第64話 彼女は困惑しました
「うえぇ……」
茜について歩きながら、佳子は思わず、といった体で声を漏らした。
3人が進む道。
そこには、何体ものゾンビが倒れ伏していた。
いずれも頭部あるいは頸部に矢が突き立っており、動くことは無さそうだというのが救いか。
ただ、よく見ると目や口は動いているため、不気味なことに変わりは無い。
「……口元に手を突っ込んだりしない限りは、大丈夫ですよ」
「……しないよそんなこと!」
コソコソとそんな会話を続けつつ。
3人は、目的のマンションに辿り着いた。
「ここ……か?」
マンション。
それは、たくさんの部屋があり、たくさんの住人が暮らしていた場所だ。
つまり、相応にゾンビが多い場所でもある。
「はい、203号室を目指しましょう。大丈夫です、道中のゾンビはみんな倒されてますので」
茜はそう返答し、エントランスに入った。
そして、早速。
目の前に、矢が何本も突き立ったゾンビが、倒れているのを発見する。
「これもまあ、オブジェみたいなものですね」
「随分と前衛的だな……」
そんな醜悪なオブジェを回避しつつ、茜達は階段に向かった。
「えーと、2階の203号室です。他は全部入居済みですので、気を付けましょう」
「入居済みって、ゾンビが居るってことか……?」
「ドアを開けたら飛び掛かってくるので、訪問はオススメはしません」
「いや、開けないが」
階段を上がると、茜は全員に『しゃがむ』ように指示を飛ばす。
「姿を見せないように、『隠れながら』進んでください。ここってかなり目立つので……見つかると、攻撃されちゃいます」
佳子と克也は茜に導かれて、2階の廊下を隠れながら進む。
そのまま203号室に辿り着くと、何事も無く3人は室内に侵入した。
「なんとか無事に到着できましたね!」
「さ、最後は何がなんだか……」
佳子は、そのまま玄関にへたり込んだ。
茜はというと、疲れた様子も見せずに屋内に上がり込む。
「さて……と。カーテンは全部閉めます。夜になりますからねぇ」
「……外から、狙われるのか?」
そんな茜に、克也がそう尋ねた。
克也はリュックを下ろしてリビングの机の上に置くと、そのまま荷ほどきを始めている。
「……ええと。……はい、そう……ですね……」
そして、声を掛けられた茜は、ビクリと肩を跳ねさせた。
どうやら、まさか話し掛けられるとは思っていなかったらしい。
「さっきの矢も……関係あるのか?」
「う……と……。……サバイバー、ですね……。ええと……」
動画や配信のコメントであれば、適当に誤魔化せば良い。むしろ、ネタバレなんて厳禁だ。
だが、ここでその回答は、さすがに場違い、悪であるということは理解できる。
茜ちゃんも、そこまでアレではない。
ただ、そうするとどうやって話せば良いのか分からなくなるのが、コミュニケーションの難しさであった(誇張表現)。
「……武装した、人間です。襲ってくるので、撃退しないと、出られません」
「人間……」
茜の言葉に、克也は難しい顔のまま黙り込んだ。
克也はそれなりに知識を溜め込んだ人種のため、茜の言葉をすんなり受け止めることができたのである。
人間は、例え危機的な状況に陥っても、本質的には悪である。
必ず、他人を害する個人が発生するのだ。
それが、どれほど理不尽であっても。
「……会話は、できないのか」
「会話……。ええと……交渉の余地は、無い、ですかね……。相手の物資も、相当、なので」
道に転がっていた、ゾンビ達。
複数本の『矢』が突き立った彼らを、思い出す。
通常、矢は消耗品だ。使ったら無くなる。
だが、それを惜しげも無く、『敵』は使用していた。
補給の当てもないこの世界で、あれほどの矢を使っていたのである。
もちろん、考え無しに使い尽くした可能性もある。
しかし、そんな楽観論を信じて、自らを危険にさらすほど克也は愚かでは無い。
「茜さん~……おなかすきません~……?」
と、そこに。
リュックサックを引きずりながら、佳子がふらふらと登場した。
「……そうだな。やっと落ち着けるんだ、夕飯にするか。その後でいいから、もう少し確認させてくれるか?」
「……はい」
茜は。
克也は、こんなに喋るヤツじゃ無いだろ、と考えていた。
未だに、人付き合いは壊滅的であった。
◇◇◇◇
次の舞台は、『東大島町』。
ここから、明確に『敵』として出現するサバイバーから逃げ、隠れ、脱出するというイベントをこなすことになる。
その『敵』は。
名前不明、容姿も不明で、どこからともなく矢を撃ち込んでくる。
特定の場所に留まることも無く、フィールド上を自由に移動し、主人公を攻撃してくる。
『サイコパス:東の牢番』。
全ステージを通じて、最も主人公を殺害した回数が多いと言われ、プレイヤー達から蛇蝎の如く嫌われていた、害悪サバイバーだ。
そして、そんな第4ステージを。
茜は、サバイバー2人を連れて、脱出しなければならないのだ。
これにて、第3章は終了となります。
ここまでお付き合いいただき、ありがとうございます!
一旦完結とさせていただきますが、第4章も準備ができ次第再開かな~。
その前に、閑話をチョコチョコと入れるかもしれません。
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タイムラインがゾンビで汚染されないSNSを……たのむ……。




