第一章:再会は、静かに狂い始める
「現在の彼女」と「元カノ」が出会ったとき、恋の歯車は狂い始める。
平凡な大学生・蓮は、優しくて控えめな彼女・さくらと穏やかな日々を送っていた。
だがある日、かつて心から愛し、そして深く傷つけ合った元カノ・椎名みくが再び現れる。
「またやり直そう」
「今の彼女を選ぶの?」
「でもあなた、本当はまだ――」
過去と現在の狭間で揺れる心。
ふたりの女性の間で、彼は何を選び、何を失うのか。
これは、“愛した記憶”と“今の愛”がぶつかり合う、
《終わっていなかった恋》の物語。
第一章:再会は、静かに狂い始める
春日さくらは、俺にとって“普通の幸せ”を教えてくれた人だった。
料理がうまいとか、趣味が合うとか、そういうのももちろんあるけれど――何より彼女は、俺の過去に踏み込もうとしなかった。
それが、ありがたかった。
そして、怖かった。
俺には、触れてほしくない「元カノ」がいたからだ。
大学二年の春。桜が満開のキャンパスに、ふとした風が吹いた。
そのときだった。講義棟の前に立つ長い黒髪の女が、俺の時間を止めた。
「……蓮。久しぶり」
その声が、過去を引きずり戻すスイッチになった。
椎名みく。
高校時代、俺が本気で愛した人。だけど、同じくらい深く、傷つけられた人。
「椎名……?」
口から漏れたその名前に、隣にいたさくらがきょとんと目を見開いた。
「知り合い……?」
俺はうまく答えられなかった。
過去が突然、目の前に立っていた。香水の匂いすら、当時と変わっていない気がして、動悸が速くなる。
「びっくりした?偶然……じゃないかも」
椎名は軽く微笑んだ。けれど、その目は冷たいままだった。
「今、少しだけ話せる?」
「……今は無理だ」
「そっか。じゃあ、また今度。逃げないでね」
そう言い残して、彼女は風のように去っていった。
さくらの手が、俺の袖をつまむ。
「元カノ、なんだね。……なんか、綺麗な人だった」
「そんなことない。過去の話だよ」
「……ふーん、そういうのって、終わったことにしておいたほうがいい?」
さくらの声はいつもの優しさに包まれていたけど、その奥に微かな棘があることに、俺は気づいていた。
終わったはずの恋。
けれど、それは本当に“終わって”いたのか?
今もなお、心の奥底に埋まった棘のように、椎名みくはそこにいた。
あの日、俺たちが別れた本当の理由を――さくらは、まだ知らない。
……いや、誰にも言ってはいけないのかもしれない。
午後の講義も頭に入らなかった。何かが、少しずつ、ずれていく感覚。
普通の恋がしたかった。ただそれだけなのに。
その夜、スマホに知らない番号からメッセージが届いた。
《まだ終わってないよ、蓮》
ここまで読んでくださり、ありがとうございます。
「彼女✖️モトカノ」は、よくある三角関係を題材にしながらも、“愛することの怖さ”や“過去との決着”をテーマに描いています。
登場人物たちは、それぞれが「自分の正しさ」を信じて行動しています。
けれど、恋愛に“正解”なんてあるのでしょうか?
そして、あなたなら――どちらを信じますか?
今後も、蓮・さくら・椎名それぞれの視点で物語を描いていきます。
感想やレビューなどいただければ、励みになります。
次回もどうぞよろしくお願いします。




