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12.高層ビルの中は


 【暁の層楼】内部は、ひんやりとした空気が流れていた。なんとなく感じる、“外とは違う”という雰囲気。ビルを入ったところにはエントランスホールがあったが、そこのカウンターには誰もおらず、ただただ斑鳩久遠と俺の足音だけが天井にこだましていた。


「……なぁ、久遠」


 俺は小声で聞く。


「……なんで人が居ないんだ?」


 普通、こういう大きなビルとかホテルとかってエントランスに受付の人が居るんじゃないのかよ。でも聞いてから気づいた――ここは『異世界』。しかもこの建物は怪しげな処だ。常識が通用するとは限らないし……。


「僕たちが来るのを見越してのことなのかもね」


 そう言って肩をすくめる久遠。


「どういうことだ?」

「だから、僕らが来るから向こうも動いたんじゃないかってこと。人が『居ない』んじゃなくて、『居なくなった』」

「……なるほど、ちなみに聞くけど『向こう』ってのは?」

「決まってるだろ、この世界の支配者側、だよ」


 久遠が目を伏せた。


「もしそんな立場の奴らが居ればって話だけど」


 そう少し悲しそうに言う友人の姿に、俺は思わず足を止める。


「どうしたんだよ久遠」

「何が」

「珍しく元気無いぜ」


 俺が単刀直入にそう言うと、フッと彼は笑った。


「だって、僕は散々『世界の中枢部』とか『支配者側』とか言ってるけど、もしそれが居なかったらって考えたら――僕らはどうすれば良いのかわからなくなるじゃないか」


「ああ」


 そう、世界をぶっ壊すためには……もし、支配者が居るのだったらそいつらを倒せばいい。彼らは何らかの情報を持っている筈だし、この間違いだらけのへんてこな世界を作っているやつが居なくなれば訪れるのは平和な世界。だけど……もし、そういう立場の奴らが居なかった場合。


「このおかしい世界が、支配者なんていう立場なんて必要としないまま……自然に成り立ってしまっているってこと……」


「そのとおりだ、来翔」


 僕らは世界を壊すための手段を、一から探さなければならなくなるだろう。


 斑鳩久遠はそう言ってまた歩を進めた。俺も彼について歩き出す。それからは暫く無言が続いた。


 

 薄暗い照明、床には真っ黒な絨毯が敷かれている廊下を二人で進む。相変わらず人気は無く、時々自分がどこを何のために歩いているのだろうという錯覚に陥る。本当に此処が……人の気配が無さすぎて廃ビルのように思えるこの建物が、この世界の中枢部なのか…?



 そう、俺が思った瞬間。



『やぁやぁ、ひっさしぶりの来客だね』


 聞き覚えのあるあの声が、廊下にこだました。

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