愛こそパワー
本当に大変な事になってしまった。
帰り道、夕日を浴びながら、僕は菜々子さんの事を思いどうしたら良いのか困惑してしまう。
菜々子さんが僕のことが好きだなんて・・・。
それに真面目でひたむきなところが好きだなんて。
僕はただのいじめられっこだ。そんな弱い僕が菜々子さんを守る自信がない。
僕は守るよりも守られるような人が好きなのだろうか?
申し訳ないが僕は光さんに守られるような人が好きなのだろうか?
そんなんじゃ真の男にはなれはしない。
僕はもっと強くなりたい。
そんな事よりもどうしよう?菜々子さんが僕の事が好きだなんて、どんな答えを出せば良いのか?
僕は図書館の女神事、光さんの事が大好きだ。
でも菜々子さんは気は強いがそこそこの美人さんだ。
この生きてきた十四年間で告白などされたこともない。
家に到着して、ドアを開けると、妹が出迎えてくれた。
「お帰りお兄ちゃん」
にこにこと嬉しそうに僕に言いかける。
「ただいま」
と僕は言つも通り挨拶をする。
「どうしたのお兄ちゃん。目が泳いでいるけれど」
「泳いでいた?」
「うん。クルクルっと」
「そうか」
靴を脱ぎ部屋に戻ろうとすると妹は「お兄ちゃんまた何かあったんでしょ」
妹は鈍感な僕よりも鋭いところがある。
「何かあったか、言いなさいよ」
「お前に言ったって、何もならないよ」
「何よそれ」
そこで母親が「アツジ、ご飯出来ているわよ」
そうだ。丁度晩飯の用意が出来ていたんだ。
お腹も空いている。
とりあえずご飯は食べることにしよう。
居間に行くと、父親が「どうしたアツジ、ちゃんと勉強はしているか?」
「しているよ父さん」
「なら良い」
メニューはすき焼きだった。今日ごちそうだ。
食べている最中に頭の中身は今日告白を受けた菜々子さんの事でいっぱいだった。
「お兄ちゃん、手が止まっているよ。ちゃんと食べなさい」
「そうだ桃子の言うとおりだ、お前小学生にそんな事を注意されるんてみっともないぞ」
心配する妹、厳しく言う父親。
もう何がなんだか分からなくなり、僕は箸をおいてごちそうさまと言って、部屋に戻っていった。
やばいな、また妹に心配される。
勉強でもしようと思ったが、今日の事でそれどころではなく、英単語を覚えようとしたが、まるで頭に入ってこない。
菜々子さんが僕の事が好きだなんて・・・。
でも僕は光さんが大好きだ。
でも光さんとは師弟の関係で恋愛対象にはならない。
でも光さんには彼氏がいない。
だからチャンスはあるのかもしれない。
でも菜々子さんもかなりの美人で僕と同じ年、良いカップルにはなれるかもしれないしな。
光さんの事をあきらめろと言いたいのか?
僕はどうしたいんだ。
このままじゃあ、机上の空論になってしまう。
考えないと。だったら菜々子さんで良いじゃないか。
でも恋人同士になるとあんな事やこんな事も出来る。
そんな事を考える自分を戒めるように、何を考えているんだと思い、自分の横っ面を叩いた。
今日も眠れそうにないな。
でもこれはチャンスなんじゃないかな僕に菜々子さんと言う彼女が出来たら、本当に幸せだろうな。
彼女は美人だけれども、凄く気の強い女だ。
でも彼女は優しいところもある。
僕だけにそのナイフのような威圧的な視線を向けて、僕を目で殺されかけた事はある。
あのきつい目で見られるのは勘弁して欲しいよな。
色々と菜々子さんの告白に対してどうしようか考えていると、妹が僕の部屋のドアをノックしてきた。
「お兄ちゃんいる?」
「どうした桃子?」
妹が部屋の扉を開いて、人生ゲームを持ってきた。
「お兄ちゃん、桃子宿題終わったから、一緒に人生ゲームをしよう」
今は一人になりたい気分だが、妹のせっかくの行為にあやからせて貰おうと思う。
「良いよ」
人生ゲームを広げて、クルクルとさいを回す。
駒を進めていき、「お兄ちゃん結婚だよ」
「けけけ、結婚!!?」
「結婚がどうかしたの?このマスは強制止まりで結婚しなきゃならないんだよ」
「そうなのか?」
僕は思い浮かべてしまう。
ウエディングドレスをまとった菜々子さんの姿を。
結婚かあ、良い響きだ。
「何鼻の下のばしているのよ?」
「いや延ばしていないよ」
「いや延ばしていた。もしかして、フリースクールで好きな人でも出来たの?」
妹の勘は鋭い。
図星をつかれて僕はどのようにごまかそうか、考えていると妹は「お兄ちゃんには無理だよ。仮にその好きな人とつきあってもいじめられっこのお兄ちゃんはその人を守る力さえないんだから」
「そんな事はないよ。僕だって恋人の一人守ることだって出来るよ」
「お兄ちゃんは守ると言うより守られる人の方が似合っているよ」
「何でそう決めつけるんだよ!」
「だからお兄ちゃんはあたしが守ってあげる」
気持ちは嬉しいが妹だぞ。妹に手を出したら、父親に殺されてしまうだろう。
「あーもう人生ゲームにも飽きてきたから、桃子、今日はもう寝なさい」
時計を見ると午後十時を示していた。
「分かったわよお兄ちゃん。そんなプリプリ怒っちゃって」
「別に怒ってはいないよ。とにかく今日のところは寝ろ」
「分かっているよお兄ちゃん」
妹は人生ゲームを片づけて、僕の部屋から出ていった。
妹の言うとおり僕は守るよりも守られる方なんだな。でもそんなの男として、僕自身のプライドが許さない。
「はあ、今日も眠れそうにない一日になるんだろうな」
僕の本命の光さんと僕を好きになる菜々子さん。
だったら光さんに振られたら、菜々子さんに変更すれば良いんじゃないか?
そこで僕は戒めのビンタを自分に喰らわした。
何を考えているんだ僕はそんな事をしたら男として最低な事となってしまうだろう。
考えろ僕。
僕を好きになってくれる女性、菜々子さん。
だったら、菜々子さんで良いじゃないか。
その時、僕は心の整理がついてしまっていた。
明日早速、菜々子さんの返事にOKを出そう。
次の日の早朝、僕は家族団らんで朝ご飯を食べて、英明塾に向かった。
塾にたどり着き、僕は息を飲んで、中へ入っていった。
勉強室にはもうすでに菜々子さんはいた。
「おはよう」
すると菜々子さんは僕の目をギラリと見て、「返事は?」と単刀直入に聞いてくる。
「よろしくお願いします」
「何その返事、OKって事?」
「はい。この木之元アツジは菜々子さんを精一杯守らせて貰います」
すると菜々子さんは何がおかしいのか笑いだした。
「何がおかしいんですか?」
「だって、私への返事にそんなにかしこまっちゃって」
「そんなにおかしいですか?」
「おかしいけれど、ありがとう。あたしの方こそよろしくね」
菜々子さんって笑うと凄く魅力的でかわいい。
僕はそんな魅力的な人に好かれるなんて、なんて幸せなのか嬉しく思ってしまう。
これも光さんのおかげだ。
光さんがこの英明塾を紹介して貰わなければ、こんな素敵な女性に好意を抱かれる事はなかった。
ありがとう光さん。あなたには感謝仕切れないほど、感謝の念でいっぱいだ。
そこで僕は「さあ、今日も一日勉強に励もう」
すると菜々子さんは「ええ、そうしましょう」
そんな菜々子さんと共に勉強していると、凄く捗る。
これはまさに愛のパワーなのだろうか?
次々と数学の問題集を片づけた。
今日の僕はさえている。
こんなに勉強が捗るなんて。
方程式、英語の問題集。歴史、科学、何でもこいや。




