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菜々子さんのオムライスと心配する光さん

 菜々子さんは僕のうちの台所に立って、早速料理を作り始めた。

 僕は寝て待っていたが「何か手伝える事ない?」と僕が言うと「病人は寝ていなさい」と言われて、僕は菜々子さんの手料理を待つこととなった。


 何か、ケチャップの香ばしい匂いがしてきて、これはオムライスだなと思って、楽しみにしていた。


 菜々子さんはオムライスをお皿に盛り、僕の所まで運んできた。


「おいしそうなオムライスだね」


「そう?」


 菜々子さんが照れているのが分かる。


 僕がスプーンを手に取り、オムライスをすくって食べようとしていると、菜々子さんは僕の顔をマジマジと見つめてきた。


「どうしたの?菜々子さん」


「何でもないわよ。早く冷めないうちに食べなさいよ」


 どうやら僕がおいしく食べるか、ジッと見つめていたみたいだ。

 そして菜々子さんのオムライスを食べると、本当においしく思わず「おいしい」と言ってしまった。


「本当に!?」


 菜々子さんはキラキラな笑顔でこちらに向けてきて、「本当においしいよ」と言うと菜々子さんは咳払いをしていつものツンツンした表情に戻り「当然でしょ」と開き直った。


 僕はそれがおかしくて笑っていると、「何笑っているのよ」と菜々子さんは顔を真っ赤にして僕に訴えて来た。


「だって僕がおいしいと言ったら、菜々子さん本気で喜んで、開き直ってツンツンするんだもん」


 すると菜々子さんは目を細めて「あなたシメられたいの?」とそんな菜々子さんを見ていると、怖かったので「ごめんなさい」と謝った。


「さあ、無駄口叩いてないでさっさと食べなさい」


 菜々子さんも自分用に作ったオムライスを食べる。


 僕においしいと言われて本当に嬉しいんだな。


 これが本当の幸せなんじゃないかと僕は思った。




 食事も終わって、僕は夕方の新聞配達に行くと言ったら菜々子さんに止められた。


「大丈夫だよ。それに僕が休んだら、みんなに迷惑がかかっちゃうよ」


 僕は新聞配達の仕事に責任を感じている事を菜々子さんに伝える。

 それに一日でも休んでしまったら、生活費に支障が出る。


「分かったわよそこまで言うなら、行っても良いよ」


「ありがとう」


「でも」と言って僕に指を突きつけ「これからは私に嘘はつかないようにね」


 そうだった。今朝新聞配達の仕事で出会ったとき、階段に落ちたなど、僕の嘘を菜々子さんは一瞬で看破した。

 光さんと同様に菜々子さんには嘘は通じない。


 そんな光さんの事を思っていると、スマホに光さんから連絡があった。


「はい。もしもし光さん?」


「今日はどうしたの?あっ君も菜々子ちゃんも来ないから心配しちゃったよ」


「心配には及びませんよ」


 と言うと菜々子さんが僕のスマホを奪った。


「光さん?菜々子ですけれども」


「菜々子ちゃん、今、アツジ君と一緒なの?」


「ええ、一緒です。アツジに大変な事が起こって」


 そこで僕が「ちょっとやめてよ、光さんに心配かけちゃダメだよ」と言ったが、そんな僕を無視して菜々子さんは「光さん、アツジの奴、父親に、半殺しにされたんですよ」


「えーーー」


 光さんの驚く声が通話中の僕のスマホから聞こえてくる。


「ちょっと菜々子さん」


 僕は通話中の光さんとの僕のスマホを奪い返した。


「光さん、殺されてはいませんから」


「でもひどいことをされたんでしょ」


「ええ、まあ」


 光さんに心配をかけてしまったことに罪悪感でいっぱいだった。


「何をされたのあっ君」


 光さんの声からして、凄く心配そうな声だった。


「父親が僕の家にあがってきて、戻ってこいと言われたんだけど、それを拒否したら、暴力を振るわれて」


「何でそれを私に相談しないの!?」


 と話がややこしくなってしまった。


「相談なんてそんなの迷惑でしょ」


「迷惑じゃないよ、あっ君の幸せは私の幸せでもあるんだから」


 と大げさな事を言う光さん。


「とにかく待っていて、私があっ君の父親に言ってきかせてあげるよ。それでもダメだったら、警察に言うしかないわね」


 光さんは僕の彼女でもないのにこんなに一生懸命に僕のことを心配してくれることはありがたかったが、心配はさせたくなかった。


 本当にどうしよう?


 でも考えてみれば僕だけで解決できない問題なんだよな。


 誰にも言えずに、この問題を放置していたら、また父親は僕の家に勝手に上がり込んで、また罵声と暴力を振るわれて、実家に帰るように言われるだろう。

 それだけは何としても避けては通れない道であろう。

 僕は実家には帰りたくない。

 自分の事しか考えられない親の世話になんてなりたくない。

 親父とお袋の顔を思い浮かべるとむかっぱらが立ってきて、今にも殺したい気分でもあった。

 でも本当に殺してしまったら、僕は間違いなく少年院につれて行かれるだろう。

 そんなの嫌だ。


 せっかく光さんや菜々子さんに英明塾のみんなと出会えたのに。


 新聞配達の時間まで僕と菜々子さんは手話の勉強をしたり、英語や数学の勉強もした。


 そして新聞配達の仕事の時間になり、僕と菜々子さんは自転車に乗って配達所まで行った。


 新聞を配りに行く時、「絶対に気をつけてよ」と菜々子さんに念を押された。


「分かっているよ」


 と僕は菜々子さんの気遣いが嬉しかった。


 とにかく新聞配達をして、生活費を稼がなくてはいけない。


 菜々子さんに心配をかけてしまうなんて僕も男としてまだまだだと思う。

 

 新聞を配達している途中、やはり、父親から受けた痛みが多少残っていたが、我慢できない程の物じゃないと思えた。


 新聞配達を終えた時には、もうへとへとだった。

 いつもはこんなには疲れないのだが、父親につけられた痣が原因でちょっと無理をしてしまったかもしれない。

 でも今朝は大丈夫だったが、夕方になって痣が疼き出すなんて。

 配達も終えて帰ってくると、菜々子さんは僕の事を事務所で待っていた。


「お帰り」


「ただいま」


「本当に大丈夫だったの?」


 僕はニコッと笑って「大丈夫だよ」


「またそうやって無理をするんでしょ。本当にやめてよね」


 そう言って菜々子さんは僕の元までやってきて、僕の好きな暖かいレモンジュースを手渡してくれた。


「今日は僕が負けたのに」


「あなたが怪我を負っているのに、勝負なんてフェアじゃないでしょう」


「ありがとう」


「さあ、帰ろう。今日は私が一日、アツジの家にいてあげるから」


「ええ、そんなの悪いよ」


「私達恋人同士でしょ。だから私がアツジを守る」


 そう言う事で、菜々子さんが今日僕の家にお泊まりする事になってしまった。

 仕方がないことだもんね。

 もし父親がまた僕の部屋で待ち伏せしていたら、どうしよう。僕は菜々子さんを傷つけたくない。

 そんな心配をしながら、僕の家に戻ると、光さんが僕の家の前で待っていた。


「お帰りあっ君」


「光さんどうして?」


「あっ君が心配だから」


 そこで菜々子さんが「アツジは私が守ります。だから光さんは心配しないで良いですよ」


「別にあなた達の関係に首を突っ込む事はしないよ。私はあっ君に幸せになって欲しいから」


「そうですか」


 と菜々子さんは光さんの言っている事は信じるみたいだ。


 光さんと菜々子さんは僕の部屋に上がり込んで僕は光さんに「父親と感動手続きを出来ないでしょうか?」


「それは無理よ。日本には親子上は勘当しても、法的には認められていないみたいなのよ。だから今度あなたの父親が殴り込んできたら、警察に言うしかないわ」


「だったら、警察に言ったら、僕は未成年で実家に強制的に返させられてしまうんじゃないですか!」


「だから、本当にヤバくなったら、逃げましょう。それしか方法はないわ」


「逃げるって言っても僕はどこに逃げればいいんですか?」


 そこで菜々子さんが「私の家に来なよ。私ならアツジの事を匿うだけの事はあるわ」


「そんな菜々子さんに迷惑はかけられないよ。菜々子さんには母親がいるんでしょ」


 そこで光さんが「それは名案だわ。菜々子ちゃんの家に匿ってもらった方が良いわ」


「大丈夫だよアツジ、あなたの事をお母さんに言ったら是非会いたいって言っていたから」


「会うのと、住み込む事は別だよ」


「だったら、あっ君は児童擁護施設に行くしかなくなるわ」


「そんな~」


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