本当の目標は自分で探す。
家に戻り、明日は早いのでシャワーを浴びて、歯を磨いて、布団の中へと入っていった。
「夢かあ~」
正直今日は聴覚障害の人と手話が出来ることを楽しみにしていた。
けれど、麻美ちゃんは楽しそうに手話をしていたが僕と菜々子さんは正直楽しくなかった。
そういえば、豊川先生はいつしか言っていたな。
『これからは楽しく仕事をする時代になってきている』と。
英明では楽しそうにゲームをしている人や外に遊びに行っている人が多い。
僕と菜々子さんは『そんなに遊んでいて将来が不安にはならない』のかと以前話し合った事があった。
図書館の司書のバイトをしている光さんの事を思い浮かべると、何だか麗しくかっこ良く見える。
光さん言っていたけれど、今は司書のバイトだけれども高校を卒業して、夜学の大学を卒業して、司書の資格を取るつもりで今、図書館の司書のバイトをしている。
何となく、数学の教科書を手に取り、寝ながら眺めていると、問題は解けるがこんな問題を解けたって、何の意味があるのかと僕は疑問に思い、勉強をする意欲が薄れていってしまう。
そして僕は人知れずため息がこぼれてしまう。
父親は某一流大学を卒業して、それを誇りに思い、会社でも取り締まりとしてバリバリと働いている。
父親は嫌いだが、そんな父親はやはり悔しいが輝いて見える。
さて明日はまた早いから寝よう。
朝起きて、軽く朝食をとって、今日も新聞配達の仕事に向かう。
いつものように菜々子さんとその同僚達と顔を見合わせるが、夢の事で僕が悩んでいることを、菜々子さんに看破されてしまう。
それに僕も菜々子さんが夢のことで悩んでいることを僕は看破した。
新聞配達の仕事も終わり、今日は僕が仕事を先に終わらせて、菜々子さんからジュースをおごってもらう。
いつもなら悔しそうに変な飲み物を手渡してきたが、今日は僕の好きな蜂蜜レモンをおごってくれた。
いつもはツンツンで僕に対応しているが、今日の菜々子さんも僕もおかしい。
それはきっと麻美ちゃんが誇っていた夢にあるんだろうなと思った。
「じゃあ、今日も図書館で待っているから」
そういって菜々子さんは自転車をこいで帰っていった。
いったん家に戻り、朝のニュースを見る。
天気予報を確かめて、今日は曇りのち晴れと報道されていた。
どうやら傘は必要はないな。
そして菜々子さんと待ち合わせている光さんが司書のバイトをしている図書館の前に到着した。
開業十分前、すでに菜々子さんは到着していた。
「やあ、菜々子さん。今日も早いね」
「そう?」
「うん。そうだよ」
そして光さんが図書館の入り口の児童ボタンの扉のスイッチを入れて、図書館は開く。
ちなみに図書館の前に待機している人は、年寄りばかりで、僕と菜々子さんは最初は違和感を感じていたが、次第にそれもなくなってきたが、また僕は改めて違和感を感じてしまった。
僕と菜々子さんはいつものように、互いに切磋琢磨して勉学に励んだが、今日はなぜかいつもと違っていた。
「ねえ、アツジ、何か身が入らなくない?」
「僕も思ったよ」
そう僕は思ったんだ。
教科書には僕達の夢の道しるべは載っていないと。
その事を菜々子さんに言ったら、菜々子さんも僕も愕然とした。
「「はあ~」」
と僕と菜々子さんのため息がシンクロした。
何か勉強に身が入らずにいつもは互いに切磋琢磨して勉強をしている時が流れるのが早いと感じられたが、こうゆう風に退屈な時間は長く感じて、良からぬ事を考えてしまう。
だから僕は菜々子さんにそんな良からぬ事を考えたく無かったので、僕はマンガコーナーにてマンガを読み始めた。それに続いて菜々子さんもマンガを読み始めた。
ドラゴンボールは面白いなあと思いながら、僕は勉強をさぼって読んでいた。
菜々子さんは何を見ているのだろうと気になってみてみるとワンピースを見ていた。
「菜々子さん。ワンピース面白い?」
「うん。面白いよ、アツジも読んでみる?」
「後で読むよ」
やっぱりマンガは面白いな。
でも僕達は学校も行かずにこんな事をして良いのだろうかと思ってしまう。
僕達の中でスランプが起こったのかな?
そんな僕達に光さんが現れて「あれ、今日は二人とも勉強はどうしたの?」
やばい、怒られるかもしれない。
「えーと、その、あの」
言い訳の言葉も思いつかない。
そこで菜々子さんが、「私達がしている勉強って本当に役に立つのかと思うとなぜかやる意欲が失せて」
「なるほど」
「あの光さん。光さんは図書館の司書の仕事をして誇りに思っているって言うけれど、それはどうしてですか?」
「どうしてって言うと本が好きだからかな、それに幼稚園児達の子に紙芝居をして喜んでもらえたり、学校が嫌なら図書館に来てもらって、楽しんでもらいたいと思って、私は通信制の高校に通って、大学を目指して勉強しているのかな」
そこで僕が「なるほど、それが目標で勉強がはかどっているんですね」
「そうよ。あなた達も何か目標を立てた方が良いかもしれないね」
「その目標はどうやって見つけるんですか?」
「それは自分で探すしかないよ」
「そうですか、自分で探すしかないんですか?」
「そういった夢や目標は与えられる物じゃなくて自分の足で歩いて探して行くものだからね」
「じゃあ、光さんはどうやって図書館の司書になりたいと思えるようになっていたんですか?」
「昔から私は目立たない子だった。運動も苦手だし、それに勉強はそこそこ出来たけれど、いつも決まって、学校帰りに図書館に寄って図書館が私の居場所だと思ったの。もう一つ私の夢を教えてあげようか?」
「是非」
「私のもう一つの夢は小説家になる事」
「小説家になるってすごい夢を持っているんですね。良かったら僕にその小説を見せてくださいよ」
「ええっ、恥ずかしいよ」
目を泳がせて、さすがに自分の書いた小説には光さん自信がないと見えた。
「光さん。小説ってどう書くんですか?」
「小説なんて誰でも書けるわ。その気になればね」
「僕も小説が書けますか?」
「その気になればね」
その気になれば書けるか。
「僕も小説を書いてみます」
そこで菜々子さんが「私も」
僕と菜々子さんは燃えるような意欲に満ちていて互いに小説を書いて、どちらの小説が面白いか勝負することになってしまった。
小説で人を感動させるなんて素晴らしい事だ。
善は急げと言う。
僕は空白のノートを取りだして、再び勉強部屋で小説を書こうと思ったが、どんなストーリーが良いか悩んでしまう。
でも書き出したらペンが止まらない。
この僕が今描いている小説が面白いのかどうか分からないが、とにかく書いて書いて書きまくってやる。
隣で菜々子さんも小説を描いている。
彼女も燃えている。
そんな彼女を見て、また互いに切磋琢磨して僕達は小説を描いた。
燃える。勉強をするよりもすごく燃える。
この僕が描いている小説が面白いのか面白くないのか分からないけれど、とにかく書き出したらペンが止まらない。
時間を忘れて、気がつけば、午後二時を示していた。
「菜々子さん。そろそろ新聞配達の仕事に出かけなきゃ」
「あら、もうそんな時間?」
僕と菜々子さんは光さんに一言挨拶をして、お礼を言って配達所に向かった。
光さんにしたお礼とは、僕達に燃えるような夢を教えてもらったからだ。
光さん、ありがとう。僕達にこんな素敵な夢を見せてくれて。
でも光さんはそんな僕達を見て、ちょっとだけ、笑顔に曇りがあったことは僕は見逃さなかった。
もしかしたら、光さん僕達の小説を書く意欲を見て嫉妬してしまったのかもしれない。
僕も、菜々子さんと勉強をしている時、光さんに小テストをしてもらい、僕が負ければ、嫉妬してしまう。
光さんはそれと同じになったんじゃないかと僕は光さんが心配になってきた。
僕と菜々子さんは光さんには命の恩人でもあり、そんな光さんを踏み台にしているみたいで何か、僕の心が曇り始めた。
それよりもこれから始まる新聞配達の仕事をして、僕達は行かなくてはいけない。
「さあ、菜々子さん、今日もがんばろう」
「うん。アツジもね」
意気揚々と僕達は互いに鼓舞して、光さんを踏み台にしたことが心にちくりとするが、とにかく今は新聞配達の仕事をしてまた、小説の続きを書き上げたい。




