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離婚できないなんて…  作者: マーたん


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40/52

近づいてはいけない距離

登場人物(第二章時点)


⸻


■ 橘 ひより(たちばな ひより)


年齢:18歳

立場:高校三年生/黒瀬の妻


橘 ひより


本作のヒロイン。


学校では普通の女子高校生。


* 少し無気力

* 冷めている

* 空気を読むのが上手い

* でもかなり感情が深い


周囲からは「マイペースな子」と思われている。


しかし実際は、


“黒瀬を独占している”


という最大級の秘密を抱えている。


学校では教師と生徒として距離を保つが、家では完全に甘えるタイプ。


家での呼び方は、


⸻


「旦那様」


⸻


本人は半分ふざけて使い始めたが、最近は普通に定着している。


嫉妬も強め。


黒瀬が女子生徒に囲まれると普通に機嫌が悪くなる。


ただし学校では隠す努力をしている。


また、黒瀬の弱さや孤独にかなり敏感。


「この人を放っておいたら壊れる」


という感覚から、どんどん本気になっていく。


一言でいうと

“先生”ではなく、“一人の男”を見つけてしまった女子高校生


⸻


■ 黒瀬(くろせ) 恒一(こういち)


年齢:27歳

立場:高校教師/ひよりの夫


黒瀬 恒一


国語教師。


女子人気が高い。


理由は、


* 顔がいい

* 優しい

* 落ち着いている

* 少し危なそうな雰囲気がある


ため。


だが本人はかなり真面目。


教師としての“線引き”を何より大切にしている。


だからこそ、


ひよりとの関係に誰より苦しんでいる。


本当は、


* 間違っている

* バレたら終わる

* 失うものが多すぎる


と理解している。


それでも、ひよりを手放せなかった。


学校では、


* 「橘」

* 「補習」

* 「教師の顔」


を徹底。


しかし家へ帰ると完全に力が抜ける。


ひよりから、


⸻


「おかえりなさい、旦那様」


⸻


と言われるたびに少し照れる。


家での呼び方は、


⸻


「ひより」


⸻


自然で優しい呼び方。


また、元々かなり孤独に慣れていた人間。


ひよりと結婚してから、


“帰る場所”


というものを初めて実感している。


一言でいうと

理性で止まろうとして感情に負けた教師


⸻


■ 七瀬(ななせ) 美月(みづき)


年齢:18歳

立場:ひよりの親友


七瀬 美月


明るく社交的。


教室の空気を回すタイプ。


黒瀬のことも普通に「顔がいい先生」として見ている。


しかし最近、


* ひよりの視線

* 放課後の動き

* 黒瀬との空気感


に違和感を抱き始めている。


まだ真実には気づいていない。


だが、


「なんかこの二人、おかしくない?」


という感覚を持ち始めている危険人物。


一言でいうと

秘密へ最初に近づき始めた親友


⸻


■ 私立霧崎学園


私立霧崎学園


物語の舞台。


自由な校風の高校。


教師と生徒の距離感も比較的近い。


だからこそ逆に、


“本当に越えてはいけない線”


が際立つ場所でもある。


この学校で二人は、


* 他人のフリをし

* 距離を取り

* 感情を隠しながら


毎日を過ごしている。


⸻


■ 二人の現在の関係


学校:


教師と生徒


* 近づかない

* 触れない

* イチャイチャ禁止

* 名前呼びも制限


完全にルール化されている。


しかし。


その“我慢”が逆に二人を意識させている。


⸻


家:


完全に夫婦


* 一緒にご飯

* 一緒に買い物

* ソファで寄り添う

* 「旦那様」

* 「ひより」


かなり新婚感が強い。


⸻


■ この物語の核心


この物語は、


「禁断の恋」


だけではありません。


むしろ描かれているのは、


“愛しているのに隠さなければならない苦しさ”


です。


夫婦なのに他人。


好きなのに距離を取る。


触れたいのに触れられない。


その歪さが、この物語の核心。

第二章:近づいてはいけない距離


 本当の秘密は、恋じゃない。


⸻


 もっと面倒で。


 もっと壊れやすくて。


 もっと、終わった時に全部を失うもの。


⸻


 ――結婚。


⸻


 私立霧崎学園 。


 誰も知らない。


⸻


 教師の

黒瀬 恒一 と。


 生徒の

橘 ひより が。


⸻


 すでに、夫婦であることを。


⸻


*


 三ヶ月前。


⸻


 夜。


⸻


 区役所。


⸻


「本当に出すの?」


⸻


 黒瀬が最後に聞いた。


⸻


 ひよりは即答した。


⸻


「出す」


⸻


「……人生変わるぞ」


⸻


「先生とならいい」


⸻


 黒瀬が目を閉じる。


⸻


「俺、教師だぞ」


⸻


「知ってる」


⸻


「お前、高校生」


⸻


「知ってる」


⸻


「めちゃくちゃ間違ってる」


⸻


「でも好き」


⸻


 沈黙。


⸻


 負けたのは、黒瀬だった。


⸻


*


 そして現在。


⸻


 朝。


⸻


 学校。


⸻


「おはようございます、黒瀬先生」


⸻


 ひよりは完璧な生徒の顔で言う。


⸻


「ああ、おはよう」


⸻


 黒瀬も完璧な教師の顔。


⸻


 距離は遠い。


⸻


 触れない。

 見つめすぎない。

 名前を呼びすぎない。


⸻


 それが二人のルールだった。


⸻


 学校では。


⸻


 “ただの教師と生徒”。



⸻


*


「ねえ見た?」


⸻


「黒瀬先生今日も顔いい」


⸻


「結婚してそうな余裕あるよね」


⸻


 女子たちが騒ぐ。


⸻


 ひよりは無表情でノートを開く。


⸻


 だが。


⸻


 ペン先が少し強い。


⸻


「ひより?」


⸻


 友人の

七瀬 美月 が覗く。


⸻


「怖い顔してる」


⸻


「してない」


⸻


「してる」


⸻


 その時。


⸻


「橘」


⸻


 黒瀬の声。


⸻


 ひよりが顔を上げる。


 秘密には、温度がある。


⸻


 冷たい秘密は隠しやすい。


 でも。


⸻


 温かい秘密ほど、隠せない。


⸻


 笑った時。

 安心した時。

 自然に名前を呼びそうになった時。


⸻


 人は、つい“いつもの顔”になる。


⸻


 それが。


⸻


 教師と生徒で。


 しかも夫婦なら、なおさらだった。


⸻


*


 私立霧崎学園 。


 朝。


⸻


「起立、礼」


⸻


 教室。


⸻


 前に立つのは

黒瀬 恒一 。


⸻


「はい、現代文開けー」


⸻


 いつも通りの声。


⸻


 少し眠そうで、やる気がなさそうで。


⸻


 でも女子生徒たちは騒ぐ。


⸻


「今日も顔いい」


⸻


「黒瀬先生って絶対モテるよね」


⸻


「彼女いるのかな」


⸻


 教室後方。


⸻


 橘 ひより は無表情で教科書を開いていた。


⸻


 だが。


⸻


 ペンを持つ手が、少し強い。


⸻


「ひより?」


⸻


 隣の

七瀬 美月 が小声で言う。


⸻


「怖い顔してる」


⸻


「してない」


⸻


「してる」


⸻


 その瞬間。


⸻


「橘」


⸻


 黒瀬の声。


⸻


 ひよりが顔を上げる。


⸻


「放課後、補習」


⸻


「……え」


⸻


「語彙力不足」


⸻


「八十点でしたけど」


⸻


「国語は点数だけじゃない」


⸻


 教室が笑う。


⸻


 ひよりだけが理解した。


⸻


 これは。


⸻


 “帰りに牛乳買って帰るぞ”


⸻


 という意味だと。


⸻


*


 放課後。


⸻


 教室。


⸻


 夕焼け。


⸻


 誰もいない。


⸻


「……先生」


⸻


「学校」


⸻


 即答。


⸻


 ひよりが少し笑う。


⸻


「分かってます」


⸻


 黒瀬は机へプリントを置く。


⸻


「で、最近どうした」


⸻


「何が」


⸻


「顔」


⸻


「顔?」


⸻


「俺見る時の」


⸻


 ひよりが止まる。


⸻


 黒瀬が小さくため息。


⸻


「分かりやすすぎ」


⸻


「旦那様も」


⸻


 黒瀬、咳き込む。


⸻


「学校!!」


⸻


「小声でした」


⸻


「そういう問題じゃない」


⸻


 ひよりが笑う。


⸻


 楽しそうに。


⸻


 その笑顔を見るたび。


⸻


 黒瀬は思う。


⸻


 ああ。


⸻


 もう戻れないな、と。


⸻


*


「先生ってさ」


⸻


「なんだ」


⸻


「なんで教師になったの」


⸻


 黒瀬の動きが少し止まる。


⸻


「急だな」


⸻


「気になった」


⸻


 少し沈黙。


⸻


 夕日が教室へ差し込む。


⸻


「昔」


⸻


 黒瀬が静かに言う。


⸻


「助けてもらったから」


⸻


「誰に?」


⸻


「教師」


⸻


 ひよりは黙って聞く。


⸻


「高校ん時、結構荒れてて」


⸻


「意外」


⸻


「だろ」


⸻


 少し笑う。


⸻


「どうでもよかったんだよ、色々」


⸻


 その言葉。


⸻


 ひよりは少しだけ分かる気がした。


⸻


「でも、一人だけちゃんと怒る教師いてさ」


⸻


「……」


⸻


「面倒だったけど」


⸻


 黒瀬が窓の外を見る。


⸻


「救われた」


⸻


 静かな声。


⸻


 ひよりは、その横顔から目を離せなかった。


⸻


「だから教師?」


⸻


「まあな」


⸻


「似合わない」


⸻


「まだ言うか」


⸻


「でも」


⸻


 ひよりが少し笑う。


⸻


「優しいのは分かる」


⸻


 黒瀬が黙る。


⸻


 そして。


⸻


「……そういうこと簡単に言うな」


⸻


 低い声。


⸻


 ひよりの胸が少し鳴る。


⸻


*


 帰り道。


⸻


 スーパー。


⸻


「牛乳」


⸻


「カゴ入れた」


⸻


「豆腐」


⸻


「ある」


⸻


「ネギ」


⸻


「忘れた」


⸻


「旦那様」


⸻


「その呼び方やめろ外」


⸻


「照れてる」


⸻


「恥ずいんだよ」


⸻


 ひよりが笑う。


⸻


 黒瀬も少し笑う。


⸻


 学校では絶対見せない顔。


⸻


*


 夜。


⸻


 家。


⸻


 狭いアパート。


⸻


 でも。


⸻


 帰る場所。


⸻


「ただいま」


⸻


「おかえりなさい、旦那様」


⸻


 その瞬間。


⸻


 黒瀬の肩から、力が抜ける。


⸻


 学校では教師。


⸻


 外では大人。


⸻


 でもここでは違う。


⸻


「疲れた……」


⸻


 ソファへ倒れる。


⸻


 ひよりが隣へ座る。


⸻


「お疲れ様」


⸻


 自然に肩へ寄りかかる。


⸻


 黒瀬も自然に頭を撫でる。


⸻


 沈黙。


⸻


 静かな夜。


⸻


「ねえ旦那様」


⸻


「んー?」


⸻


「後悔してる?」


⸻


 黒瀬の手が止まる。


⸻


「……何を」


⸻


「私と結婚したこと」


⸻


 少しだけ不安そうだった。


⸻


 黒瀬は数秒黙る。


⸻


 そして。


⸻


「してない」


⸻


 即答だった。


⸻


「でも」


⸻


「?」


⸻


「怖い」


⸻


 その本音に。


⸻


 ひよりは目を見開く。


⸻


「失うのが?」


⸻


「全部」


⸻


 学校。

 仕事。

 人生。


⸻


 そして。


⸻


 ひより自身も。


⸻


 黒瀬は怖がっていた。


⸻


 ひよりは静かに、黒瀬の袖を掴む。


⸻


「大丈夫」


⸻


「……何が」


⸻


「私、旦那様から逃げないから」


⸻


 黒瀬が苦笑する。


⸻


「高校生が言う台詞じゃない」


⸻


「奥さんですし」


⸻


 その返しに。


⸻


 黒瀬はとうとう笑ってしまった。


⸻


*


 間違っている。


⸻


 そんなこと、二人とも知っている。


⸻


 でも。


⸻


 学校で他人のフリをして。


 家で夫婦になるたび。


⸻


 “本物”になっていく。
















⸻


 秘密は。


 幸せになるほど、苦しくなる。

家での二人


夜。


 アパート。


⸻


「ただいまー……」


⸻


 玄関から疲れた声。


⸻


 黒瀬だった。


⸻


 ネクタイを緩めながら入ってくる。


⸻


「おかえりなさい、旦那様」


⸻


 キッチンから、ひより。


⸻


 黒瀬が止まる。


⸻


「……それまだ慣れない」


⸻


「えー」


⸻


「むず痒い」


⸻


「夫婦なのに?」


⸻


「そこ強調すんな」


⸻


 ひよりが笑う。


⸻


 学校では絶対見せない顔。


⸻


 黒瀬も少し力が抜ける。


⸻


「ご飯できてますよ、旦那様」


⸻


「遊んでるだろ絶対」


⸻


「ちょっと楽しい」


⸻


「認めた」


⸻


 でも。


⸻


 黒瀬は嫌そうにしながら、ちゃんと嬉しそうだった。


⸻


*


 食後。


⸻


 ソファ。


⸻


「旦那様」


⸻


「なんだ、ひより」


⸻


「今日、女子に囲まれてましたね」


⸻


「授業だ」


⸻


「楽しそうでした」


⸻


「仕事だ」


⸻


「ふーん」


⸻


 嫉妬。


⸻


 黒瀬はすぐ分かった。


⸻


「……お前なぁ」


⸻


「なんですか」


⸻


「顔に出る」


⸻


「旦那様こそ」


⸻


「俺は出してない」


⸻


「今、“面倒だけど可愛い”って思いました」


⸻


 黒瀬、固まる。


⸻


「なんで分かる」


⸻


「旦那様だから」


⸻


 強い。


⸻


*


 深夜。


⸻


 黒瀬は仕事をしていた。


⸻


 テーブル。

 ノートPC。

 山積みのプリント。


⸻


「旦那様」


⸻


「んー」


⸻


「寝ないんですか」


⸻


「もうちょい」


⸻


 ひよりが後ろから抱きつく。


⸻


 黒瀬が少し止まる。


⸻


「……ひより」


⸻


「疲れてる顔してる」


⸻


「教師は大変なんだよ」


⸻


「知ってる」


⸻


 ひよりが肩へ額を乗せる。


⸻


「頑張りすぎ」


⸻


「生活かかってるからな」


⸻


「私も働くのに」


⸻


「高校卒業してから言え」


⸻


「むぅ」


⸻


 黒瀬が小さく笑う。


⸻


 そして。


⸻


 後ろ手で、ひよりの頭を撫でた。


⸻


「ありがとな」


⸻


 その言葉に。


⸻


 ひよりは少しだけ目を細める。


⸻


「どういたしまして、旦那様」


⸻


*


 学校では、絶対に触れない。


⸻


 教師と生徒。


⸻


 完璧に距離を守る。


⸻


 でも家では違う。


⸻


 疲れた時に寄りかかる。

 名前を呼ぶ。

 隣で笑う。


⸻


 誰にも言えない。


⸻


 でも確かに、


 二人は夫婦だった。

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