第49話 彼女は決意を宣言しました
――ガタァン!!
「ひぃ!?」
「ぬぅおぅ?!」
突如響いた衝突音に、座り込んだ佳子と克也はびくりと身体を震わせる。
慌てて、その音が響いた背後を振り返ると。
――ガタガタガタン!!
「ぞ、ゾンビ……!?」
「うお、逃げ……!!」
屋敷の縁側、全面ガラス張りのそこに、凶相を浮かべた小柄な人影が張り付いていた。
佳子は思わず隣の茜の両足に抱きつき、克也は立ち上がって逃げようとして足を滑らせ、その場にひっくり返る。
「大丈夫です」
そして、茜は。
佳子に両足を拘束されたまま、平然と頷いた。
「この場所では、あのおばあちゃんゾンビは単なるビックリギミックです。ガラスを割って外に出てくるほどの膂力は持っていませんし、カギを開けるほどの知性はないので」
「へ、へあぁ……」
――ガタガタガタ! ガタガタガタガタガタガタ!!
「だ、大丈夫なのか……?」
「大丈夫です。ここにいる分には、ちょっとうるさいだけのおもちゃと思ってください。屋内に入るならまた別ですけども」
「は、入らないよぉ! 何でそんなこと言うの!?」
「いやあ、この家の中、実績解除用のレアアイテムが拾えるんですよね。ストーリーの進行には関係ないので、今回は無視しますが」
「実績解除……? ストーリー……?」
そんなハートフルな会話を繰り広げる茜と佳子の隣で、ひっくり返っていた克也はゆっくりと身体を起こし、地面に座り直した。
「……ああいうゾンビがいるなら、あらかじめ教えておいてもらえないか……?」
克也の至極真っ当なその意見に、茜は首を傾げて眉を寄せた。
「ええと……」
茜は、考える。
克也は、何を要求しているのだろうか。
「……ゾンビなら、監視塔ゾンビには気を付けないといけないですね。通常ゾンビの行動パターンが変わってしまうので、場所によっては難易度が爆上がりします。あと、ほとんどの住宅は在宅ゾンビが居るので、迂闊に姿を晒さないようにしてください。外に出てくるゾンビもいるので、身を隠せる場所を確保してから確認するようにしましょう」
「……オーケー。気になることはまだあるが、茜ちゃんが安全……安全……? に、気を付けていることは分かった」
微妙な反応の克也に若干の不安を抱きつつも、茜は納得してくれたらしいと判断する。
「少し休んだら、向こうから出て先を目指しましょう。水分補給をしておきますかね」
「あんまり休める気がしないよぅ……」
ガタガタと窓を揺らすゾンビを横目に、佳子は大きくため息を吐いた。
佳子ホールドから解放された茜は、リュックサックを地面に下ろすと、中からペットボトルを取り出す。
「……茜ちゃん。この後、どこを通ってどこに向かうのか、決まってるのか?」
「……ええと」
少しして、克也に話し掛けられ、茜は困った顔でペットボトルを唇から離した。
「夜はどこに泊まるのか、とかだが……」
「……隣町に。大きな橋があるんだけど……知ってる……?」
「橋? ああ、知ってるぞ。名前は知らないけど、川に掛かってる長い橋だな」
大流川新橋。
それが、茜が目指している場所である。
「橋を渡る予定……。ええと、ゾンビが多いから移動しっぱなしになる、はず。橋を越えたら宿泊したいから……、在宅ゾンビがいない住宅を探す……かな……」
「なるほど……橋か。……茜ちゃんは、知ってるのか?」
克也が、何を聞きたいのかがいまいち分からない。茜は、首を傾げた。
「あー、その、橋の様子とか。この辺りのこととか、けっこう詳しいみたいだけど」
「あぁ……」
克也に、おそるおそるといった雰囲気でそう尋ねられ。
茜は頷く。
まあ、考えてみれば、だ。
茜はゲームの知識を持っているが、それは本来、茜が知り得る情報では無い。
それを惜しげも無く披露しているのだから、まあ、多少は不審に思われても仕方が無いだろう。
茜は、微妙にずれた結論を、脳内に展開した。
世界を自分の都合の良いように解釈する、茜の悪い癖が出ていた。
これだから、いつまで経ってもコミュ障なのである。
「いろいろと、伝手があった……」
「そ、そうか」
というわけで、答えにくい回答は適当に返す。
言い切れば、大体皆、それ以上は突っ込んでこない。
茜は、間違った対処法を身につけてしまっていた。
「……そろそろ、動きましょうか」
話は終わった。
態度でそう表明することで、茜は強引に会話を終わらせる。
克也は微妙な表情のまま、仕方なしと地面に下ろしていたリュックサックを拾った。
「茜さん、どこを目指すんだっけ?」
「次の宿泊場所を、目指します」
「次……え……と、途中で休みは……」
「このあとは、ノンストップです。ここから橋にたどり着いたら、もう休めるところはありませんので、そこは覚悟してください。敢えて言うなら橋に入る直前では休めるかもしれないですが、30分くらいで到着するので、休む意味はあんまりないですねぇ」
ノンストップ。
茜の言葉に、佳子は戦慄した。
その様子を見て、克也もなんだか不味そうな話をしていると警戒し始める。
「えーっと……ちゃんとルートは想定しているので、大丈夫ですよ。3人で通り抜けられるように、考えたんです。まだまだ序盤ですからね、こんな程度で立ち止まってなんかはいられません」




