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新しい世界

「風が心地いいわね!ついてきて正解だったかもしれないわ!」

 アンラはそう言うと、僕の少し前をぴょんぴょんと飛び跳ねる。一面に広がる草花がさざめいていた。

 少なくとも今の彼女を見て魔王だ、などと疑うものは誰一人としていないだろう。


 魔城から北東に三日歩くと、ずっしりと視界を(おお)う程大きな関所が見えてきた。町の中に魔物が入り込まないようにと設置されたものだ。流石にこれほど大きな町となると、入る際には手厚い歓迎(かんげい)を受けることとなる。

「しかし困ったな。」

 僕らは徒歩で移動している為、アンラを馬車の中に(かくま)うなどの手段も取れない。そのような古典的な方法がここで通用するとも思えないが。しかし姿を見せる以上は念入りに調べられてしまう。


 僕が俯きながら思考を錯誤させていると、知らぬ間に関所の前まで来ていた。まずい。

 ふとアンラが黙ったままであることに気が付き、目を向ける。彼女もこちらを見ていた。

「ここを越えれば王都なのね。楽しみだけれど、少し緊張するわね。」

 微笑む彼女は、無邪気な少女そのものだった。遠足気分も程々にして欲しかったが、気分を壊すのは少し悪い気がして黙っておいた。俺がどうにかしなくては。


 そうこうしているうちに、僕らの前にいた商人の検査が終わった。

「次はお前たちの番だ。手荷物を見せてもらうぞ。」

 役人達の視線がこちらへ向く。僕は役人達の目の前に立ち(ふさ)がり、言った。

「連れが病に侵されているので、先を急ぎたい。申し訳ないが通してくれないか?」

 役人は顔を(しぶ)らせた。アンラの方へ視線を向けてから、答える。

「連れと言うのはそこにいる女のことか?悪いが、病であると言うのなら尚更通すことはできないな。奥で調べさせてもらう必要がある。お前にも来てもらおうか。」

 そういうと、他方の役人が来いと言わんばかりに手招きをする。病と言うのは失敗だった。このままではアンラが魔王であることがばれてしまう。


 仕方ない。こう言うのはあまり好みではないのだけれど。

「おい。」

 僕は鋭い眼光を役人に向けた。役人達は大きく後ずさる。

「き、急に何だ?よもや……何か企みがあるのではないだろうな!」

 役人達は背中に通した矛に手を掛けた。僕は(おく)することなく声を張り上げる。

「貴様……この僕が誰と知っての狼藉(ろうぜき)か!その矛を収めよ!」

 僕は聖騎士の証である聖章を取り出し、目の前に差し出す。本来は王との謁見や、社交場などで身に着けるものだが、それ自身のもつ意味も大きい。

 役人達は(ほう)けた顔を見せるや否や、慌てて居直った。

「し、失礼しました!聖騎士の方とは知らず無礼な真似を……」

「いや、構わない。それで、すぐにでも通してもらえるのか?」

「ほ、本来はどなたであろうと検査をさせていただいているのですが…神に仕える聖騎士様ともあれば。」

 途端に聞き分けがいい。まぁ、聖騎士に粗相があっては王にも咎められかねないからな。当然か。


「それでは失礼させてもらおうか。」

 そう言い残すと、アンラの手を引いて足早に立ち去った。


 町へ向かう途中でアンラが話しかけてきた。

「お礼を言っておくわ。」

「あそこで失態を踏めば、僕の命も保証できない事態だった。仕方ないさ。」

 にこやかな笑顔を向けられ、思わず顔に血が(のぼ)る。

 僅かな間を置いた後、梅雨のような面持ちで再び声を掛けてきた。

「でもあんなやり方、やり辛かったんじゃない?」

「お見通しか。僕は……家柄や地位に甘んじてむやみに権力を振りかざすのは、あまり好きではないんだ。そのようなことが続く権力社会は、僕の信じる正義に反するからね。」

 だからこそ、アンラの理想を信じることにしたんだ。二人でこの世界を変える。


 暫く歩くと、街道が見えてきた。道は石で造られており、王国軍の行進にも余るほどの幅がとられている。両端には所狭しと店が並び、多くの人で賑わっていた。流石は王都、と言ったところだ。

 僕は家に帰るようなものなので、大した興奮は覚えない。が、彼女は違う。アンラへ目を向けるとやはり、今にも飛び出さんとばかりにあちこちを見渡していた。

「少し見ていくか?着いて直ぐ王宮へ向かうのも少々気が滅入るしな。」

 僕が気遣ったのを悟ったのか、アンラは少し顔を赤くした。

「い、いえ。わ、私はあくまで貴方の付き添いよ。行動の決定権は貴方にあるわ。」

 平静を取り繕っているつもりなのだろうが、声に動揺が見られた。魔王が聞いて(あき)れるな。

「わかった。では昼食にしようか。行きつけの店があるんだ。」

 昼食には少し早い時間帯だったが、かと言って王宮の他に行く宛てが決まっている訳でもなかったので、一度どこかに腰を下ろしたかった。


 先程の通りから少し歩いた、細道を入ったところに目当ての店はあった。この辺りは昼間でも人通りが少なく、とても物静かで好ましい場所だ。細道を暫く歩いたところで、立ち止まる。

 店には小綺麗(こぎれい)な木の板に『喫茶(きっさ)フェリテ』と小さく書かれており、壁には植物が這っている。ただここを通っただけでは、店の存在すら気付かれなさそうだ。


 こじんまりとした、店の扉を開ける。来客を知らせるベルが店内へ鳴り響いた。途端に店の奥から、僕の胸辺りまでしかない小柄な少女が、笑顔でぱたぱたと駆け寄ってくる。

「いらっしゃいま……なんだ、ウォーリアさんかー。」

「客に向かって大層な態度だな、アロシア。旅で疲れているんだ、何か精の出るものを作ってくれ。」

「了解しました。それよりそちらの女性は?新しい彼女さんですか?」

 アンラが痛々しい視線をこちらに放つ。慌てて訂正に入る。

「冗談はやめてくれ。ここには一人でしか来たことがないだろう。」

「そうでしたっけ?まぁいいや。私はアロシアって言います。貴女(あなた)は?」

 軽く流された。アロシアの視線がアンラの方へ向けられる。

 アンラも次第に気が(ほぐ)れたのか、笑顔で応える。

「私はアンラよ。訳あって彼に付き添ってるの。まだ会って間もないし、深い関係ではないわ。」

 そうなんだ、と納得すると、アロシアはぺこりと頭を下げて厨房へ戻っていった。僕らも窓際の、椅子が二つ向かい合う席へと腰を下ろした。

インスピレーションで一気に書き上げました。誤字脱字すみません。

何か意見がありましたらどうぞご指摘下さい。

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