第45話 彼女は選別しました
「持って行くのは、嵩張らない、長持ちする、簡単に食べられるものがいいだろうな」
「お菓子は……うーん、期限は長いけど……」
佳子と克也が、食糧を仕分けている。
テーブルの上には、今3人が持っている食糧、この家で見つけた食糧、その両方が広げられていた。
「ジャガイモか……これは?」
「ええっと……茜さんが、将来的にはあったほうがいいかもって……」
「ううん……」
ジャガイモは、とりあえず空きのあった佳子のリュックサックに詰めただけだ。
他に有用なものがあれば、入れ替えるのもやぶさかではない。
「あー……茜さん? ジャガイモは、持っていった方がいいか?」
「……必須じゃない。……余裕があれば」
「分かった。なら、とりあえず保留だ。レトルトはいいとして、缶詰も……重いが、長持ちはするからなぁ」
克也は、自主的にそのあたりの仕分けを手伝ってくれていた。
正直、佳子は全くあてにできないため、これは助かる。
自分で考えなくてもいい、というのは、こうも楽なものなのか。
「マヨネーズ……? いや、カロリー源として考えると確かに……」
「ポテトサラダが作れますね!」
「そうだな」
2人が食糧を吟味している隣で、茜は装備を確認している。
茜達が持っているのは、アウトドア用の調理器具一式。消耗品として、ウェットティッシュ、カセットガス缶。その他、石けん、タオル、下着、靴下。回復材である包帯、消毒液、解熱剤。さきほど手に入れた、花火一式とライター、トレッキングポール。
これらと食糧、ペットボトルだけで、大型リュックサックはほぼ埋まっている。
最後に、綿シュラフ。これがないと、夜に風邪を引いてしまう。
「…………」
シュラフは最悪、1つあればいい。茜と佳子が一緒に入れるだけの大きさはあるからだ。
だが、そこまで重いものではないため、できれば持っていきたい。
「調味料も、できればもっていきたいな。味変はストレス軽減になる」
「そうなんですねぇ」
軍手は、細かな怪我から手を保護するのに役立つだろう。
ゲーム内では描写は無かったが、僅かな傷でも破傷風などの危険がある。
怪我をしないよう、できれば全身を覆いたいところだ。
幸い、見つけた軍手は作業用のしっかりした作りのもので、使い捨ての安っぽいそれとは安心感が違う。
「そういえば、茜さんの料理ってすごい美味しいんですよ! 時間があれば、今日もつくってもらいたいなぁ」
「そうか……」
「……夜、作るから」
「わ、本当!? 楽しみだな~」
――佳子は、本当に明るい。言動が前向きだ。
茜はそのことに、安堵していた。
鞄君――克也は、仲間にしてもあまり喋らないし、ネガティブな発言が多いキャラクターだ。
実際、ゲームキャラクターとしてはあまり人気が無かった。
早々に退場するにもかかわらず大変な人気を誇っていた佳子とは、大きく違う。
もちろん、あまりにも早すぎる退場ゆえに、解釈の幅が非常に広かった佳子の2次創作が盛況だった、という事情もあるのだが。
茜は、会話を続ける2人を眺める。
ゲーム本編では、絶対に実現しなかった組み合わせだ。
これを眺めることができる、というだけで、茜は内心、感動していた。
ゲームシナリオ上、絶対に実現不可能だった組み合わせが、ここに誕生しているのだ。
『ZOMBIE - ゾンビ』最大最高のファン(自認)としては、これほど嬉しいことはない。
「……とりあえず、荷物は整理するけど。これから、移動するのか?」
そうして仕分けをしつつ、ふと、といった様子で、克也がそう尋ねた。
「ええと……茜さん、移動するんだよね?」
「…………」
2人に聞かれ。
茜は、少し首を傾げて考え込んだ。
ゲーム的には、時間に余裕があれば移動した方が良い。
少しでも前に進んでおけば、時短に直結するからだ。
だが、いかな茜とて、現状は正しく認識している。
現実世界で、それほど急ぐ理由はないのだ。
正確には、ある一定の日数を超えなければ、別に道草を食っても問題ない。
まあ、とはいえ。
「……できれば。……ええと……。……この家は、安全なのは間違いないんですが、物資も少ないですし、あまり滞在するメリットがないですね。全員、体調も万全ですし、移動できるときに移動しておく。これが鉄則です」
「そ、そうか……」
寡黙な少女が、急にすらすらしゃべり出す。しかも、微妙に会話になっていない。
そんな違和感に若干引きながら、克也は頷いた。
納得したかどうかは、まあ、どうでもいいだろう。
茜は、別に気にしないのだから。
「茜さん、この辺を持っていこうと思うんだけどどうかな?」
「…………」
佳子に呼ばれた茜は、ソファから立ち上がると、テーブルの上に広げられた食糧を眺めた。
端に寄せてあるのは、開封済みであったり、賞味期限が切れているもの。
真ん中には、ペットボトル飲料とレトルト食品、乾麺や乾物類、そして缶詰。
反対側に、袋菓子などかさばるもの、ジャガイモなどの野菜。
ひとまず、食べられないものは不要だ。
真ん中のものを詰め、空きに菓子類、可能ならジャガイモも入れれば良いだろう。
「ここからここまでを佳子ちゃん、こっちは克也君で」
「ああ……」
「分かった!」
茜の『指示』に、2人は素直に頷いた。




