ラスト章
ラスト
ラスト章:春風の向こう側
✔ 黒瀬と百子、未来への決断
✔ ひより、最後に見る夢
✔ クロガミの真実の一端
✔ 忘れられても消えなかった想い
✔ そして、それぞれの新しい人生
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春。
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桜が咲いていた。
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青嶺学園 。
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「先生、また寝不足ですか?」
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笑う生徒たち。
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「うるさい」
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少し困ったように笑う
黒瀬 恒一 。
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その隣には、
杉田 百子 。
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「今日はちゃんと朝ご飯食べました?」
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「食べた」
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「嘘ですね」
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「バレたか」
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そんな穏やかな毎日。
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百子は知っていた。
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黒瀬の心の奥に、
まだ誰かの面影が残っていることを。
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それでも。
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「先生」
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「ん?」
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「ゆっくりでいいですよ」
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百子は笑う。
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「私は待てますから」
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その夜。
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遠い街。
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橘 ひより は夢を見ていた。
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夕焼け。
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教室。
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優しい声。
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「旦那様!」
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振り向く男。
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しかし。
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顔だけが見えない。
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「待って!」
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伸ばした手。
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届かない。
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目が覚める。
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涙だけが流れていた。
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「……なんで」
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理由は分からない。
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でも。
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誰かを愛していた。
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そんな気がした。
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誰もいない路地裏。
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黒い影。
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赤い瞳。
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クロガミ が空を見上げる。
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「また春か」
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「人間は、ほんまよう泣く」
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「忘れたい言うて」
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「忘れられへん言うて」
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小さく笑う。
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「せやけどな」
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「それでええんや」
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「全部忘れてしもたら」
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「人間やなくなってまう」
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その姿は、
どこか寂しそうだった。
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「ワシかて……」
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その先は、
誰にも聞こえなかった。
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数日後。
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校庭。
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桜吹雪。
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「杉田先生」
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「はい?」
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黒瀬が珍しく真面目な顔をしていた。
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「これからも」
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「一緒にいてくれるか?」
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百子が目を丸くする。
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「それ、プロポーズですか?」
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「……たぶん」
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百子は吹き出した。
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「たぶんじゃ困ります」
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「じゃあ改めて」
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黒瀬は少し照れながら言う。
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「杉田百子」
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「俺と一緒に、笑ってくれ」
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百子の目から涙がこぼれる。
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「はい」
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「喜んで」
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遠い街。
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ひよりは空を見上げていた。
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春風。
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なぜか。
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胸が少し温かい。
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「幸せになってね」
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誰に向けた言葉か、
自分でも分からない。
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でも。
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それでよかった。
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夕暮れ。
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クロガミが闇へ消えていく。
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「ほな」
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「また会う日までや」
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「次は誰の願いやろな」
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赤い瞳が消える。
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そして。
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春風だけが、
優しく吹いていた。
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『教師・杉田百子物語』
完結
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忘れても、愛した心だけは消えなかった。
またお会いしましょう




