第四章 謎
大学の行く先を悩むヒロシだったが、木村に推薦された大学入試を受けるのであった。
ヒロシは埼玉の県立大学の推薦入試に挑むのであった。
推薦とはいえ小テストに小論文に面接と、ごく一般的な選抜方法だった。彼は心で思っていた。
(法学部・・一般入試が3.1倍だ。低くはないけど高くもない。う・・どうだろう?)
彼はこの倍率で推薦で受かる可能性を最初は高いと思ったが、自分が1年ダブっていることが気になった。
新設校とはいえ、交通の便も良いし、校舎も新しく清潔感がある・・これから人気が出るかもしれない。
(まあ・・ダメでも元々だ。本来の人生では行かない大学だし。落ちても本望と思うことにしよう)
ヒロシはそんなことを考えていた。
だが・・全てがうまくいきヒロシは無事に合格を勝ち取る・・それが意味すること。歪みが増加する事への懸念・・自分の選択がここにきて、また大きな波となってヒロシを飲み込もうとしていた。
この大学に選択すべきではなかったものの、ある地点で避けようのないポイントもある・・それも事実だ。
両親も木村も、無論だがエミリも大喜びだった。
そんな折に高校時代の同級生であり、バンド仲間だったマコトから電話があった。第一の人生でマコトと会話するのは、二度目の大学に入学した後だった。だが第二の人生では朱音に刺され助けを求めた。そして今日の電話・・やはり歪みが生じている。
話の内容は全く興味もない音楽の話だった。だが一つ気になる話があった。
「ヒロシさ・・言い難いんだけど・・」
ヒロシはまたかと思っていた。前置きにこの言葉を使うときは決まって恵美の話だった。
「あゝ!いいよ!話して!どうせ俺が振られた恵美のことだろ?」
「ヒロシ・・まあ、そう言うなよ・・。実はさ、嵐山のやつ春から行方知れずなんだよ!聞いてない?」
ヒロシは脳にビビッと電気が走ったように白くなった。(そうか・・牛山さんも俺にそれを・・)
「行方知れずって!どう言うことだよ!」
「あのさ・・3月1日の卒業式でお前が答辞を読んでたろ。その答辞の最中に急に席を立って駆けだし、体育館から出て行ったきり・・お前に伝えたかったけど、牛山が、放っておけみたいに促され言わなかった・・だけど、その日から姿が消えて・・今日まで見つからないって。不思議すぎるだろう?体育館を出ていく姿を大勢が見ていたけど、その後は誰も恵美を見ていないんだ。そんなことある?」
恵美が消えた・・何故かと思ったが、この次元ではそう言う設定かと思った。だが大いに気になり始めた。
ヒロシは次の日の朝刊を配達した後で、恵美の自宅に電話を入れた。どうしても確認したかった。なぜ?居なくなったか。
「ご無沙汰しています、恵美さんと同級生だった谷です。ずっとご連絡を差し上げずで恐縮です」
「ああ・・谷君・・久しぶり。元気でやってる?」
「ええ・・なんとか」
「・・恵美なら居ないわよ」
「あの・・恵美さん、どちらにいらっしゃるのでしょうか?ちょっと話したくて」
「あゝ・・暫く帰ってないわ。高校の卒業式から帰ってきて、次の日から東京で仕事をしてるの。たまにしか連絡はないわ。伝えることあるんなら私から言っておくわよ。電話して伝えておく・・」
ヒロシは恵美が東京で就職したんだと、少なからず安心をした。
「少しだけ聞いていいですか?僕の友達たちが、恵美さんが行方知れずって言うんです。実は僕も心配で連絡しました」
「あゝそう言うことなの!いえね・・あの子がみんなに内緒にして欲しいと言うから、“分からない”・・そう答えたのが広まったのね。でもね、あなたから連絡があったら、今言った通りに伝えて欲しい・・そう言われていたの」
「どうして・・」
「まあ・・少しだけだったけど、あなた達お付き合いしていたし、恵美はきっと今でもあなたのことが気掛かりなのよ」
ヒロシは少しだけだが嬉しかった。自分を気にかけていてくれていた事。
「そう言えば、谷君・・大学を辞めたんですって?木村先生に聞いたわよ。いったいどうしたの?」
「ええ、まあ・・いろいろとあって。・・お願いなんですけど、恵美さんの連絡先を教えてもらえますか?電話番号だけでもいいので」
ヒロシは恵美の声を聞いて、とにかく安心したかった。だが・・声を聞くのも怖い気もした。
「ごめんなさい。あの子から誰にも教えないでって言われてるの」
「そうですか・・」
ヒロシは「元気で頑張るよう伝えて下さい」そう恵美の母親に言うのであった。
電話を切ったヒロシは手のひらに持っていた10円玉をポケットに入れ、公衆電話ボックスを出た。
(恵美が東京で仕事か?それはそれでいい事だな。俺も影から応援しなきゃ)ヒロシはそう思った。
「・・・」ヒロシは思い出していた。
(あの頃、毎日電話してたよな・・長電話しないでって、恵美のお母さんに叱られた。いつも恵美は俺の好きな洋楽の話したり、恵美の好きだったパンの話したよな。・・俺たち本当に互いを大切にしてたな。なのにつまらない事で別れて・・子供だったよな)
ヒロシは部屋に戻りながら、そんなたわいもない昔の話を思い出したのだった。
その夜・・
「・・木村先生が君をあと4年間ここに置いてくれるように言ってきて私は了承したが、君もこの話を木村先生から聞いたか?」
その夜ヒロシは佐藤社長に呼ばれていた。
「はい・・聞いています」
「私も君を預かる以上、君の気持ちを確認しておきたくてね。」
「・・どの様な事でしょうか?」
「君はエミリと良い仲らしいな。でもね、僕は二度とエミリを傷つけたくないんだ。分かるかね?自分の息子とは言え許せんし、親子の縁も切ったが、エミリの心にはずっと悪夢が存在し続ける。無論・・君を疑っている訳では無い。だが・・」
ヒロシは佐藤社長が言いたいことは分かった様に言い始めた。
「ええ・・分かります。僕もその事件のことは心が痛みます。ですので清く、ある程度の距離を置きながらお付き合いをしています。ただ・・実は僕の本心はここから去ることにありました。ですので正直、今の状況に困惑しています。自分はどうすべきか?社長のご厚意に甘えていいのか?それに迷いもあります」
佐藤は少しお茶で喉を湿すと言うのであった。
「君は君が進みたい様に行けばいい。ただ決心するまでは、エミリに優しくしてやってくれ。君に多くのものを与えてもらっていて、あそこまで明るい以前のエミリに戻ったんだ。でも正直、君にプレッシャーをかけるつもりもない。若いのだから自由に羽ばたいて欲しい・・そう思っているよ」
佐藤社長はヒロシの戸惑っている表情を確認し、自分の孫も大事だが、若いヒロシの行末も心配したのだった。
「ありがとうございます。もう一度よく考えてみます」
自分の部屋に戻ったヒロシは、布団に寝転び天井を見ていた。
「たとえば俺がここに残って埼玉学院に入学したとすれば、元来の人生と大きな隔たりが生まれる。ただ俺以外の人物の進む路線が歪んでいたら、俺の路線がそちらに引っ張られているとも考えられる。だとすると・・このまま進む方法もある。だが・・それだと俺と対峙してきた人物や、結婚相手も変わる・・そうすればまたパラドックスが起きて、どこかの次元に俺は飛ばされるかもしれない・・うっ・・」
ヒロシには現段階で起きている変化を受け入れるか否か?そこに焦点をあて考えていた。
そこにドアをノックする音がした。
「はい・・どうぞ」
来たのはエミリだった。
「どうした?宿題かなんかのこと?」
エミリはきょとんとして
「違います!ヒロシ君がイヤホンがないって言ってたから・・はいっ!これ使って!」
ヒロシは昨日ふと思い出し、母親からの手土産にあったカセットウォークマンの事を思い出した。だがイヤホンを部屋中探したが見つからず、今朝エミリに話をしたのだった。
「そうだった・・エミリありがとう。少しだけ貸してね!すぐに返すから」
「いいですよ。すぐじゃなくても。私ヘッドホン使ってるから、イヤホンは今は使わないので」
「でも、何を聞くんですか?」
「うん、カセットテープ・・家から持ってきたんだ。高校時代の勉強時に使った英会話集をね」
ヒロシは咄嗟に嘘をついた。誰かの肉声とはとても説明できなかった。おそらく?だが・・肉声が入っていると分かっていたヒロシだった。
「えっ?英会話ですか?大変そう。じゃ私は部屋に戻りますね!しっかり勉強して下さい!」
エミリはそう言い手を振ってドアを閉めた。
箱を開けてプレイヤーに単三電池2本入れ、イヤホンを本体に差し耳にあてた。
直ぐにヒロシは目を見開き驚いた・・。
「こ・これは・・どう言うことだ」
(こんばんは!ヒロシ君・・今日は1982年3月1日です。卒業式だね。)
声は確かに恵美自身だった。だがあの時の78年のものでは無かったが、長渕剛の夏祭りの後に録画されていることは同じだった。
(ヒロシ君は来週から東京のアパートに引っ越しして、大学に通いながら、バイトするんだね!気が付いたら卒業式で・・最後までヒロシ君に私の心の言葉を伝えられなかった。・・今でも好きだよ。ヒロシ君のこと。大学に行ってきっと素晴らしい大人になっていくあなたが見える・・だから私から離れたわ。でも好きなものは好きだし・・そう思って再度あなたに話をしたけど、振られちゃったよね。人生は難しいね。あなたがあの時言った様に、ずっと一緒にいられたかもしれない。諦めずに頑張れば今も手を繋いでいたかもしれない・・結果だけど、私の勇気が少なかった。ごめんなさいヒロシ君。・・私・・明日から東京で働きます。友達の紹介で・・もう・・会えないね。)
(あなたがこのテープを聞いた今日は何月何日?ヒロシ君は大学は順調?バイトして疲れていない?あんまり無理しなでね。きっと・・・何十年後に会って笑えたらいいよね。私とヒロシ君・・その頃は皺だらけで、垂れ胸だけど・・がっかりせずに会おうね!)
ヒロシには衝撃過ぎた。あの当時・・16歳ではない、少し大人になった恵美・・。これを録音したのは誕生日前の17歳の時だ。内容が凄く大人だった。
(俺のこと忘れて都会に行ったんだ・・でも)
ヒロシは気づいた。
「結婚・・どうするんだろう?20で結婚するのが恵美の人生だったはず・・でも都会に就職して行ってしまった。これでは変わってしまう。恵美の人生が歪んでしまう・・でもこれがこの次元での出来事か?・・それにもう既に運命の人と出会っている可能性もあるしな。・・頑張りな。恵美・・俺も今でも好きだよ」
ヒロシはカセットウォークマンを握りしめ、静かに涙を浮かべたのだった。
出ていった筈のエミリも部屋のドアの外で複雑な表情でヒロシの独り言を聞いていた。
(初恋か・・重いなー。ヒロシ君の心を今も縛ってる・・どうやったらヒロシ君の心が掴めるの?)
エミリもドアの外で一筋の涙を流すのだった。
時は12月となりクリスマスのシーズンに突入していた。12月24日ヒロシたちはサンタクロースの格好をして夕刊を配っていた。プレゼントの代わりに夕刊を配るのであった。
夕刊の配達を終わり、明朝の新聞折込の作業を終わらせて、ヒロシは食卓に向かうのだった。
「みんな!今日はクリスマスイヴだから、少ないけどケーキを用意しましたから食べて下さいね」
寮母さんは奮発してホールのケーキを買ってきていた。イチゴがはち切れそうにいっぱい詰まっているケーキだった。
「ちっ!奥さん!俺はケーキよりアタリメかなんかの酒のつまみがいいな!」
呑兵衛の湯浅さんが吠えたが、エミリの母親は気にせずご飯を食べていた。
「エミリ・・ケーキ切り分けてくれる?」
「うん・・」
エミリの母親はエミリにケーキの切り分けを頼んだのであった。
「えっと・・1人、2人・・6人か?むずいな」
「四等分か八等分がいいけど適当に六等分?え〜と」
エミリは六等分でケーキを切り分けた。
「はい!お父さん!・・これお母さんと・・これ湯浅さんに、これは西島さん・・・でこれは私とヒロシ君の分ね・・」
湯浅は目を見開き
「ちょっと!お嬢ちゃん!俺のちっちゃくない?」
エミリの母親も
「・・そうね?西島さんも、お父さんのも小さい。・・でもエミリのは大きいわ。ちゃんと六等分したの?」
「えーしたわよ。文句言うなら、もう一回切り直す?」エミリは眉を上げ言うのであった。
「・・いいよ!お嬢ちゃん!俺は甘いの苦手だから」
「ちょっと!谷君の分はどうするのよ!半分にしなさい!ねえ!谷君!」
「いいですよ。僕は余り物でいいので・・」
ヒロシも余り甘いものは苦手であった。
「え〜!何言ってるの!ヒロシ君は私が食べさせてあげる・・ほら!イチゴのところ・・あーん・・」
みんなは呆れ顔で2人を見るのであった。
「・・エミリさん、これはちょっとまずいでしょう。みんな見てるし・・恋人同士だったとしてもこの場面は・・ちょっと」
そこに佐々木主任が「いいじゃないか!谷君!俺たちはいっこうに構わないよ!さあ!食べて・・」
エミリの母親も嬉しそうに(さあさあ)とばかり、笑顔でヒロシを見るのであった。
ヒロシは仕方がなく「・・いただきます。あーん。・・うん、美味しい・・です」
エミリは喜んで「そうでしょう!私も食べよう!っと。そう言いながらヒロシに使ったスプーンで自分の口にケーキを放り込んだ。
「おお!美味しい!ねえ!ヒロシ君!」
一緒にいた西島も湯浅も口をぽかーんとあけ、呆れ顔をするのであった。
「んんーん!エミリっ!自分のスプーンで食べなさい!」そう母親は言ったが。
「あっ!そうか・・全然気にならなかったわ。ヒロシ君ごめんね。こっち使って!」
と言いさっき自分が舐めたスプーンをヒロシに渡した。エミリの母親は少し怒り気味で、
「ち・が・うでしょ!なんで自分の舐めたのを谷君に渡すの!使ってない方を渡しなよ!」
「ああーそうだったわ。ごめんヒロシ君!わざとじゃないからね!」
「ううん、いいよ。汚れ物増やすと洗い物を増やすから、これでいいよ。・・俺と交互で食べよ!」
そう言うヒロシにエミリの母親は、少し涙目で言うのであった。
「そう?嫌じゃない?大丈夫?」
「だから!お母さん大丈夫よ!」
「あなたに言ってるんじゃないの!谷君!」
「全然大丈夫ですから。僕は歯槽膿漏でもないし、エミリさんも健康ですから、互いに気にしません!」
これには皆も驚いたが、2人は変わりがわりにスプーンを使いケーキをあっという間に食べてしまった。
「寮母さんごちそうさまでした。美味しかったです」
「嫌ね!ケーキだけなのに・・感動してもらって恐縮しちゃうわ」
ヒロシは食後のお茶を飲みながら言うのであった。
「僕の家は貧しかったんで、クリスマスはありませんでした。特別な日でもなく、ただの12月24日でした。ケーキなんて食べたこともなかったです」
「ヒロシ君・・もしかしてクリスマスケーキ初めてだったの?」
「うん。小学校の高学年になって、同級生がクリスマスの話をして、寂しくて悔しくて家に帰って親にクリスマスの話をしたんだ。そうしたら親父が、24日にケーキじゃなくて、インスタント麺とフルーツヨーグルトを家族分買ってきたんだ。親父は自慢げに(日本人なんだからチキンやケーキとやらは食さない!うちはこれでいいんだ)って言ったよ。ほうれん草がたくさん入ったラーメン食べてたあとに、フルーツヨーグルトを食べたんだ。それが・・うちらしくて、少し誇らしかった。そんな思い出があります」
エミリは少ししんみりした。母親は「いい話ね!」
佐々木主任も「俺たちの子供の頃もそんな物だったよ」エミリは少し考えていたが。
「お父さんやお母さんの時代とは違うわ。ヒロシ君か可哀想だったわ。じゃあ!これもちょうだい!」
そう言いながら父親のケーキを奪うのであった。
そんな楽しい夜が過ぎてヒロシは1人考えていた。
(恵美・・どうしてる?顔を見れなくても、声だけでも聞きたいよ。)そう思っていた。
「でも謎が多すぎる・・親友の牛山さんにも居場所を教えてないなんて。それにお母さんの態度というか声が・・それほど恵美を心配している様子に聞こえなかった。まるで・・俺に探す様に促されたように」
その時「ヒロシ君!何を真剣に考えてるの?大学のこと?」エミリが突然部屋にやってきた。
「ああ、そうだよ。どんな大学かなあって。少し心配にもなってね・・」
ヒロシは笑ってそう誤魔化した。
「・・嘘だ!エミリ知ってるよ。ヒロシ君が初恋の人のこと考えているの・・」
「なーに言ってるんだよ。とっくに終わっているんだよ・・初恋なんて」
「じゃあ・・カセットウォークマンの声の人は誰?初恋の人だよね。私・・こっそり聞いたんだから」
ヒロシは驚き少しエミリを睨み「勝手に!・・」
「ごめんなさい・・でもね、どうしても気になって仕方がなかったんだ。本当にごめんなさい」
ヒロシは聞かれてしまった事は仕方がない・・触れる場所に放置していたのは自分だから。それはそれで諦めるしかなかった。
「もういいよ。怒っていない。でも俺の物はなるべく触らないで。約束して」
「うん。分かった」
エミリは少ししょげ、謝ったのだった。
年が明け1983年になった。
ヒロシは静岡行きは諦めいた。
「ここで頑張るしかない」でも・・
一抹の不安と路線がここでも外れてしまい、これからをどう生きるかを考えていた。
そんな寒い日のことだった。
「谷君!居るかしら?」
「はい!なんでしょう」寮母さんが部屋にやってきた。
「これ谷君に着いていたから・・」そう言い手紙を手渡されたのだった。
(誰からだ。俺の居場所は一部の人しか知らないのに・・えっと誰だ。・・なんだお袋か。)
ヒロシへの手紙は実家の母からであった。
「やっぱり・・」ヒロシつい言ってしまった。
手紙の中には一万円札が3枚入っていた。
手紙も入っていたが、これで精の出る物でも食えってことかな?そう思うヒロシだったが、札と一緒に手紙があり、長い文章の内容だった。
「手紙は親父の字だ」
そこにはこんな事が書いてあった。
(拝啓・・ヒロシ頑張っているか。俺も母さんも元気だ。この度の大学合格おめでとう!しかも特待生扱いで授業料が半額だ。めでたい・・これから4年間そちらでご厄介になって、勉強に仕事と忙しいと思うが、自分が一年無駄にしたことを忘れるな!悔しくても歯を食いしばり頑張るように・・。
さて、年末だったが、お前の同級生の牛山さんが自宅に来てその3万円を渡して欲しいというので、封書に入れて送った。理由を聞いたら、誰かに頼まれた・・と。誰かと聞いても言えないというんだ。不思議だったが、1月7日に電話があるから出て欲しいとのことだ。うーよく分からないが、そんなことでそれを送ったんだ。・・まあ理由は電話がくれば分かるだろう。決して悪いことには使うなよ。)
ヒロシには全く分からない内容で、疑問だらけの正月となった。
「7日・・休刊日だ。素晴らしくタイミングがいい」
そう思うヒロシだったが、疑問が疑問を生んでその晩は眠れなかった。
1月7日になりヒロシは少しドキドキしていた。
3万円の理由となぜ自分に送る理由・・もしや詐欺か?そうも考えたが、お金のない自分が詐欺に遭うはずも無く、部屋で天井ばかりを見ていたのであった。
と・・その時
「谷君!電話だよ!」
ヒロシは「きた!」そう思い階段を駆け降りた。
「ああ、すみません。」
ヒロシは一息つき電話に出るのであった。
「もしもし・・谷です」
「・・私です。恵美です。」
ヒロシは息が止まりそうになり、目が見開いたままだった。
「おお・・久しぶり・・」
「うん・・お久しぶり。元気?」
「うん。元気だよ。君は?」
「・・うん。ちょっと疲れ気味かな?」
ヒロシは悶々としていたことを質問するのであった。
「どうやって・・俺の居場所を。それに君だろう、3万円の件・・どういうこと?」
「・・複雑なんだ。ねえ!会って話をしない?」
「いいけど・・どこにいるの?」
「・・そこに1番近い駅前の喫茶店」
「えっ!なんで。ここまで来たんだ」
「・・会って話するわ。待ってるわね・・」
そう言い恵美は電話を切るのであった。
確かに恵美の声だった。紛れもなく彼女の声だ。
ヒロシは血相をかき、慌てて2階に行き着替えをし、駅前に走って行くのであった。
それから20分後に喫茶店についたヒロシだったが、どこを見ても恵美らしき人物はいなかった。
「あの・・谷さん・・ですか?」
彼女を探すヒロシに従業員が話しかけてきた。
「ええ、そうですけど」
「あの・・15分前くらいですけど、嵐山さんという方からこれを渡すようにお願いされました」
ヒロシはそれが置き手紙である事がすぐに分かった。
「で!その子はどこに行きましたか?」
「もう電車に乗って行ってしまったかと思います。その方も急いで出ていきましたから」
ヒロシは店を出て駅の中を探し回った。だが・・彼女を見つける事ができなかったのである。
ヒロシは何故か悔しかかったが、ガッカリしても家に戻るしかなかったのだった。
続く
謎だらけだった事象が、少しずつ紐解かれる。
これからのヒロシはどう舵を切って行くのか。




