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負けるものか!

 僕ははめられたのか?

 いや光さんは真摯に僕と向き合っているからそういう事はないだろう。


 そこで光さんが「ここは私が高校に行くときに親に勧められて来たんだ」


「そうだったんですか?」


「だからあっ君にも、図書館がない日とか、図書館で勉強に疲れたら、ここを利用してもらえれば良いと私は思うんだけど。

 ここにはいじめる人はいないから、ここで仲間を作るのはどうだろう?」


 友達か?小中学校の時ろくな友達しかいなかったからな。イスに画鋲を仕掛けたり、雑巾の水を飲まされたりしていつも死にたいと思っていた。

 でも僕は図書館にしか居場所はない。

 いっそここで勉強がてら仲間を作れるのはどうかと思うけれど、何か自信がないな。

 それに月謝だって高いんだろうな。

 僕が色々と不安な事や明るい事を考えている僕に光さんはニコッと女神様スマイルで僕の目を見た。


「無理にとは言わないわ。体験も出来るから、それから理解してくれたお母さんやお父さんとも話し合って決めれば良いと思うから」


「そうですか」


「私も一応ここの生徒なんだ」


「そうなんですか?」


「今日は私はオフ日だから、今日一日と明日一日つき合ってあげるからさ」


「じゃあ、体験だけで」


 気がつくと、窓際に何人かの人が扉のガラス越しから見ていた。


「新しく入る人かな?」「お友達になれたら良いのに」と何やらささやき会っている。


 それを見た光さんは扉の方へ向かい、「みんな今日から新しい仲間が増えるよ」


 ある男の子が「あれ、光さんの彼氏?」


「そんな訳ないでしょ。私はあの子をサポートしているだけ」


 そこで僕はショックを受けてしまう。

 僕は光さんの事が好きなのに、ああ言うふうに言われてしまうなんて。

 光さんはあくまで僕のサポート役でしかないことに、泣きそうになったがとにかく心配させないように笑顔を取り繕った。


 光さんが「みんなでバスケットでもしよう」


 隣の方の部屋を見てみるとゲーム部屋になっていて、ゲームをしている人達が五人いた。


 その向かい側には目つきのきつそうなかわいい女の子が勉強をしていた。


「菜々子ちゃんもバスケに行かない?」


「私はいかない」


「そう、じゃあ八人でみんなでバスケをしよう」


 近くに亀戸中央公園があり、そこでバスケをするコートがあった。


 四人ずつに分かれて、試合をした。


 そこで僕は感激する。


 チームに入って、僕にパスをしてくれるからだ。

 僕は小中といじめにあい、排泄物扱いされて、ボールをパスしてくる人はいなかった。

 それなのに、ここの人達ったら、僕を仲間意識をしてきて、ボールをパスしてくれる。

 そしてへたくそなシュートをして、見事にボールはゴールへと入っていった。


「ナイスシュート木之元君」


 僕の名前まで呼んでくれた。失礼ながら僕はこの人の名前を知らない。だから「あなたのお名前はなんて言うの?」


「長塚だよ。長塚学」


 そこで光さんが「その子にはね、あだ名があるんだ」


「あだ名はなんて言うの?」と長塚君が言った。


「あっ君って言うの、みんな木之元アツジ君のあだ名はあっ君だから。みんなよろしくね」


「よろしくあっ君。俺は笹森」「俺は高橋、高ちゃんと呼んで」「あたしは宮森麻美、麻美って呼んで」と等々自己紹介をしてきたが、そんないっぺんに名前を覚えられなくて、少しずつ覚えて行こうと思った。


 みんなとバスケを続けて僕は本当に楽しかったし、嬉しかった。

 ここの人達はみんないい人ばかりだ。

 僕はここに通いたいと心から思った。

 それよりも月謝はどれくらいの金額なのだろう?

 高かったらどうしよう。


 そこで光さんが僕の心を読んだのか?「月謝だったら高校に行くよりも安いから安心して良いよ」


「ちなみにいくらなんですか?」


「週四日以上通うと三万円で週三日だと二万五千円で週二だと一万五千円で、週一だと八千円だったかな?」


 本当だ。僕が通う私立中学よりも大分お金が軽減されそうだ。


 でも親は了承してくれるか分からない。


「お金の事なら私が親御さんに頼んで了承してあげましょうか?」


「いや良いですよ。自分の事は自分でしますから」


 親に理解は得たと言っても、親はフリースクールに通うお金を出してくれるか僕は心配だ。

 ここなら僕も安心して通える。


 バスケを終了して、フリースクール英明塾に戻ると、みんなそれぞれやることをしている。

 ゲームしている者や、勉強をしている者、ここでは自由に学ぶことが出来る。楽しく仲間達と一緒にやっていきたい。

 僕は英明に戻ると、すぐに勉強室に入って、勉強をした。

 そこには僕と同じような年齢の女の子だ。

 つぶらな切れ長の瞳に、髪はパサパサのロングへヤーかなりの美人さんだった。

 そういえばこの子の事を菜々子ちゃんと光さんは言っていた。


 何の勉強をしているのか気になって見てみたが、こっそりと見ているのをバレてしまって、きつい瞳を僕に向け「何!?」と言われてしまった。


 凄い威圧感、僕は驚いて「何をしているのかなあ?と思って」


「私は中二で来年受験だから勉強しているの。何か文句でもあるの!?」


「とんでもない。僕は菜々子さんだっけが何をしているのか気になって」


「気にするほどの事はないわよ。私は来年の受験に向けて勉強しているだけ」


「そうなんだ。菜々子さんはどうしてここに来たの?」


「何だって良いじゃない!」


「なら良いんだけど」


 僕はこの菜々子さんがとても苦手なタイプだと思ってあまり喋らない方が良いと思って黙って彼女の前の席に座って、勉強を始めた。


 こんな所で勉強だなんて何か事情でもありそうな気がしたが、僕が知って何になるんだと思って黙って勉強をした。


 とにかく僕も遅れをとらないように、勉強を始めないとな。


 部屋は静かで、菜々子さんが書くシャープペンシルの音しかしない。


 僕も負けていられないぞ。


 今日は数学と英語の勉強をした。


 数学を独学で勉強するには大変な作業だった。


 この連立方程式はかなり難しい。


 明日も予習で頑張らないとな。


 次に僕の大好きな英語だった。


 英語は受動態能動態の勉強をおさらいしただけだ。


 今日の所は終わりにしようと思ったが、後ろで賢明に受験勉強をしている菜々子さんに負けていられないと思って、さらに歴史も勉強した。


 それに理科も科学も勉強した。


 何かこの子に負けていられない。


 勉強室は僕と菜々子さんのシャープペンシルをなぞる音しか聞こえない程、静かだ。


 僕は学習のしすぎで、疲れてきたが、僕は諦めず頑張る事にする。


 諦めないってどう言うことだ。


 そこで扉からノックの音が転がった。


 入ってきたのはここの塾長の豊川先生だ。


「どう?菜々子ちゃんにあっ君、勉強は進んでいる?」


 すると菜々子さんは急に態度を変えて、「進んでいます」と素直な返事をする。


「あっ君はどう?」


「はい。僕も菜々子さんに負けていられないと思って勉学に勤しんでいます」


「私に負けないようにってどう言うこと!?」


 菜々子さんは威圧的な視線を僕に向けて、問いただそうとしている。


「いや、それは、何か菜々子さんには負けていられなくて」


 そこで豊川先生が「菜々子ちゃんのやる気に火がついたみたいだねあっ君」とにやりと笑う。


「まあ、別に良いんだけど、私もあなたに負けてられないと思って勉強したんだから」


 気持ちはお互い様だっただな。


「とにかく今日はこれぐらいにして、今日の献立はカレーだから夕ご飯はみんなで買い出しに行って調理室で作ることになっているから、あっ君も参加してみない?」


「はい。その前に家に食べてくるって言っておきます」


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