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離婚できないなんて…  作者: マーたん


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忘れられない人

さあ、始まるよ

教師・杉田百子物語


第二話:忘れられない人


 雨。


⸻


 青嶺学園 の窓を、


静かに叩いていた。


⸻


「杉田先生ー」


⸻


 職員室。


⸻


 生徒が駆け込んでくる。


⸻


「黒瀬先生また寝てます」


⸻


「……また?」


⸻


 杉田 百子 はため息をついた。


⸻


 視線の先。


⸻


 机へ突っ伏して寝ている男。


⸻


 黒瀬 恒一 。


⸻


 生徒たちは苦笑している。


⸻


「授業五分前ですよ?」


⸻


 百子が肩を叩く。


⸻


「……ん」


⸻


 黒瀬がゆっくり顔を上げた。


⸻


 寝不足。


⸻


 ひどい顔。


⸻


「先生、顔終わってます」


⸻


「失礼だな……」


⸻


 そのやり取りに、


生徒たちが笑う。


⸻


 最近。


⸻


 黒瀬は少しだけ変わった。


⸻


 昔より、


 人前で笑うようになった。


⸻


 それを見て、


 百子は安心する。


⸻


 でも同時に。


⸻


 怖かった。


⸻


*


 放課後。


⸻


 職員室には、


 二人だけ。


⸻


「杉田先生」


⸻


「はい?」


⸻


「今日、暇?」


⸻


 百子が固まる。


⸻


「……え?」


⸻


 黒瀬が少し困った顔をした。


⸻


「教材運ぶの手伝ってほしい」


⸻


「……あぁ」


⸻


 百子は小さく笑う。


⸻


 少しだけ。


⸻


 期待してしまった自分が恥ずかしい。


⸻


*


 旧校舎。


⸻


 誰もいない廊下。


⸻


 夕暮れ。


⸻


 二人で教材を運ぶ。


⸻


「重っ……」


⸻


「先生、体力なさすぎ」


⸻


「黒瀬先生が力あるだけです」


⸻


 そんな、


どうでもいい会話。


⸻


 なのに。


⸻


 心地よかった。


⸻


*


 その時。


⸻


 黒瀬の手から、


 一冊のファイルが落ちる。


⸻


 紙が散らばった。


⸻


「あっ」


⸻


 百子が慌てて拾う。


⸻


 その瞬間。


⸻


 一枚の紙が目に入る。


⸻


 古い写真。


⸻


 少女。


⸻


 黒瀬と並んで笑っている。


⸻


 百子の動きが止まった。


⸻


「……その子」


⸻


 黒瀬が静かに写真を取る。


⸻


「昔の知り合い」


⸻


 それだけ。


⸻


 でも。


⸻


 その目は、


今まで見たことないくらい寂しかった。


⸻


*


 夜。


⸻


 百子の部屋。


⸻


 雨音。


⸻


 机の上。


⸻


 相馬の写真。


⸻


 そして。


⸻


 今日見た、


黒瀬の顔。


⸻


「……似てる」


⸻


 また思ってしまう。


⸻


 失った人に。


⸻


 でも。


⸻


 違う。


⸻


 黒瀬は黒瀬だ。


⸻


 なのに。


⸻


 放っておけない。


⸻


*


 一方。


⸻


 黒瀬の部屋。


⸻


 机の上。


⸻


 古い写真。


⸻


 橘 ひより 。


⸻


 でも。


⸻


「……誰だ」


⸻


 思い出せない。


⸻


 顔を見ると胸が痛む。


⸻


 なのに、


名前も記憶も曖昧。


⸻


 ただ。


⸻


 泣きそうになる。


⸻


*


 その夜。


⸻


 窓の外。


⸻


 黒い影。


⸻


 赤い瞳。


⸻


 クロガミ が静かに笑う。


⸻


「消しても残るか」


⸻


 風が吹く。


⸻


「ほんま、人間いうんは厄介やなぁ」


⸻


 クロガミは空を見る。


⸻


「せやけど――」


⸻


 笑う。


⸻


「そこがおもろい」


⸻


第二話 完

3話につづく

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