【幕間】 ある皇太子の明晰夢
「──────────理はこの案件をどのようにお考えですか?」
若手の議員が口角泡を飛ばしながら議場に声を響かせる。
こんな重要な質疑を若手にやらせるとは、かつての最大野党も落ちぶれたものだ。
…ああ、これは夢だな。
「この案件さえ乗り切れば本年度は安心だぜ」
「わかってますよ――――さん。信頼してますからね、残りの案件はお任せしますよ」
「けっ!あんま副総理を働かすんじゃねぇよ」
二人の男がひそひそと喋っている。
「─────総理大臣」
議長の抑揚のない声が呼んでいる。
「この東シナ海での武力展開に関しましては─────」
答弁に立った男は何と答えたのだったか…。
もう20年以上前のことだ…。
「よぉ、聞いたぜ。本決まりだってな、北に行くの」
「はい。東欧に外遊に行ったその後ですね」
今度は官邸内だな…。
場面が急に切り替わるのも夢ならではか。
「なぁ、今回は局長級で良かったんじゃねぇか?」
「せっかくあちらさんが食いついたんだ、せいぜいエサは奮発してスカされないようにしてやれ。そういったのは貴方ですよ、――――さん」
「…そういう意味で言ったんじゃなかったんだがなぁ。まぁ覚悟のうちはわかった。またボウズだと国民にどやされちまうからな、気張っていけや」
国民にどやされる…。
そうだな。
勝手に期待して、勝手に失望して…。
もっと腹芸が上手ければ、躱しようがあったのだろうが。
国民には奉仕してきたんだ…死んだあとぐらい好きにさせておくれよ。
生まれ故郷の同胞だ、嫌だったわけではないが。
だが…今度の故郷はどうだろう?
醤油も味噌も米もない国だ。愛せるだろうか。
新しい故郷を愛すべきか、愛さないべきか。
この逡巡の答えが出たとき、私は…。
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「………ううう」
朝、か…。
船室の窓からさす光が容赦なく顔を焼く。
もぞもぞと寝返りを打ち、日差しから逃げる。
コンコン
「おはようございます殿下、顔を洗って御髪を直しましょう」
洗面器をもって部屋に入ってきたのは傍仕えのフィンだ。
髪が湿っているところを見ると、朝からひと泳ぎしてきたのだろう。
さすがはシーレーン族。海があるなら泳がずにはいられんか。
「どうしました殿下?今日はいつになくぼんやりなさってますね」
私が朝に弱いのを知っているフィンがいうのだから、相当なぼんやりフェイスをしているのだろう。
「いや…なにか懐かしい夢を見ていた気がするのだが、思い出せん」
「懐かしい夢ですか。子供のころの思い出ですかねぇ」
私の体調が悪い訳ではないとわかったフィンは表情を崩して答えた。
子供の頃って…14歳の私はまだ子供だと思うのだが。
「そんなにいい夢ではなかった気がするな」
気もそぞろにそう答え、ぐっと体を伸ばす。
慣れない船旅で思ったより凝っているな。船酔い体質でなかったのだけが救いだが。
もしやこれも海属性の加護か。川船だったら酔ったりするのだろうか。
私は今、船に揺られて帝都から旧都へ向かう途上にある。
今日の朝のうちに到着するはずだから、とっとと着替えてしまわねばな。




