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序章

 -何だって……?-


 青年は頬に汗を伝わらせながら、疑念を孕んだ真剣な表情で問いを投げかけた。たった二人で会話をするには広すぎる大広間。空気が重く、張りつめていた。両側面には大きな柱が幾つもそびえ立ち、中央には赤く長細い絨毯(じゅうたん)が敷かれていた。こういった佇まいも、王都にある宮殿や公爵家ではよく目にするが、このような辺境の地では珍しい。そのせいか、彼の手には汗が滲み、喉も乾ききっていた。身体の端から凍り付くかのような錯覚を覚える。


 青年が訪れたのは、近々王都に災厄をもたらすのではないかと恐れられている、魔物の城、魔城だった。

 王都とは距離があるものの、深い森を挟んでいるだけであるため、大都市には珍しく魔物が頻出していた。そこで王都は一人の騎士を派遣した。

 青年の名はウィスタリア・ウォーリア。数少ない聖騎士の肩書をもつ者の一人だった。そのため、余計な犠牲者を出しては民の不満を買うだけだ、という王都の意向で、聖騎士であるウォーリア一人に依頼が託された。魔王をこの世界から永久に消滅させることこそが、彼の使命だった。それが正義であると、誰もが信じて疑わなかった。


「私が嘘を言っているように見えるかしら?」

 ウォーリアの正面の玉座に鎮座する女性が、口を開いた。女性といっても、頭には曲がりくねった大きな角。口を開くたびにちらりと見える鋭い犬歯。腰あたりまで伸びる、淡い影を帯びたような銀色の毛髪。人ではなかった。

「こんな見るに堪えない争いは私の代で終わらせるわ。いづれは魔物と人間が共存できる平和な世界を築き上げるのよ。」

 彼女の眼は、一時もブレることなく真っすぐと僕を見つめていた。僕が今まで憎んできた魔王と、目の前にいる魔王の心象(イメージ)が頭の中で交錯する。騙されてはいけない。

「そんな時代が来るとは到底思えないね。」

「来るわ。そのために私はこの世界を支配する。誰であろうと抗えぬ絶対的な存在となれば、この世界はきっと一つになれるから。」

「多くの民の血が流れることになる。」

「暴力が争いの全てではないわ。話し合うことで分かり合える人もきっといるわ。」

「魔王とは思えない台詞だな。」

 僕は、平静を装った悪魔の皮を剥いでやろうと、躍起(やっき)になってただただ質問を繰り返した。そんな僕にも、彼女は丁寧に、まるで客人をもてなすかのように、想いを述べた。


 分からなくなってきた。何が正しいのか。彼女が言っていることは間違ってないと思う。だったら僕が間違っているのだろうか。

 しばらくの間、静寂が続いた。城の周囲には何もないためか物音一つしなかった。そして僕は、真っすぐな眼で彼女を見つめ返して言い放った。


「君の思い描く世界を僕にも見せてもらおうか!!」


 硬かった彼女の口元が、そっと和らいだ。

初投稿なのでお手柔らかに…

まだまだ拙い文章しか書けませんので、厳しい指摘をしていただけると大変嬉しいです。空想を言葉に起こすのは難しいですね…

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