドリップを選ぶ。
時間がかかる。
でも、その時間が妙に落ち着く。
(こんな時間、あったっけ)
なかった。
いつも何かに追われていた。
誰かに縛られていた。
自分で自分を縛っていた。
でも、今は違う。
何もない。
だからこそ――
(何していいか分からないな)
少しだけ、苦笑する。
* * *
スマホを見る。
通知はない。
理奈からも、美咲からも。
当たり前だ。
終わったのだから。
すべて。
* * *
外に出る。
空気が軽い。
同じ街なのに、違って見える。
人の流れも、音も、光も。
すべてが“普通”に感じる。
(普通って、こんなだったか)
忘れていた感覚だった。
* * *
ふと、足が止まる。
あのバーの前だった。
三年前、すべてが始まった場所。
そして、終わった場所。
しばらく見つめる。
中には入らない。
もう、戻る理由はない。
「……行くか」
小さく呟く。
それだけで、十分だった。
* * *
「おーい」
後ろから声がした。
振り向く。
「姉貴……」
いつものように、腕を組んで立っている。
「何してんの」
「別に」
「嘘」
即バレた。
「まあいいや」
姉貴は隣に立つ。
「で、どう?」
「何が」
「人生」
雑な質問だ。
でも――
「分からない」
正直に答えた。
「でも」
少し考える。
「悪くはない」
それも、本音だった。
「へぇ」
姉貴が少しだけ笑う。
「珍しくまともなこと言うじゃん」
「うるさい」
軽く返す。
こんなやり取りができるのも、久しぶりな気がした。
「ま、いいんじゃない」
姉貴は空を見上げる。
「全部壊したんだから」
「ああ」
「ここから好きにやればいい」
簡単に言う。
でも、それが一番難しい。
そして――
一番自由だ。
* * *
歩き出す。
特に目的地はない。
でも、それでいい。
これから決めればいい。
自分で。
ゆっくりでいい。
間違えてもいい。
逃げなければ、それでいい。
(それでも、生きていく)
そう思った。
それだけで、十分だった。
⸻
完
――続報です。
先ほどお伝えした“壊れた関係の崩壊”について、
新たな情報が入りました。
関係者の男性は現在、特定の束縛や監視から解放され、
一人の生活を再開しているとのことです。
また、元妻および過去の恋人についても、
それぞれ別の道を選択したとみられ、
三者の関係は正式に終了したと確認されました。
専門家は今回の件について、
「長期間にわたり蓄積された歪みが、最終的に自己選択によって解消された事例」と分析しています。
なお、当事者の今後については不明ですが、
少なくとも“自ら選ぶ意思”を取り戻したことが確認されています。
以上で、本件の続報を終わります。
長らくのご視聴、ありがとうございました。
――また別の物語でお会いしましょう。




