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折に触れて廻る2  作者: 馬場 ヒロシ


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2/12

第二章 幸せとは

大学での失敗から逃げるようにやってきた新聞店。

ここには過去から知るエミリが居たが、一風変わった高校生となっていた。本来の次元に戻すべく、第一の人生を思い出し、そのままの人生にチャレンジを始める。だが・・次元の歪みは止まる事なくヒロシを攻め立てるのであった。

ここに来て10日ほど過ぎ、仕事と勉強に慣れてきた。

朝の配達は午前3時から5時には終わる。夕刊は1時間程度だ。

ヒロシは朝刊と夕刊の合間に図書館で勉強し、夕食後の2時間で受験対策用の問題集を解いていた。

だが・・同じように生きなけば。そう考えた。

ヒロシは一つ気付いた点があった。

自分の記憶ではこの地が浦和だと思っていたが、実は当時の大宮であったこと。それに主任が佐藤という苗字ではなく、佐々木であったこと・・どうでもいいとも思っていたが、この時世では必要であった。


ある夕刻・・

ヒロシは夕刊の配達を終え店に戻ると、皆が大急ぎでチラシの折込み作業をしていた。

折込みにはそれだけをする専業のおばちゃんもいた。

皆がお喋りしながら大声で笑って活気ある場所だったが、ヒロシは黙々と指サックを使い、一枚一枚丁寧に重ねて、専用台でトントンと綺麗に整えた。

自動で折込む機械もあったが、枚数が多いと綺麗に折り込めなかったのでヒロシは使わなかった。というよりも他の専業の方よりも配達件数が少ないヒロシだった。

3人ほどが折込み作業後にタバコを吸いながら、ワンカップを飲んでいた。ヒロシも誘われるまま同じ行動をした。

その様子を横目で見ながら母屋に帰るエミリがいた。

夜・・ヒロシが勉強をしているといきなりドアを開けエミリが入ってきた。

「おお!びっくりした。何?!」

「私・・タバコとお酒嫌い!」

そう一言だけ言うとエミリは部屋を出ていった。

ヒロシは(何なんだよ)そう思うのであったが、夕方エミリに見られた事を思い出した。

「いいじゃないか・・タバコもお酒だって!俺の勝手だろ・・」そう呟いた。

「後悔する!」突然またドアが開きエミリが怖い顔で言った。

ヒロシは再び驚き「・・いいでしょう!俺の勝手だろ。エミリさんには関係ないんだから・・」

エミリは少し膨れて「匂う!それに歯が黄ばむし、お腹にアルコールの成分が残るわ・・嫌!」

そう言い出ていった。

ヒロシは考えたがエミリが自分の心配をする場面は過去には無かった筈でありエミリが自分の部屋に来ることは決して無かった。近寄りもしなかった。

まずいな・・ヒロシはそう思い始めた。

この次元でも前と同じように歪みが始まり、収拾がつかなくなってしまう・・過去をもっと確実に思い出して、この次元を元に戻そう・・そう心に誓った。


翌日からヒロシは最初の人生同様に、お酒もタバコも飲み・吸い変えなかった。

無論だが好んでやることにした。

だが夜眠る前に酔った自分があの時と同じように情けなかった。結局は大学を辞め逃げるようにここに来て、歳の離れたおじさん達と戯れた。

決して心では好んで付き合っていた訳ではなく、孤独になるのが嫌だった。

しかし結局は休みの日も勉強中も孤独との戦いであった訳で構ってくれる人材がいてほしかったと思う。

そんな毎日を過ごしていた時だった。

日中は暑くなり、図書館での勉強が増えた。とにかく空いている時間は全て図書館で過ごす日々だった。

ヒロシはいつもの様に薄いカバンに参考書を入れ、朝の9時から図書館に向かうのだった。

7月とはいえ兎に角、自分の部屋では集中すらできなかった。いつもの2階の長机の2番席に座り、昨日の続きをし始めた。

だがここのところ勉強に夢中になり寝不足であったため、1時間程で眠気が襲ってきた。目を擦っても飴を舐めてもヒロシの瞼は下に下に降りて集中すらできず、つい居眠りをしていた。

その時・・耳元でヒロシが好きな長渕剛の歌が聞こえてきた。いつもはシーンとした図書館にLoveソングが流れヒロシは驚き目を覚ました。

気がつくと耳にイヤホンが添えてあり、自分の顔の横にカセットウォークマンが回っていた。

(誰だ?俺にこんな事をするのは?)ヒロシはそう思い頭を上げ確認しようとした。

「いいから・・もう少しだけ聞こう。剛の歌」

そう言われヒロシは何か落ち着いたように、暫く腕を枕に眠ってしまった。

1時間程経ったであろうか。ヒロシは目が覚め辺りを見回した。だが・・いつもの様に図書館には自分以外は二、三人の老人がいるだけであった。

ヒロシは顔を擦り「寝ちゃったわ。凄く安心したように・・安らかだった。・・不思議な夢だったな」

勉強に集中してその後、昼の弁当を食べたヒロシは公園でいつもの様に、少しばかりのアイスバーを齧り、10分程度過ごした後、2階に戻り勉強を続けた。

午後2時になり、あと30分ほどで夕刊の配達に行くので、いつもの様に今日の復習をし始めた。

でも・・頭の中は夢で聞いた長渕剛の夏祭りという曲が流れていて、涙が少し滲んできていた。

「恵美が好きだった曲だよな・・俺ってこの曲を指が痛くなるまで練習した・・彼女に聞かせたくて。でも偶像の世界だったんだよな。今思えば、恵美と俺なんて釣り合わなかった。自分が一番分かってたのに・・諦められなくて・・バカだよな。いつか彼女と結婚して幸せになるんだ・・そんな事を熱望してさ。結局は彼女も巻き込んで酷い人生になったな・・」

ヒロシは過去の恵美への想いが、馬鹿げたタイムスリップを引き起こし、彼女がどうなったかも分からずだった。それを思うとやるせなかった。

ヒロシは復習を辞め早めに部屋に戻ろうと後片付けをし始めた。

その時「谷さん?」

エミリだった。

「ああ・・こんにちは!・・本の探し物?でも」

ヒロシはハッと思い、思わず聞いた。

「うん・・小説。でもね貸出中だった」

「そう・・残念だったね。俺今から店に戻るところ。エミリさんは未だ居る?」

「ううん。私も帰る。一緒に帰りますか・・」

「そうだね。そうしよう」

ヒロシとエミリは図書館から店に戻るのであった。

「谷さん・・ちょっとだけ聞いてもいいですか?」

エミリは突然足を止めてヒロシに話してきた。

「うん。いいよ。数学のこと?今はどの辺り数学IIだよね。」

ヒロシはエミリが数学が苦手だと佐々木主任の奥さんから聞いていたので素早く聞いたのであった。

「ええ、違います!勉強のことじゃないんです・・」

「ああ・・そうなんだ。じゃあ何?」

エミリは言いづらそうにしていたが、ヒロシの方を見ながら聞いてきた。

「谷さんは初恋ってありましたか?・・うーこれじゃ・・失礼だわ。・・(もとい)。谷さんは初恋ってどう思いますか?」

エミリは顔を少し赤らめて聞いてきた。

ヒロシは少し驚いた様子だったが、彼女が恋で悩んでいると気づき、正直な自分の経験を基に話をした。

「おお。初恋か・・いいものだよね。人を好きになること・・。俺の体験で申し訳ないけど、少しだけ我慢して聞いて」そう言うとエミリは大きく頷いた。

「俺の初恋は14の中学2年生だった。」

「えっ!はや!・・くもないか。普通か」

「ううん・・初恋は年齢は関係ないよ。人を好きになるのは異性として初めて心に刺さる痛い気持ちだから。痛い!と思った時が初恋だと思う。中学2年生だった俺は弱虫で根性なしで、誰にも好かれない人間だったんだ。でもね・・その子を好きになってから、俺はどんどん変わっていったよ。心の痛みを和らげる為に、その子に好かれようと努力した。初恋は実らないって言うけど俺はずっと諦めずに自分を変えていった。だから・・初恋って素晴らしいって思っているよ。人間として誰かを好きになる・・凄くいいと思う」

ヒロシはベラベラと喋り焦っていたが、エミリは真剣な(おもむき)で「それで・・その彼女とはどうなったんですか?今もお付き合いしてるとか?」

ヒロシは苦笑いをして言うのであった。

「ううん・・別れたよ。高校2年生の時に付き合って、訳あって直ぐに別れたよ。・・卒業してからは会ってもいない。」

「じゃあ!やっぱり初恋って上手くいかないんじゃない?そうですよね。苦いだけで」

確かにそうだった。ヒロシには初恋がトラウマだった。しかし大事な深みのある事象でもあった。

「そうかもね・・胸の痛みが増えたかもしれない・・でも、それだけじゃないよ。今俺がここで生きていけるのも彼女との初恋があったからで、ここに導き路頭(ろとう)に迷った俺を救ってくれたのも、彼女の存在があったからだと信じてるんだ。だから・・俺は今でも耐えていけてる。失っても心の中に彼女との思い出があるから。苦しみだけじゃなかったしね。・・彼女を好きになって本当に良かった。そう思うんだ。初恋はだから輝いて見えるし、苦い経験であり、とろけそうなロマンでもあるから素敵だと思うよ」

エミリは少し潤んだ瞳で下を向いた。

「じゃあ素晴らしい初恋があるってことですよね?逆もありそうだし。複雑・・」

ヒロシは自分の話を例にし過ぎたと少し反省して話を続けた。

「・・振り向いてくれたらラッキーだよね。振り向いてくれない事もあるのも事実。自由だと思うよ。結局人が人を好きになるのは、相手の気持ちに関係なく想う気持ちだから・・一歩通行という事も多々あるさ。でも人が人を好きになることは罪でもないし、自分だけの勝手な気持ちだったりもする。その人を好きになれば、自分をよく見せたくなるし、好かれようと色んなものに努力する・・悪いことじゃないさ。自分を磨く為にもね」

エミリは大きく頷き「そうですよね!悪いことばかりじゃないですよね!ああっ!やっぱり谷さんに相談して良かった。・・なんか谷さんって何気に意味深な人ですよね。急に明るくなったり、すごーく暗かったり。悩みを全部自分自身で背負ってる様に見えたり、時には誰よりも輝いて目立ったり、不思議な人であり意味深な人ですよね・・」

「ああ・・そう(汗)。そう見えるんだ」

ヒロシはエミリが明るい笑顔に戻るのを見て確認してみたのだった。

「もしかして・・もしかするとエミリさん・・初恋中だったりするの?」

エミリは顔を赤くして「もう!嫌だ谷さん!たら!」

そう言いヒロシの背中を大きく叩いた。

「痛っ!・・ジョークです。冗談ですよ」

エミリは少し戸惑っていたが、急に喋り出した。

「・・もしかしたらです。初恋かも・・って。・・でも谷さんが言うように胸に刺さるような痛みはないし、告白して付き合いたいとも思わないんです。だからといって他の女子とイチャイチャされるとモヤモヤするし、私の方が美人だよ・・と思ったり。兎に角ですけど、気にかかる存在なんです」

ヒロシはよくあるパターンだと分かりそれ以上は何も言わずに頷き話に同意していた。

「もう一つ聞いていいですか?」

「うん。いいけど」

「さっき・・どうして潤んだ目でボーとしてたんですか?片付けしてる時ですけど」

夢の中で聞いた歌で、ヒロシは恵美を思い出し、儚い恋人時代を悔やんだとも言えなかった。

「あゝ!あれね。居眠りしてたら何か・・寂しい夢を見て現実と重ね合わせてしまってね・・」

「そうだったんですね」

そんな話をしていると10分程度で店に着くのであった。

「谷さん!今日はありがとうございました。また話をしましょう!良かったら。じゃあ」

「うん」

ヒロシは簡単に返事をしエミリに手を振った。


その夜ヒロシはなかなか寝付けなかった。

昼間の夢・・それにあの声。

頭から長渕剛の曲が離れず、ヒロシの頭の中をぐるぐる回って離れなかった。

夜中1時位であろうか・・ふとヒロシは起き上がった。

「ちょっと・・エミリさん・・またですか?まずいですよ・・俺の布団に潜ってくるのは・・何回目ですか・・まったく。困ります」

そうであった。週に一度程度であるが、エミリは夢遊病者のように現れて、午前3時には帰っていくことがある。特に何もせず、眠って帰るだけであった。

「ああ・・ごめんなさい・・谷さん。・・なんか落ち着くんですここ。悩むとここに来たくなって気付くと横になってるんです。ほんと・・深い意味はないんですけど。ちょっとだけ居させてください」

ヒロシはこのエミリの行動に戸惑っていたが、母親も気づいているようだが、注意している様子もないので我慢していたのだった。

「いいけど・・どうしていつも下着姿で・・」

「だから・・これが落ち着くんです・・意味はないですから・・気にしないでください」

若い2人が同じ布団で寝ている・・しかし隣の部屋には別の下宿人もいる。到底・・変なことが出来るわけもない。どうして・・こんな流れで惑わすのか?意味不明に思うヒロシだった。

仕方がなくヒロシも横になり、エミリを気にしないように寝るようにした。

それから1時間半ほど経過しヒロシも寝いいっていた。

だが7月の暑い夜で2人はタイルケットを押し除けて寝ていた。扇風機はかかっていたが、ヒロシは暑さのあまりTシャツを脱ぎ上半身裸で寝ていた。エミリも暑さでブラを取りこちらも上半身裸で寝ていた。

ふとヒロシは寝返り手を右から左に倒した。その際に何か柔らかいものにあたり気付いた。

「あゝ・・エミリさん。下着取らないでよ。丸見えだよ。」そう小声で言いながらヒロシはエミリにタオルケットを優しくかけた。

エミリは3時過ぎにヒロシが配達に出かける際に起き、自分がブラを付けていないことに気づき「やば!こんな格好で・・でも何もしなかったんだ。谷さん・・」そう呟きながらブラを付けてTシャツに短パンを履くと、いつものように自分の部屋に戻っていった。

ヒロシは急いで着替え配達に行っていた。


ヒロシは考えた。

この次元も歪み始めた。想定していないことが起きてきた。

(どうしてエミリは俺を・・俺なんかを?

本来の人生ではエミリは俺に絶対に興味がなかったはずで、俺なんかタイプではなかったはず。)

(この次元に来たのが入所1週間後だ。だがその日にエミリが俺の部屋で下着姿で寝ている。寒いという俺の為とは言え信じ難い出来事だ。)

(それに両親も無関心過ぎる。第5の人生ではエミリとの場を見られ新聞店を追い出されたのに。違い過ぎる)

ヒロシは過去の出来事と現在、本来の3つのシチュエーションを考えていた。しかし・・明解な答えは見つからなかった。


8月・・自治会の祭りの日

ヒロシは賑やかな外の音を聞きながら、無心で勉強をしていた。暑い為に窓を開けていたので、お囃子や神輿を担ぐ声を聞いていた。

(そう言えば・・17の時に恵美と秋祭りに出かけたな・・あの時が一番幸せだった。)

ヒロシは思い出したくはない恵美との恋人時代を音で感じ取っていた。

「しかし・・腹が空いたなぁ。今日は夕食がないから尚更だ。カップヌードルでも買ってくるか?」

佐々木主任の奥さんは祭りの実行委員だったので、家を留守にしていたのだった。

ヒロシは参考書を閉じ階段を降りて、近所のスーパーに行くのだった。

ヒロシはカップ麺とおにぎりを買い自分の部屋に急いだ。「中途半端なところで中断したからな」

道端では露天商が出て多くの人で賑わっていた。

「へえ・・懐かしい・・りんご飴だ。それに焼きそばに射的・・子供の頃に遊んだな・・」

ヒロシの心は幼少期に戻っていたが、1軒の萬屋で何故か足が止まった。

「xxx家のジャムパン・・あのジャムパンだ」

ヒロシは忘れようとしても、どうしても恵美を思い出したのであった。忽然と消えてしまい、さよならさえ言えなかった。そのことがどうしても心から離れなかった。

「忘れなくちゃ・・夫婦だった事も現実ではない。俺の欲望から生まれた偶像だった。きっと元の場所で生きてるさ・・何処かの愛する人と」

ヒロシは下を向きながらブツブツと呟き歩いた。

その時ヒロシは誰かにポンッと肩を叩かれた。

「谷・・さん!まだ勉強ですか?」

エミリだった。

ヒロシはハッとした。今夜のエミリが妙に眩しく映った。ヒロシは目をぱっと開け上から下まで見てしまった。

薄いピンク色の浴衣と赤い鼻緒の小ぶりな下駄に、長い髪を上に纏めて留め、そこから覗く細く白いうなじ・・胸の膨らみや腰の帯もお尻を綺麗に見せて眩しくドキドキした。

普段は短パンやジーンズ姿に制服姿しか見ていなかったヒロシには、今夜のエミリがあまりにも眩しく久しぶりに心の高揚を感じた。

「エミリさん・・来てたんだ。・・楽しんでる?」

「ちょっと・・谷さん!私のことジロジロ見てたわ!エッチ!・・ああ、今日の私がノーブラでノーパンなのを確認してた?凄くエッチ!」

「違うよ。・・あまりにも可愛いから見惚れちゃって・・他意はないさ」

「そうでしょ!今日は最高におめかししたの!無論だけど、ノーブラでノーパンですよ!」

ヒロシは顔を赤らめ「ちょっと声が大きいですよ!」

「それで部屋でカップ麺ですか?寂しくない?」

「うん!受験生だからね。仕方がないよ」

ヒロシは少しがっかりしながら答えた。

エミリは首を傾げ、いうのであった。

「なんだつまらない!せっかくこんな美人が目の前にいるのに、部屋でカップ麺を啜るんですね!・・でも1時間くらいサボっても問題ないのでは?外に出たんだから、私と少しだけ歩きませんか?」

ヒロシは少し口紅を塗ったエミリの口に見惚れてしまった。(こんなに可愛かったんだ・・気づかなかった)

ヒロシはエミリを見て17の時の恵美の姿を重ね見ていた。悪いとは思ったが、笑った顔が恵美に見えた。

「歩くって・・同じ高校の人に見られるよ!」

エミリはヒロシの背を押し2人で広場の中心に行き、お囃子を一番後方で見学した。

ヒロシは横に並びお囃子の演奏を聞いて「久しぶりだなぁ・・祭りに来て聴くの。高校2年生以来だ」

ヒロシはそう言うと和太鼓のリズムに合わせ太ももを叩いて見せた。だがエミリは微動だもせずじっとお囃子を聞き見つめていた。

暫くするとヒロシの手がエミリの手に触れヒロシの手は止まった。そこにエミリはヒロシの指に自分の指を絡ませてきた。ヒロシはドキドキした。こんな可愛い子に指を絡まれ少し赤くなった。

ドラマであるワンシーンのようにヒロシは唾を飲み込んだ。

「・・少しだけ。短くていいから・・このままでいて」エミリはヒロシを見つめ言うのだった。

だがその光景を佐々木主任の奥さんが見ていた。

ヒロシはエミリとゆっくりと歩き家に帰った。

「まだこれからだよ。もう帰るの?」ヒロシはエミリに言うのだったが、その時だった。

「エミリ!」佐々木主任の奥さんだった。

「化粧なんかして祭りに来て、谷君を(たぶら)かして!そんな気持ちで行ってたの?!・・それでどう?谷君をモノにできたの?余り仲良さそうじゃないけど?」

奥さんはエミリを叱りもせず、さっきの絡ませた指のことでの成果を聞いてきたのだった。

「いいでしょ!これから・・」

奥さんの目は真剣そのもので、エミリは下を向いたままだった。

「もう一度行くから放っておいて!」

エミリはそう言うとヒロシの服を引っ張り会場に戻って行くのであった。

「ちょっと!エミリさん!どう言うこと?」

「ごめんなさい。谷さん・・今は言えない。でも安心して。別にあなたを騙そうとしてる訳じゃないの」

ヒロシは仕方がなくエミリについていった。

「ねえ!谷さん・・射的ってどう?」

ヒロシはきょとんとして「どうって・・やったことはあるぐらいだけど・・」

「じゃあ!アレとって!」と言って向かいにある射的の景品の小さなキーホルダーを指差した。ヒロシは仕方がなく射的をするのだった。

だが一向に当たらなかったのである。

「もう・・下手くそ・・私に貸して!」そう言いエミリは構え打つと見事にゲット・・

ヒロシは苦笑いしながら「・・人には向き不向きがあるから・・ごめん」

エミリは笑って「天性的に下手なんですね。この手のゲームは。」

「ああ・・そうかも」

ヒロシは(うつむ)きながら答えるのであった。

エミリはまた笑って「なら得意なものってあるんですか?」そう聞いてきた。

ヒロシは暫く考えていた。(今の自分に得意なものって・・挫折感くらい?)そう思うのだったが、偶然に道端でギターを弾く大学生を見て言うのであった。

「まあ得意・・じゃないけど、楽器は弾けるよ!」そう言いギターを弾く学生を指差したのだった。

「えーうそ!そんな感じには見えない。恥ずかしがり屋だし、人前が苦手な感じ・・」そうエミリは疑いの眼差しでヒロシを見た。

「そこのカップル!どう1曲!かぐや姫?オフコース?どう?聞いていかない?1曲100円だから・・どう?」

エミリはいいですというばかりに手を振った。

しかし「1曲いいですか?」ヒロシは(おもむ)ろに言うのであった。

「いいねお兄さん・・分かってるね。曲目は?」

「じゃあ・・うーん・・長渕剛の夏祭りで!」

「谷さん・・行きましょう!この人の歌聞きたくない」エミリがそう言うとヒロシは変な事を言った。

「すみません。100円の代わりに僕に1曲弾かせて下さい。お願いします!」

「おお!逆パターンか・・いいね!いいよ!さあ!」

大学生はヒロシにギターを差し出した。

エミリは「えっ!谷さん大丈夫ですか?いいですよ証拠見せなくても、信じますから」慌てて言った。

ヒロシは頷き「まあ!少しだけ聞いててよ!」

ヒロシはカポスタを4フレットにセットしながら「あゝ・・全くチューニングがダメだな。これじゃ音合わせからだ」そう言いチューニングを始めた。

終るとD基調の長渕剛の夏祭りの前にカポを一度外し、ホテルカルフォニアを即興で弾き始めた。

通りすがる人は誰も寄ってこなかったこの木陰だったが、ヒロシがギターを優麗に弾きだすと、その正確な綺麗で音の歪みもない演奏に、なんだなんだと人だかりがあっという間に集結した・・

集まった所で「では!聞いて下さい・・夏祭り!」

そう言いカポを4フレットに合わせ直し、スリーフィンガーで弾き始めた。正確なスリーフィンガーは皆を驚かせたのだった。

(夏もそろそろ終わりだね 君が言う・・浴衣姿で線香花火・・綺麗だよ!綺麗だよ!キーレイだよ とても)

浴衣を着込んだエミリは嬉しくなってはしゃいだ。

ヒロシが歌い出すとそこら辺から団扇(うちわ)を持った女性が集まり出して、ヒロシの歌声に驚きゴソゴソと会話していたが、やがて歌声にうっとりしていた。間奏は難易度の高いスリーフィンガーだが、ヒロシはいとも簡単に弾いてみせた。そして・・(燃えて散るのが恋ならば そのままずっと輝いてくれ・・)

人だかりは30人程になっていた。弾き終わると周囲が大歓声と拍手喝采の嵐だった。

ヒロシはギターをそっと大学生に返したが、大学生はギターを自分の手に取り「これ本当に俺のギター?君!もしかして・・プロだったりして・・」そう言うのだった。

ヒロシは恥ずかしそうに「単なるギター小僧ですから・・」そういいお辞儀をして謙遜した。

これに驚いたのは無論エミリだった。

「た・た・谷さん?・・す・す・凄い・・凄すぎる!もしかして歌手?なの?」そういい熱くなった自分の顔を手で(あお)ぎ目を丸くした。

ヒロシは自分を見る多くの視線に気がつき、恥ずかしさの余りエミリの手を引きその場を離れた。

ヒロシはエミリの手を握っているのに気づき「はあはあ・・ああ・・ごめん。慌てて・・」

エミリも少し赤くなって手を外した。

「どこで覚えたんですか?ギターが急に高級に見えたし、歌声が余りも素敵過ぎる・・射的が下手でも、こんな特技あるのがすごすぎ!」

ヒロシは自慢する事もなく「ううん、大した事はない。高校時代にバンド組んでて少しだけ歌も(かじ)っていた」自慢もせずそう言った。

「いいえ!齧っただけじゃあの歌の抑揚とギターテクニック無理だわ・・レベル高すぎです。谷さんああん!」エミリはヒロシの弾き語りを思い出し興奮したのだった。少なくともヒロシに好意を抱いたと言うより、尊敬の眼差しだった。

「過去の産物・・今じゃ。確かに輝いた時期もあったけど・・今は意味ない」

「どうしてですか?凄く感動したわあの曲・・長渕剛ですよね。意味ありますよ」

「ただ君の浴衣姿見てたら、あの曲を思い出して、なんか・・分からないけど・・弾いて歌ってたよ」

エミリはヒロシを見つめて「思い出・・そんな曲なんですね。きっと谷さんの。忘れられない・・」

ヒロシは上を見ながら「うん・・初恋・・だった」

「えっ?なんですか?なんて言いました?」

ヒロシは夏祭りという曲の思い出を少しだけエミリに説明したのだった。

「俺の苦い初恋の歌だよ。すぐに別れた彼女が居たと言ったよね。・・俺・・その子にベロベロに酔うように惚れていた。彼女が長渕剛が好きなの知って、死ぬほど練習した。・・やっと付き合えたら・・3ヶ月で別れたよ。ヘッドホンで2人でよく聞いたんだ。だから・・苦くて切ない気持ちが歌に出ていたと思う。俺・・いつの間にか・・そんな歌い方になっていて・・凄く恥ずかしいよ」

エミリはヒロシの背中にそっと両掌と頬をあてて「・・忘れられないんですね。その初恋の人のこと・・。あの日の図書館でも谷さん思い出したんですか・・その人のこと。何か・・寂しそうだった・・」

ヒロシは見られていたのかと戸惑ったが、

「ううん・・あの日眠くてつい居眠りしてたんだ。そうしたら耳にイヤホンがいつの間に添えられていて、長渕剛の夏祭りが心にそっと流れてた。横を見たらカセットウォークマンが回っていて・・誰かの声がした。まだ聞いていよう・・って。目を開けたら夢だと分かってガッカリしたよ」

エミリは少し小さな声で「・・きっと居たのかも。その人・・図書館にそっと来ていたんだわきっと。だってよく言うわ・・本当に好きな人は夢には現れない・・って。その時、あなたが好きな長渕剛を聴かせに谷さんのところに来ていたんだわ・・」

エミリの話を聞いたヒロシは少し元気が出た。

「そっか。ありがとう・・エミリさん」

そう言いヒロシはエミリの髪が風で少し口に掛かっているのに気づき、人差し指でそっと耳の方に動かし彼女の耳にかけた。その時エミリに近づき、

少しだけ・・(ほの)かに香る石鹸の匂いを感じ、まるであの日の恵美のようで・・2人が重なって感じられた。

2人は遅くまでステージのある公園で会話していた。

幼かった頃やイジメに遭っていたこと、勉強に夢中になっていた頃のこと。大学に失敗した事。

エミリも子供の時からの話をした。

帰り道で「今晩・・行っていい?谷さんの部屋?」

ヒロシはいつものことだったので「うん・・いいよ」そう答えた。

家に戻るとヒロシは2階の自分の部屋に戻った。

布団に横になり考えた。

(そうか・・あの図書館に恵美が居たかも?・・なんだ。でも・・確かに夢だったよな)

そう考えていたが睡魔に襲われて眠ってしまった。

夜中の2時くらいだったろうか。

ヒロシは隣にエミリが居ることに気づいた。

しかも浴衣姿のまま眠っていた。

ヒロシはエミリの顔を覗き「・・可愛い」そう呟き、彼女にタオルケットを掛けた。

エミリは少し暑がり浴衣の胸元を大きく開け、下半身も大きくはだけるように足を開いたのであった。

「もう・・まったく困りもんだ。この格好で来なくてもいいのに・・」そう言い胸元のはだけた襟を直し、足を閉じさせ、はだけた浴衣を整えた。

(いったい・・この子は何を考えているんだろう?それに主任の奥さんも・・黙認のようにここに来ていることを・・もしも2人に何かあれば収拾は付かないのに、この家族はどうしたんだ。違和感だらけだ。全てを失いここに来たけど、第一の人生にはこんなシュチュエーションは存在しなかった。それに・・エミリがこんなに可愛い姿で俺を誘惑しているようで、自我が負けそうになる。既に歪みが起きているけど、展開が激しすぎる)

ヒロシはアップして留めてあったエミリの髪の毛が顔にかかり、益々愛おしくい思いながらも、そっとその髪を指で触り、耳の横まで掻き上げた。

エミリは疲れていたのかぐっすりと眠っていた。

ヒロシはそっと部屋を抜け出し、祭りが行われていた公園に歩いていた。公園に着くと、多くのゴミが散らかっていたが彼は気にせず、買ってきた缶ビールをグッと飲んだ。

エミリの笑顔と声・・それに浴衣姿・・まるで恵美と行った秋祭りの再現だった。

ヒロシは雑念を捨てるべきとじっと精神統一させていた。何度もいろんな経験をして、自分の心が優しさに負けた時・・一瞬の幸せは掴んだが、永遠ではなく(もろ)く崩れ去っていった。この次元でも同じだろうと感じ取っていた。

だが・・絡めた指と指・・間違いなく初恋の時と同じだった。恵美を見る度に、絡めた指を思い出した。

さっきのエミリの寝顔を見た時のように・・

それに声・・紛れもなく心を揺さぶられた。♭でもなく♯でもないメジャー音だった。エミリの口元から発せられる声がまるで美しいビブラートで、心地よくヒロシの心を震わせていた。益々、恵美との共通点を感じ取っていた。

「・・でもダメだ!歪んだ次元を戻さねば!この後、木村先生に連絡して、推薦を書いてもらって、12月には静岡の大学に合格して・・2月には・・」

ヒロシの独り言は詰まった。本来の人生が虚しくて、過去を変えた事実がある。その虚しい人生にまた進むしかない・・それはそれで相当な覚悟が必要だった。

「覚悟・・か。そうとも覚悟をもって進むしかないんだ。ここで道を外せば、歪みが大きくなり、またタイムパラドックスが起きて、俺に関わった人の人生が駄目になる・・それだけは防がなくては」

ヒロシは決意したように立ち上がり帰るのだった。


翌朝からヒロシは雑念を捨てた・・

恵美への欲望やエミリへの憧れ・・

憧れだった最初の人生で(こんな女の子と仲良くなれたら、きっと別の人生があっただろうって・・あの時に少し感じていた。

だが・・ここまでの出来事はかなりのイレギュラーだった。好意はなかったとしても、歳の近い彼女がもし・・仮に俺に好意があったらどうだったか?

そんなことを考えていたが、ここまで如実に表現されると偶像や幻のようで怖かった。

ヒロシは毎日、仕事と勉強に没頭した。

(第一の人生でもそうだったように、エミリや恵美を頭から消し、次のステップに踏み出そうと考えた。

だが・・歪んだ次元はどこまでもゆらゆらと揺れ、頑なに今を生きようとするヒロシを苦しめるのだった。

ある夕方・・

主任の奥さんが「夕食後に少しだけいい?話したいことがあるの。時間は取らせないわ」そう笑みを浮かべ言うのであった。

ヒロシはただ「あ!はい!わかりました」そう答えた。

夕食後にヒロシは例の公園のベンチに連れて行かれた。また・・ここか?そう思うヒロシだった。

主任の奥さんは笑っていたが急に真剣な眼差しで言うのであった。

「谷君・・エミリ・・変でしょ?気づいているわよね?私も彼女の行動は黙認していたわ。ごめんね」

ヒロシは気まづそうだったが「いいえ・・いいんです。僕は特に気にしていません」

そう端的に答えた。

「あの子・・過去に酷い事があって、全てに無関心になって無感情になっていたの」

ヒロシは「えっ!・・そうなんですか?」

主任の奥さんは少し躊躇(ためら)うように話し始めた。

「あの子が中学に時に私の兄・・エミリにとっては叔父だけど・・ある事件があって。・・エミリは伯父が好きでいつも一緒に映画を見たり、テレビを見たり食事をしていたの。私たち夫婦が忙しかったから、兄に頼り切っていたかもしれないけど間違いだったわ。ある日エミリが泣いて家に帰ってきたの。泣いて何も言わなかったけど、服が乱れていて雰囲気からわかったんだ。兄が乱暴したんだなって。裕福に育っていた私たち兄弟は何不自由なく育ったわ。でも・・それが悪かった。兄は若い頃から駄目人間だった・・私が結婚してエミリを産むと自分のように喜んでくれたけど、エミリが中学になる頃から目つきが変わり、結婚もしない兄は変な趣味に没頭して警察からも良く事情聴取を受けるようになっていたの。・・でも自分の身内は大丈夫と鷹を括っていた私がいけなかった・・だけど

エミリが兄に暴行され妊娠したの・・う・う・・信じられなくて、私は身内だったけど婦女暴行罪で訴えた。主人にも申し訳立たなくて・・あんな子供に乱暴して・・兄弟との縁は切った。でもね・・エミリは変わってしまって。学校も行かなくなり、外出もせずに家に居たわ。全裸で・・分かる?全裸なの・・私は汚れたって!汚い女だって・・毎日言ってた。私と主人は困ってカウンセラーや病院も行ったけど、無意味だったわ。エミリには見えない深い傷ができて、そこに膿ができて増殖して心を閉ざした。でもね・・不思議だけど、人にたまに会うと明るく振る舞うの。まるでいい娘のように・・それが耐えれなかったわ。だから・・私はあの子に自由にさせてやりたかったの。私の目の届く範囲で。そうしたら・・谷君がここにやって来て、エミリが変わったわ。いつも私の布団に潜って寝るのに・・それがいつか谷君の布団に変わったわ。不思議で驚いて聞いたのエミリに。何があったのって。そしたらあの子・・お母さん、初恋って知ってる?って言うの。そんなことを初めて聞いた。エミリは何かわからないけど、谷君の・・持っている何かを見つけたのかもしれないの。2人が純情にしているのは知っているし、谷君に意見を言うつもりはないの。ただ・・谷君・・あの子を突き放さないで・・やっと変わってきたの。だから・・お願いだから」

ヒロシはショックを受けていた。エミリの過去があまりにも酷く、自分自身が彼女の明るい顔に曇りはないと思っていた。そんな無愛想な自分を責めた。

恵美の強姦事件をヒロシは思い出していた。あの時も長く苦しい時間を要し、愛することで彼女を救えた?それでも・・一生恵美は苦しんだかもしれない・・そう思うとエミリの明るさに涙が溢れた。

「寮母さん・・僕も過去にたくさんの間違いをした人間です。それに19のまだ子供です。そんな僕は彼女を守っていけるでしょうか?正直、自信は今は無いです。・・でも、僕は彼女を守ろうかと思います。突き放さず、必要な時に一緒に居たいと思います。僕にも・・信じないででしょうが似た事がありました。僕はその時に思ったんです。心の傷は心で向き合って相手にも自分の本当を教える事だって・・」

主任の奥さんは少し涙し「・・ありがとう!よ・よろしくお願いしますね。谷君・・」

そう言うのであった。


ヒロシは歪んだこの次元を修復するつもりで奔走したが、歪んだ事実に立ち向かうのも歪みを訂正できる手段だと感じたのであった。

ヒロシはいつもと変わらずエミリに接していこうと思うのであった。

「ああ・・また来たの?もう・・11時だよ。エミリさん・・えっ!なんで今日はパジャマ?」

「うん・・偶にはいいかなあーって」

「ああ・・そう」

そう言いながらヒロシは薄手の掛け布団を開けてエミリを入れた。

「あー落ち着くわ。谷さん・・早く目を瞑って!3時起きでしょ!」

「おお・・そうね。寝なきゃね・・」

ヒロシとエミリは横になり互いを見つめながら寝るのであった。ヒロシはいつものようにエミリの髪をそっと撫でて、エミリはヒロシの顔に手を置き・・最近の日課でもあった。

「ねえ・・エミリさん。いい?」

「何ですか?」

「・・考えたんだけど、俺の呼び方変えない?」

「えっ?どんなふうに?」

「谷さん・・って辞めて、ヒロシ君にしない?」

「・・斬新ですね。・・ひ・ろ・し君?」

「そう・・それがいい。慣れてるから・・」

「・・じゃあ私は?」

「君が良ければだけど・・エミ・・そう呼んでいい?」

「ヒロシ君・・リ・・はどこにいったの?」

「だって・・エミリだったら君のお父さんやお母さんと同じだろ?だから短縮して・・エミ・・どう?」

エミリは少し微笑み「「うん・・それがいい」

「もう一つ頼みがあるんだ」

「何ですか?」

「敬語も止めよう。俺たち・・」

ヒロシはそう言うとエミリの指に自分の指を絡ませて、天井を見た。

「あゝ・・こうしてると落ち着く。エミを感じる・・繋がっているなあってね」

エミリは少し赤くなったが「・・高いですよ。私の指・・高価なダイヤみたいですから」

「うん・・いいよ。高くて。俺が払えないくらい高価なものなら、時間をかけて値段交渉するから」

ヒロシはそう笑うのであった。

2人は片手を絡ませ、もう一方で互いの部位を感じるように触れていた。

「私・・ヒロシ君の目と口が好き。悲しかったり、笑ったり、勉強の時の凄みのある目・・たくさん持ってる。それにあの・・歌・・今思い出しても涙が出るくらい・・切なくてでも愛してる・・それが伝わる声を出す・・この口」

エミリはヒロシの唇に指をあて言うのであった。

「ううん。あの時・・エミの浴衣姿が本当に綺麗で、目のやり場に困っていたんだよ。そしたら偶然だけどギターがあって・・弾いちゃった。それだけ。・・歌詞の中にもあるけど、燃えて散るのが恋ならば、そのままずっと輝いてくれ・・って。激しく燃えて恋すると・・やがて別れが来ちゃう。だからいつまでも純粋だった頃の2人でいれば輝く・・そう言う事だよね。だから俺はゆっくり・・スローな気持ち」

エミリには意味深に聞こえたが、ヒロシはありことを伝えた。

「エミ・・」

「何ですか?」

「・・一度だけ君を抱きしめてもいい?一度だけ」

エミリはハッと思い下を向いた。だが意を決したように「・・うん」

そう頷くとヒロシを抱きしめた。

ヒロシはそれよりも強くエミリを抱きしめた。

「ヒロシ君・・好き あなたのこと。刺さって痛い」

「良かった・・嫌いじゃなくて。安心した・・」

2人はずっと抱きしめ合いながら眠るのであった。

ヒロシが次元の歪みを元に戻す計画の目論みは失敗したが、それでもエミリをどん底から救いたかった。次元が歪みこの子を仮に失っても、本当の笑顔を甦らせてみたいと思った。

偶像ではなく、今のエミリに・・


続く

歪んだこの次元でエミリとの純愛の道を模索し始めるヒロシ・・今後のさし迫る事態にどう対応していくか?

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