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僕にしか甘えられない菜々子さん

 妹が作り置きした、カレーはおいしすぎて、残さずに食べてしまった。

 でも一人で食べるよりも桃子と食べた方がおいしいんだろうな。

 このカレー光さんや菜々子さんにも食べて貰いたい。

 後かたづけが済んでもう僕はお腹いっぱいで動けない状態だったのでベットの上で眠ることにした。


「はあ~今日も一日充実したな」


 人知れず呟き、僕は少し寂しかった。


 その寂しさを紛らわすためにメールで菜々子さんに『お休みなさい。今日もお疲れさま』と打っておいた。


 僕は菜々子さんからのメールを待つ。

 もう三分がたち、まだ来ないか見てみると、まだ菜々子さんはメールを読んでいない事がわかり、少し寂しかった。

 

「早く明日にならないかな?」


 僕は一人になる夜がいつも嫌いだった。

 だったら、偽物でも良いから両親のうちに戻った方が良いとさえ考えてしまうが、そんな事はしたくない。

 うちの両親は僕の事よりも世間体を気にする方だから。

 良い結末を終えたけれど、小柳との事件があって僕は良かったと思える。

 それで両親の本性が分かったのだから。

 時計を見ると九時三分前を示している。

 新聞配達の時間は早いのでこれで僕は眠ることにした。





 ******   ******




 けたたましくベルが鳴り、僕は目覚める、まずは冷蔵庫から眠気覚ましの三十円の買える缶コーヒーを飲み干した。

 そしてガスに火をつけて、ベーコンエッグを作って、それを焼いたトーストに乗せて食べる。

 我ながらおいしい。

 そして牛乳を飲んでいざ新聞配達に向かう。


 今日は雨などは降っておらず、仕事もスムーズに終わりそうだ。


 新聞配達の仕事場に到着すると、菜々子さんはもうとっくに到着している。

 それに同僚達も。

 そんな同僚や菜々子さんに挨拶をして、まずは新聞にチラシを入れる作業をした。

 これも慣れてきて楽しくなってきた。

 そして今日も菜々子さんとどちらが先に仕事を終えるか缶ジュースをかける。

 仕事している最中、僕は半袖にジーパン姿だったから、かなり寒さを感じた。

 もう夏の名残も終わってしまったんだよな。

 そんな事は気にしていられない、ちゃっちゃと仕事を終わらせて菜々子さんよりも早くしなきゃだし。

 ジュース一本がかかっているんだから。

 寒さなんて自転車をこいでいれば、暖かくなってくる。

 この団地でラストスパートだ。

 ラストスパートが済むと、新聞配達の場所に戻ると、今日も菜々子さんよりも早くついてしまった。


「よっしゃー」


 と言うと、同僚の人が、「今日も菜々子ちゃんとジュースをかけて新聞配達の競争をしていたのか?精が出るねえ」


「あははは」


 ここは笑うところであり僕は笑った。


 そして一分後に菜々子さんは現れて、新聞配達所に先にいる僕を見て、悔しそうにその威圧的は視線を僕に送られた。

 新聞配達の仕事は時給じゃなくて、ノルマなので、早く終わればそれなりのお金がもらえる。


「早かったじゃないのよ」


 威圧的な視線で僕を見る。


「今日も菜々子さんが負けたから僕にジュースおごりね」


 舌打ちをする菜々子さん。


 そんな不機嫌な菜々子さんだが、同僚達に女神様のような微笑みを与えて、「お疲れさまでした」と一人一人に言う。

 同僚達の事をどう思っているか分からないが、それでも僕以外の人とはその笑顔を絶やさない。

 

 それで僕は気づかぬうちに気づいてしまったのだ。

 菜々子さんは僕だからこそ、そのふてくされた顔が出来るんだって。

 いつか英明で喧嘩が起きた時、相手を傷つけたのに勝ち誇っていた男子に向かって菜々子さんは笑顔で対応していた。

『人の痛みもわかりなさい』って。

 でもその子は乱暴で『うるせー』と言って二度と英明塾に来なくなったと麻美ちゃんに聞いた。

 乱暴者のあの子の名前を忘れてしまったが、その後、菜々子さんは僕に泣きついてこう言った『怖かったよ』と。

 それで思ったんだ。菜々子さんは僕にしか甘えられない人だって。

 僕はそんな菜々子さんを心から愛している。


 それはそれで良いとして、今日も僕が菜々子さんよりも仕事を終えたので、缶ジュースをおごって貰うことに。


「菜々子さん、今日も僕が勝ったから、缶ジュース一本ごちそうしてね」


 また舌打ちをして、自販機に向かう。

 それについていくように僕もついていく。


「何ついてきているのよ」


「だって菜々子さん、また変なの僕に飲ませようとしているかもしれないから」


「じゃあ、あなたから先に選びなさいよ」


 と言って僕に百円を手渡した。


「サンキュー」


 と言って自販機に百円を入れた瞬間、菜々子さんは瞬時に勝手にボタンを押した。


「あっ手が滑った」


「菜々子さん!?」


 ボタンを押したのは缶コーヒーのブラックだった。

 僕はブラックは飲めない。


 菜々子さんは嫌みったらしい笑みを浮かべながら、「ごめーん、手が滑って、ブラックコーヒーを押してしまったよ」


「わざとでしょ!」


「わざとじゃないもん」


 ちょっとムカつくがこれも菜々子さんの魅力の一つなんだよな。

 僕は仕方なく、缶コーヒーのブラックをとって渋々飲んだ。

 やっぱりブラックはきつい。


 仕事が終わるのは午前七時頃で、そこから、いったん菜々子さんと別れて、それぞれ自宅に戻る。

 僕はニュース番組を見ながら、歯ブラシをしていつも図書館に九時に待ち合わせをして待っている。


 そして歯ブラシを終えて今日の天気予報は晴れで、傘はいらない。

 八時半に家を出た。


 今日も菜々子さんをライバルに光さんが司書を勤める図書館で勉強を始める。


 図書館が開くのは九時だ。

 今は九時十分前で、図書館の入り口で待っている。

 五分が経過して、菜々子さんが来た。


「アツジ、今日も気合い入っているね」


「当たり前さあ、今日も負けないよ菜々子さん」


「アツジ、勉強も良いけれど、勉強は午前中に切り上げて午後から英明に行かない?」


「別に良いけれど」


「じゃあ、決まりね」


 そこで光さんが図書館の司書のバイトをしているので、開館いつも光さんがしている。


 光さんはおどけて「ようご両人、お待ちしてましたぜ」何て僕と菜々子さんの場を和ましてくれた。


 待っている人達はみんなお年寄りばかりだ。


 早速図書館に入って、勉強を始める。


 いつも菜々子さんのやる気オーラに圧倒されて、僕は勉強を頑張らないといけないと言う気持ちに駆られてしまう。


 平和だ。


 それに幸せだ。


 この幸せはいつまでも続いてほしい。


 でも光さんは言っていたが「誰にだって波瀾万丈の人生を送る事を覚悟しておけば、困難を乗り越えられやすいと言っていた」


 それに光さんはこうも言っていた「誰もが波瀾万丈の人生だって。平凡を望むことはあってはいけない」と。


 光さんの言葉は千の言葉よりも心に刻まれて行く。


 そうだ。誰でも波瀾万丈の人生を送っている。平凡なんて考えてはいけないんだ。

 特に僕と菜々子さんは普通に学校に行っていないならなおさらだ。

 勉強も大事だが、光さんが教えてくれた事の方が重要だと思う。


 それともう一つ、僕も禁じられた遊びをギターで弾けるようになったんだ。

 ユーチューブを見ながら、それと妹にも教わりながら。

 そういえば妹の桃子は菜々子さんが彼女だと知ったら、怒って帰っちゃったしな。

 いつか桃子にも菜々子さんの優しさを知れば、気に入ってくれるはず。

 菜々子さんは僕にだけにしかその不機嫌な態度を取らない。

 そういえば桃子は菜々子さんの威圧的な視線を喰らって怖い女だと勘違いしていたっけ。

 その時はタイミングが悪かったのだろう。

 そんな事を考えながら勉強をして、光さんが僕と菜々子さんの元へとやってきて、「そろそろお昼にしましょう」と言ってきた。

 本当に勉強に没頭していると時間なんてあっと言う間にすぎてしまう。

 だってもうお昼なんだぜ。


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