菜々子がアツジを思う気持ちはなめられない。
僕はエイトマンに向けて言った。
「おい、お前、また懲りずに光さんの事を狙っているのかよ!」
「そうよ、あなた光さんが嫌がっているのを知っていてやっているでしょ。それってストーカー行為よ」
するとエイトマンは『走れエイトマン』と言う感じで逃げ足が早く、スイーとどこかに逃げていってしまった。
「逃がしたか!」
「何であいつあんなに早いんだろうね」
菜々子さんは不思議そうに言う。
そこで光さんの所に行き、「光さん、エイトマンがまた現れましたよ。でもあいつ足が速くて追いつけなかったけれど」
「知っているよ。いつも度々私の事を動画で撮影しているんだからね」
「光さん、そんな奴に付け狙われて怖くないんですか?」
「怖くは無いわね、一度助けて貰った恩義もあることだし」
「そんなのんきな事を言っていていいんですか?」
「まあ、良くは無いわね」
やれやれと肩をすくめて言った。続けて、光さんは「でもあいつ悪い奴じゃない感じじゃないんだよね。あのエイトマンこの近所で働いているみたいでさ、その姿を見ている時、ちゃんと真面目に働いているんだなあって感じで私はほっとしているんだけどね」
「あいつどこで働いているんですか。僕達が締めてあげますよ」
そこで菜々子さんが「右に同じ」と手を上げた。
「暴力はダメよ。もし何かしでかしたら警察に通報して上げるから。
それよりもあなた達は人の心配するより、自分達の事を心配しなさい。
小説と勉強を頑張るんでしょ」
「それはそうだけど、あいつをほっとくとろくな事がない感じがして怖いんですけれど」
「人の心配よりも、自分達の心配をしなさい。二度も同じ事を言わせない」
と光さんは言って司書の仕事に戻ってしまった。
「アツジ、これはもう事件だよ」
「僕もそう思う」
とにかく光さんは自分の心配をしろと言っていたが、エイトマンをこのままにしておいたら、とんでもない事になってしまうような気がする。
光さんを守るのは僕達しかいない。
今度エイトマンを見つけたら、捕まえて二度とそんな事ができないようにしてやるしかない。
でも光さんの言うとおり、エイトマンには恩義がある。
あの時、エイトマンが僕達を撮影していなければ、僕が前科を請け負うことになり、光さんも菜々子さんも悔しい結果になっていただろう。
とりあえず、逃げてしまったエイトマンの事はおいといて、僕と菜々子さんは小説の続きを書き始めた。
書く手が止まらない。
時計を見てみると、午後二時を回っていた。
「菜々子さん。そろそろ、昼飯食って、新聞配達の仕事に行く時間になったよ」
「あら、もうそんな時間?」
「そろそろ飯食って切り上げよう」
「そうね」
図書館を出ると、商店街があり、その通りにこじんまりとしたスーパーがある。
そこに僕と菜々子さんは半額になったお弁当を購入しようとしたら、レジにエイトマンが現れた。
「あーお前!」
僕が指を指してエイトマンに向けるとエイトマンは、「今は仕事中だから勘弁してくれ」
「何が勘弁してくれだ」
そこで菜々子さんが「あんたそれ以上、光さんの事をつけ回すと殺すわよ」
「じゃあ、今度からつけ回さないよ」
「本当か!?」
「本当に本当」
「嘘をついたら針千本なんて物じゃないからな。覚悟しておけ」
そこで菜々子さんが「アツジそろそろ行かないと」
「それもそうだね」そういってエイトマンに指を指し「約束だからな。これ以上光さんに変な気を起こすなよ」
「わ、わかりました」
エイトマンって体ががっちりとしていて、背は高く体育会系のような感じだ。しかも結構なイケメンだ。それに先ほどの逃げたが、凄く早くて、追いつけなかったっけ。
僕達は図書館に隣接する公園で遅い昼ご飯を食べて、配達所に向かった。
配達所に到着したのは三時十分前で、何とか遅刻せずにはすんだ。
一回遅刻をすると罰金五百円と説教が待っているから僕と菜々子さんはそれを気をつけている。
配達中、あの光さんをストーキングするエイトマンの事が気になり、光さんが心配だった。
でもスーパーで買い物していた時、バイトはちゃんとやれていたし、案外真面目な奴なのかもしれないと思った。
それに何度も言うが、エイトマンには恩義があるから光さんは下手に文句が言えないのか?
だったら、ストーキング何てしないで潔くちゃんと光さんにその思いを伝えれば良いのに・・・そう思うと、何か切ない気持ちがこみ上げてきた。
その気持ちを目を閉じて確かめてみると、僕の心にはまだ光さんを思う気持ちが存在していた。
そうだった。僕はまだ、光さんに対する気持ちが存在していたんだ。
でも僕には菜々子さんと言う素敵な女性がいる。
僕は菜々子さんを裏切りたくない。
また変な気持ちになってきた。
こんなんじゃまた菜々子さんに心配されてしまう。
とにかく心配されないように平常心平常心。
仕事が終わり、配達所に帰ると、菜々子さんはいた。
「あー菜々子さんの今日は勝ちだね」
とにかく心配されないように平常心平常心と僕は自分に言い聞かせる。
すると菜々子さんのナイフのような視線に圧倒されてしまう。
やばい見抜かれたか!?
「ねえ、アツジ君、ちょっと表に出てみようか!」
「表にですか?」
「うん。表に」
菜々子さんと僕は同僚のみんなに「お疲れさま」の挨拶をして外に出た。
すると菜々子さんは笑顔で「アツジ、あたしに隠し事をしているとどうなるか知らないよ」と顔は笑っているが目はきつく、僕は圧倒されてしまう。
「別に隠し事なんてして・・・ぶっ」『ないじゃん』と言おうとしたところ、菜々子さんは僕の頬を思い切り叩いた。
「何をするの!?」
菜々子さんはニコッと笑って「隠し事をしているのがバレバレ、怒らないからちゃんと言いなさい。それと二度目は手のひらではなくてグーで行くよ」
「分かりました分かりました。ちゃんと話すから」
「じゃあ、話して貰いましょうか」
僕はエイトマンに恋をしている光さんの事で、まだ光さんに対して、光さんに恋をしているエイトマンが羨ましく思って、僕の気持ちが菜々子さんという素敵な彼女がいると言うのに光さんが心残りだと言った。
僕が言い終えると、「良くできました」と言って僕の胸元を掴み、菜々子さんは僕に口づけをした。
菜々子さんと口づけをするのはこれで二度目だ。
それに長いディープキスだった。
あまりにも衝撃的な事だったので、僕はびっくりしたと同時に、心臓が破裂するほど、鼓動は高鳴った。
いったん菜々子さんは僕から離れて「どう、アツジが光さんを思う気持ちと、あたしがアツジを思う気持ちはあたしの方が勝っているのよ。
それにどうせこんな事だろうと思ったよ。
それとアツジ、無理はないよ、光さんは私よりも素敵な女性だから。
でもあたしがアツジを思う気持ちを舐めないで!」
きつい目つきで、僕を見て、菜々子さんの気持ちを思い知らされる。
「ごめんなさい」
謝る以外に言葉が見つからない。
そして菜々子さんは手を叩いてにこりとかわいらしい笑顔で「はい。この話は終わり。今日はアツジが仕事から帰って私にジュースをおごるんだよね」
「はい」
ジュースどころじゃないが、僕はとりあえず返事をする。
「何をおごって貰おうかな?」
何て言っているが、何かお互いにすっきりした気持ちになる。
とりあえず自販機まで行って、僕は自販機にお金を入れる。ここの自販機、隣にコンドームの自販機があるんだよな。
すると菜々子さんはコンドームの自販機にお金を入れて、一つ買った。
「何を買っているの菜々子さん!」
「アツジ、あたしを女にして。光さんを吹き飛ばすような女に・・・」
菜々子さんは真剣な目つきで僕に訴えかける。
「そういうのってもっとお互いの事を知り合ってからするものでしょ。そんな軽い気持ちで・・・」
「あたしがアツジに対する気持ちは軽くはないわ。
アツジ、今日はアツジの家に泊まるから、覚悟して」
菜々子さんは本気だ。
でもまだ、僕には心の準備が整っていない。
菜々子さんをその気にさせたのは僕だ。
その気にさせるのは僕しかいない。
だから僕は「分かった」と覚悟を決めて僕が住む家に向かった。
これも全部エイトマンのせいなのかおかげなのか、混乱するほど戸惑った。
すると菜々子さんは「光さんはエイトマンにぞっこん中よ」
「えっ!何で!?」
「それは女の勘よ」
「マジで!?」
「うん。マジで」




